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妹との出会い ~8歳

6歳





気づくと6歳になっていた。平和すぎる。というか、この世界まじでやることない。

テレビもゲームもサブスクもスマホも、というか電気が無い。

娯楽ねぇよ。

家の中の探索が飽きた。庭へ出ての土いじりに飽きた。身体は大きくなったけど、やることがない。

前世ではスマホさえあれば時間なんて無限に潰せた。暇さえあればポチポチスマホをイジっていたのだ。そんな人間がこの世界の娯楽の無さに耐えられるのか。いや、無理。


さらに、マルダおばあちゃんがついこの間退職してしまった。子供が6歳になるとメイドは辞めるものなんだと。

両親はあまり家にいないから、時間で言えば、この世界で一番長く一緒にいた人なんだよなぁ。


最後の別れのときも、マルダおばあちゃんは「まぁまぁ」と言っていた。そして、俺の頭を撫でて「貴方の未来に幸ありますように」と言ってくれた。これは、親が子の一人立ちのときにかける言葉なんだと。マルダおばあちゃんは俺を実の子のように育ててくれた。俺も、本当の親みたいに思っていた。

久しぶりにグスグスと泣いてしまった。幸せの涙だ。


そんな感動の別れの直後に気づいた。話し相手がいないと本当にやることがないと。

今まではマルダおばあちゃんと話していた。分厚い人生経験から生み出される話の数々はとても面白かった。幼馴染との四角関係とか爆笑ものだったな。


今は本当にやることがない。

ただただ、ダラダラしていた。たまに筋トレをしていた。前世では全くしなかったのになぁ。





そんな風に数か月間ゴロゴロしていたが、突然、俺に家庭教師が就くことを知らされた。もう、飛び上がらんばかりに喜んだ。勉強でも何でも、この退屈を紛らわせるなら大歓迎だ。


両親が言うには、貴族は6歳から家庭教師に学び、12歳になると貴族院と呼ばれる学校に通うらしい。そして18歳になると成人である。嫡男なら当主を継ぐ、あとは国に仕えたりすることもあるらしい。


家庭教師を部屋で待っていると、父が知らない顔のおじさんを一人連れてきた。彼が俺の家庭教師だろう。年は父さんと同じかちょっと若いくらいかな。全体的に遊び人のような雰囲気をした、だらしない空気を纏う男である。ぼさぼさの髪に眠そうな眼。父が選んだのだから、悪い人ではないと思うのだが、どうも不安である。


「君がルーカス先輩の息子のケイン君だね。俺はマートン。よろしくね。いやぁ、先輩と違って賢そうだねぇ。」


父さんはうんうんと頷いている。それでいいのか。


「はい、マートン先生。ケインです。よろしくお願いします。」


ぺこりとお辞儀する。父さんはそれを見て安心したように表情を崩すと、「頼む」とマートンさんに一言告げて部屋を出ていった。


部屋の中は俺とマートンさんの二人っきりになる。早速、俺は準備していたお茶を出して、席を勧める。ふふん。できる6歳なのだ。マートンさんは「ありがとう」と一声出して席に座った。

俺も座る。テーブルを挟む形だ。


「お茶ありがとね。じゃあ、改めて自己紹介をしようか。俺はフェスィア男爵家のマートン。次男だから継承権は無いよ。ここに来るまでは貴族院で教授をやっていた。貴族院っていうのは、君が12歳になったら通うことになる学校のことね。これから6年間、俺が君につきっきりで全ての教科を教える。地理学、歴史学、数学、魔法学、貴族学などだね。よろしく。」


驚いた。


まず、前職が教授だったことだ。それも貴族院だ。つまり、彼は貴族であり、そして間違いなく一流の研究者である。そんな人が何故うちの家庭教師なんかやることになったのかは不思議だけど、これ以上の人選は無いだろう。


