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転生 0歳~4歳

0歳


あれ?


気づくと暗闇の中にいた。


生温かい液体に全身が浸かっている。しかし、不思議と息は苦しくならない。

体を動かそうとしてもゆっくりとしか動かない。

いったい俺はどういう状態なのか。

でも、恐怖は全く感じない。まったりとした気分だ。


しばらく体をもじもじと動かしていたが、やがて疲れてしまった。

そして、だんだんと眠くなって意識がぼんやりと落ちていった。





次に気づいたとき、明るい場所にいた。

そして、ケツを引っ叩かれている。何度も何度も。痛い!痛い!

俺は泣いた。

何年振りだ?小学校以来かもしれない。涙がボロボロ出てきた。羞恥心とか何もなく、ただただ心の感じるままに泣いた。


「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」


とても自分の声とは考えられない幼い泣き声だ。

そして、誰かに優しく抱きかかえられる。


「やった!産まれたぞ!よく頑張った!」


「はぁ、はぁ、男の子ね。じゃあ、予定通りケインね。」


男と女がいる。俺の周りで何か話しているが、理解できない言語だ。

包み込む腕はとっても温かい。

ひたすら泣き声を上げる。そして、はたと気づいた。


俺、赤ちゃんになってる。今産まれたんだ。


気づきと同時に、突然、強い睡魔に襲われる。疲労が原因の心地よい眠気だ。そのままぼんやりと意識を失っていった。





1歳






1歳になった。

1年間生きて、俺は様々なことを知った。両親やメイドが話しかけてくる情報からだ。


まず、俺は転生したということだ。


前世の最後の記憶は、事故の記憶だ。まぁ、あのスピードでぶつかれば間違いなく死んだだろう。

そして、おそらく……生まれ変わった。

とても信じられないが、現実そうなっている。これが1年続いている夢でもなければそういうことだろう。

前世では宗教なんて信じていなかった。しかし、これが現実ならあの宗教が正しかったのか。もっと祈っておくべきだったかもしれない。


次に、この世界の言葉は英語でも日本語でもない。


生まれたての頃は周りの人が何を話しているのかさっぱり分からなかった。俺が理解できるのは日本語と英語だけなので、それ以外の言語なのだろう。

ただ、何度も聞いているうちに自然と理解できるようになっていった。子供の頭って凄いなぁ。


そして、両親の仕事内容も判った。


なんと貴族らしい。貴族って仕事じゃないだろって思ったけど、この世界では立派な仕事らしい。それも結構高年収の。やったぜ。ただ、かなり忙しいらしく家にいることは少ない。両親ともに一か月間家にいないこともある。前世なら育児放棄よ。

また、父の名はルーカス、母はエマだということも判った。初めて喋れるようになった言葉は、簡単なエマという単語だったので、母さんに「エマ」って言ったらめっちゃ大喜びされたんだよな。下っ足らずで「えあ」って感じだったけど。

父さんはめっちゃ悔しがってた。「改名してやる」なんて言ってたな…。まぁ、「ルーカス」って言いにくいし。


最後に、ここは地球では無いだろう、ということだ。


初めはヨーロッパのあたりに転生したのかと思った。なぜなら、父さんも母さんも金髪碧眼だからだ。さらに建物とか服とか装飾とかも昔のヨーロッパっぽいんだよな。けれども、話を理解できるようになると明らかに違うことが分かった。地名や国名が知らないものばかりなのだ。他にも暦や宗教など、聞いたことの無いものばかりだ。なんだよリカイン教って。





つまり、どうやら俺が転生したのは貴族制の中世ヨーロッパ風異世界らしい。


俺は今後どうするかを考えてみる。前世のことが気にならないわけじゃないが、未練などは特にない。事故で死んでしまったが、それが天命というものだろう。両親には早死にしてしまい申し訳ないという言葉だけは伝えたいかな。まぁ、それなりに充実した人生だったし、悪くなかった。


とりあえず、今後はこのまま生きていくしかない。赤ん坊なんて何もできないのだ。父さん母さんに養ってもらうしかない。幸い、貴族でお金持ちの家なので手厚く育ててもらってる。だって、メイドがいるんだよ。金持ちぃ。


世話の殆どは、メイドのマルダおばあちゃんがやってくれている。両親は仕事で殆ど家にいないからなぁ。まぁ、これがこの世界の常識らしいし、たまに会える時には惜しみなく愛情を注いでくれる。良い両親で良かった。俺もいい子になって恩返ししなきゃね。

マルダおばあちゃんは雇われた平民らしい。腰の曲がった金髪のおばあちゃんだ。御年70歳である。この世界はあまり科学が発達しているようには見えないので、70歳というのはかなり凄いのではないだろうか。

しわくちゃの顔で「まぁまぁ」と笑うのが癖のようだ。俺が何か起こすたびに「まぁまぁ」と言っている。一度、俺がタンスにぶつかって倒してしまったことがある。ドンとものすごい音がしたが、その時もまぁまぁとニコニコしていた。貫禄が違うぜ。その後、タンスはしっかりと固定されていた。