次に、全教科を教えるというのも驚愕である。とはいえ、前世だと小学校では殆どの教科を同じ先生が教えていたからそうでもないのか?教育のレベルにもよるけど。


最後に、何といっても「魔法」という言葉だ。前世でも言葉はあった。けれど、それはファンタジー。空想だった。それが存在するというのか。


「シュラウト辺境伯ルーカスの息子のケインです。改めてよろしくお願いします。…あの、魔法学というのはどういうものでしょうか?」


初めて、正式な挨拶をする。人と会わないから挨拶する機会がないんだよな。我が家がシュラウト辺境伯ということは最近知った。辺境伯って貴族の中でも結構家格が高いんだよなぁ。その分、敵国と接していて危険も多いらしいけど。


まぁ、そんなことよりも今は魔法を知りたい。


「おっ、早速の質問だ。いいねぇ~」


いいねぇ~、と言うと同時に俺を人差し指でとんとんと指さしてくる。……ちょっとむかつくぞ。


「魔法っていうのはね。大気中に溢れる魔素を用いて行われるエネルギーの現出化のことだよ。…まぁ、見た方が早いか。『光あれ』」


言葉と同時に、俺を指さしていた彼の人差し指が光った。


俺は驚きすぎて声も出なかった。さっきまでマートンさんに感じていたイラつきも吹っ飛んでだ。

そして、期待感が胸の中でぐんぐんと大きくなって来ていることに気づいた。


この世界は娯楽が何もないと思っていた。

けれども、あるじゃないか!こんなに楽しそうなことが!


「こんな感じだよ。他にもいろんな魔法があるけど、まぁ、それはおいおいね。」


「先生っ!もっと!もっと、魔法を教えてくださいっ!」


「おっ、おおっ。凄いやる気だねぇ。んー、でも、今日は顔見せだけのつもりだったから、時間はあまりないんだよなぁ。……それじゃあ、この本をあげるから適当に読んどいてよ。」


俺は机に身を乗り出して頼み込む。マートンさんはちょっと引き気味になりながらも、カバンから一冊の本を取り出すと俺に渡してくる。タイトルは「魔法学入門」。シンプルな装丁にタイトルがでかでかと書いてある。かなり分厚く、前世の学術書のような雰囲気を感じる。


「それ、ほんとは貴族院の教科書だから難しいと思うけど、次回には6歳向けのを持ってくるからちょっと我慢してね。それじゃ、またね。」


「はい!先生!ありがとうございました!」


先生だ。この人は先生に違いない。俺は、これからマートンさんのことをマートン先生と呼ぶことに決めた。


俺は6歳の身体にはまだ大きい「魔法学入門」をしっかりと両腕で抱きしめながらマートン先生を見送るのであった。


それから、俺はすぐさま本を開く。中身は白黒で絵が無い。たまに表やグラフが混じっている。まさに学術書だ。確かに6歳には難しいだろう。とはいえ、俺は前世で一応それなりに生きた身だ。根気さえあれば読めないことはない。著者名として複数の人物の名前が並んでいる。その中にはマートン先生の名前もあった。さすがである。


ある程度読んでみて、俺は魔法のことが何となく分かってくる。


魔法は前世の俺が想像する通りのものだ。アニメやマンガで使われていたあれだ。呪文を唱えればボンとなったり、魔法陣を書けば強力なものを使えたりするらしい。

そして、極めれば地形さえ変えてしまうというのだから驚きだ。まるで核爆弾である。もっとも、そこまでの威力を使えるのは世界に数名しかいないらしいのだが。


そうすると、気になるのは強い魔法をどうやったら使えるようになるかだ。

必死にページをめくって、難しい文章を頭をうんうん言わせながら読んでいく。


よし、わかった。どうやら、魔法の発動には魔臓というものが重要らしい。それは心臓の横に存在すると。また、人体図を見るに魔臓以外は地球の人間と同じ組成をしているようだ。


魔臓の役割は3つある。


1つ目が大気中の魔素を取り込んで、魔法として扱える魔力に変換する能力。スタミナのようなものらしい。これが高ければ、体内の魔力を使い切っても素早く回復できる。

2つ目が変換された魔素、つまり魔力を体内にためておく能力。これが大きければ大きいほど、威力の高い魔法を使える可能性があるそうだ。

3つ目が体内の魔力を魔法に変える能力。どんなに魔素をためられても、この能力が低ければ高い威力の魔法は使えない。


理解しやすくするためだろう。図で説明もされている。これらの関係は、例えるなら風呂のようなものらしい。


1つ目が給湯器。これが大きければ大きいほど早くお湯(魔力)が溜まる。

2つ目が風呂釜。大きいほどお湯を多く貯められる。

3つ目が栓。大きいほどお湯が早く抜ける。


では、これらはどうすれば向上するのか。


そもそも、生まれたときの魔臓の能力は血筋によって決まっているらしい。

昔々、魔法が発見されたときに革命があちらこちらで起こったそうだ。今までの武器が全く通用しなくなり、魔法こそ力になった。その時に、最も強かったものが国を支配したと。

特に、帝国は魔法が発見されるのが早く、より早く国を統一し、血を濃くしていったらしい。


ご丁寧に血筋の順位表が載っている。しかも世界規模だ。


1番目はモスフト帝国の皇族。国境を挟んで我が家の隣の国だ。また、この国の王族も4番目に載っている。10番目までしかないから、残念ながらシュラウト辺境伯家がどの程度かは分からないが、恐らく上の下程度だろう。家格的に。


また、この世界の人間全員が魔法を使えるわけではない。自分が使えなかったらとヒヤリとしたが貴族は全員使えるらしい。

というか、そもそも貴族とは魔法の使える者のことをいうらしい。魔法は戦闘だけではなく、燃料としても使われる。ガソリンや石炭のようなエネルギーだな。

平時は貴族がエネルギーを生み出し領土を富ませる。戦時は貴族が魔法で敵と戦うということらしい。


前世での貴族っていうのは悠々自適に生きているイメージだった。今世の両親をみて違うってことはわかっていたけど、これは忙しいはずだ。発電機みたいなことをやっているのだから。


そして、ここまで読んだとき、俺が外に全く出られない半幽閉状態にされている理由がわかった。

過保護ではなく、これが貴族の普通なのだろう。魔法を学んでおらず自衛する手段のない貴族の子供なんて、攫ったらいくらで売れるのか想像もつかない。だって、魔法は遺伝するのだ。

もっとも、貴族と貴族でない親の子には魔臓が遺伝しなかったり、血筋が近すぎると遺伝しないことがあったり、いろいろと制限はあるらしい。それでも価値は計り知れないだろう。

魔法が核のような力を持つ世界で、血は何よりも重要だろう。


さて、魔臓の性能は血筋でかなり異なるが訓練でも向上するらしい。

まるで筋肉のように使えば使うほど成長するそうだ。地道なトレーニングが大事である。

また、魔法の威力は魔臓のみで決まるわけじゃない。呪文や魔法に対する理解度の差でも威力は大きく変わるのだと。


俺は魔臓をひたすら鍛えていくことに決めた。そして、同時に魔法を学ぶ。将来の夢は大魔法使いだ。

ふと思った。今までこの世界に何のために転生したのか考えてきたが、それはこのためだったのかもしれないと。


そう。俺が転生したのは魔法を極めるためだったのだ!







気づきから数日後、俺は自分の考えが間違っていたことを知った。

俺の目の前には双子の赤ちゃんがいる。2人とも女の子である。


「あなたの妹になるサラとエルよ。仲良くするのよ。」


「ケインはこれからお兄ちゃんになるからな。2人を守るんだぞ。」


母さんと父さんの声が耳から素通りしていく。ただただ目の前の2人を見ていた。

6歳にして初めての兄妹ができた。それも二人同時に。青天の霹靂だ。


ここ数か月、母さんと会えないなとは思っていた。まぁ、よくあることだし仕事が忙しいと思っていた。それがまさか子供ができていたとは。


生まれたばかりの2人は別に可愛い見た目ではない。赤くてくちゃくちゃである。けれども、……なんだか可愛いのだ。なんだろう。心の底からじんわりと溢れてくるこの気持ちは。血の繋がりだけではないだろう。不思議な感覚である。


目の前であーあー言っている二人の手を掴む。温かい。いや、熱い。こんなに小さいのに、力強さを感じる。


俺は6歳だ。守れと言われても何ができるでもない。親も別に大きな何かを期待しているわけではないだろう。けれども、俺がこの子達を守らなければと強く決心した。


俺が転生したのは、この愛おしい妹たちを守るためだと強く確信したのだった。





8歳





マルダおばあちゃんと別れ、マートン先生に出会い、魔法の存在を知り、そして何より妹の誕生があった激動の6歳から2年がたった。


俺は8歳になっていた。


この間、妹達はすくすくと育っていった。驚くべきことに、世話は俺とマートン先生で行った。メイドは無しである。貴族は本当に最低限の人数しか家の中に入れない。

始めの頃はマートン先生に世話ができるのか心配だったが、魔法で全て解決していた。マルダおばちゃんは平民なので手作業でいろいろやっていたが、マートン先生は魔法ですぐに終わらせる。


魔法が万能すぎる。


そして、俺は魔法をいくつか覚えた。掃除に便利なものだったり、炊事に使えるものだったり、生活に役立つものだ。貴族が一番初めに教わる魔法らしい。生活魔法群というそうだ。


これだけ魔法が便利で、生活に密接なら両親が使っている所を何度か見ても良さそうなものだが、そういえば両親が使っているのは見たことがない。


疑問に思ってマートン先生に聞いたところ、どうも貴族の当主は常に魔力がカツカツなんだとか。領地へのエネルギー供給がとんでもないそうだ。

さらに、実は屋敷に魔法で透明の壁が張ってあるらしい。これは、魔法陣を書いたり、魔力を供給したりと準備に時間がかかる非常に複雑な魔法だけど、殆どの攻撃や侵入者を弾くというものなんだと。突破するには術者が死ぬか解除するしかないという。つまり、壁の中に術者が籠れば無敵だ。すさまじいね。

マルダおばあちゃんと2人でいたときは襲われたらどうするのか疑問だったがちゃんと対策があったのだ。良かった。


そして、妹達は俺によく懐いてくれている。まぁ、世話を殆ど俺がやってるからね。マートン先生も始めの頃は世話していたが、俺が魔法を覚えて世話できるようになると、全て丸投げしてきた。「研究室にいるから何かあったら声をかけてね。」なんて言ってる。6歳の子供に幼児の世話を任せるおじさんである。いいのか…それで…。


まぁ、俺は妹の世話が好きでやっているから、全く問題はない。先生も先生で俺のできる範囲で任せてくれていることがわかるし。危険があるようなことは先生がやっている。





「けいんにぃに」「にぃに」


双子が揃ってトテトテと俺の周りを歩き回っている。


サラは俺の名前を呼べるようになっている。エルはまだ「にぃに」だけだ。今の目標は、早くエルにケインと呼ばせることである。2年前、あれだけ暇に思っていた毎日だったが、妹達が生まれてからは1日も暇を感じたことがない。2人と一緒にいるだけで楽しい。2人の世話をしていても楽しい。笑顔できゃっきゃと遊んでいるのを見るともう最高だ。


残念なことに、我が家は相変わらず両親があまり帰ってこない。貴族として普通なんだろうけど、前世ならネグレクトである。俺は妹たちが寂しがらないように、不良にならないように、せっせと愛情を与えるのであった。


よしよし。今日もかわいいなぁ。


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