意外なことに、我が家は4人しかいない。父のルーカス。母のエマ。メイドのマルダおばちゃん。そして俺。

貴族というならもっと使用人とかいてもいいような気がするけど、まぁ、これで家のことは回っているから必要ないといえば無いよな。


つらつらと考えていると、お腹がじわりとしてきた。あ、やべ。うんち漏れそう。


「うんち!」


「まぁまぁ、今行きますよ。」


マルダおばあちゃんがササッとおまるを持ってきてくれる。ふんふん。俺は一歳にしてトイレを使うことを覚えた。精神が身体に引きずられているのか、漏らしても恥ずかしくはないけど、やっぱり手間がかかるし、ばっちぃからね。


それにしても、単語一つで人が動くのは偉くなったみたいで楽しいなぁ。まぁ、貴族の息子なら実際に偉いのだろうけど、このままだと我儘になりそうで良くない。


とはいえ、不便なこともある。基本的に部屋以外はどこも行けないことだ。早いところ自由に移動できるようになりたい。1年間もずっと同じ景色を見ていると飽きるよ。

半分幽閉されているようなものだ。まぁ、赤ちゃんだから仕方ない所もあるけど、もう少し自由が欲しい。過保護なのだろうか。俺はかなり大事に育てられている。


まぁ、これも両親なりの愛だろう。親に心配させたくないし、とりあえずは良い子して部屋の中で安全な遊びをしてよう。両親も忙しいなりに愛を注いでくれているのが分かるからね。


改めて、俺は幸せな家庭に転生したんだなぁとしみじみと思う。





4歳





4歳になった。


すくすくと成長した俺は、走り回ることが可能になった。さらに、移動できる場所も増え、屋敷の中と庭は自由に移動できるようになった。ただ、庭より外へは絶対に出てはいけないと言われている。庭の外は危険なんだと。

もっとも、庭には高い壁があるので外に出ることはできない。梯子でも使えば別かもしれないが。でも、両親が愛情をもって育ててくれているのは分かるし、心から心配して外に出るなと言っているのも分かるのでそんなことはしない。俺は良い子なのだ。


まぁ、貴族の子なら誘拐とかもありそうだしな。危険は避けるに限る。





今日は俺の誕生日である。

この世界にも誕生日を祝う文化はあるらしい。

父さんと母さんが揃ってお祝いしてくれた。実は、誕生日に2人が揃って祝ってくれるのは初めてだ。貴族って本当に忙しいんだよなぁ。


俺が理解してないだろうと、父も母もよく仕事の愚痴を俺にこぼしてくる。でも、2人とも仕事に誇りを持ってるらしく頑張っている。俺は、そんな2人の仕事の邪魔をしないように、せっせといい子をして安心させて仕事に送り出しているわけだ。

今日は何とか2人とも休みを取れたらしい。今までも取ろうとはしてくれていたけど、どうにもダメだったんだよなぁ。


今いるのは、俺と父さんと母さん。マルダおばあちゃんは既に帰宅した。でも、帰り際にお祝いで手縫いの服を貰った。あったけぇ…。


テーブルを囲み。3人で座る。中央にはケーキだ。


「じゃあ、ケインの4歳を祝って!誕生日おめでとう!」「おめでとう!」


父さんが音頭を取り、母がそれに掛け声を合わせる。それからは、ケーキを食べたり、他愛もない話をしたりと楽しく時間が過ぎていった。両親は酒を呑んでおり、顔が赤くなってきている。ちょっと気になったので俺も飲もうとしたが「子供はだめだ」と言われた。無念…。


赤い顔で父さんが話し出す。


「ケインは本当に賢いよなぁ!将来は官僚かな!」


親ばかを発揮している。前世を覚えているだけで賢くはない。


「本当にねぇ。目元なんて、あなたにそっくりだし、将来はモテモテになるわよ。」


母が言う。途中から惚れ気になっているぞ。


「あははっ。輪郭や口元は君そっくりじゃないか。本当に可愛いなぁ。」


ぬわっ。目の前でイチャイチャするのはやめてくれ。

2人の仲は良い。けど、良すぎる気もする。悪いよりは良いんだけどなぁ。ちょっと何とも言えない気分になるんだよ。


俺は酒臭い父さんに抱かれて頬ずりされながら、両親のイチャイチャを半笑いで聞き流していた。


「そうだ。ケインに渡すものがあるんだ。」


突然、父さんが何かを思い出す。

そして、棚を探ると手のひら程度の小さな箱を取り出した。開けると、中にはペンダントが入っていた。紐は銀色のチェイン。ペンダントトップはビー玉のようなものだ。

それは、一見模様のついたビー玉だが、よく見ると模様がもやもやと渦巻いていた。さらに、うっすらと光っている気もする。


「父さん、なにこれ?」


俺はそれをじろじろと眺めながら聞く。前世を通して初めて見る不思議物体に興味津々になった。凄いな。これどうやって作ったんだ?


「気に入ってくれたようで何よりだよ。これはな、『止まらずの石』というんだ。中にもやもやが見えるだろう。これは、私の生命力を表している。貴族という仕事は世襲だ。…もしも、まぁ、無いとは思うが、私に何かあったときにはケインがすぐに後を継ぐ必要がある。これは、貴族の嫡男なら誰もが持つものだ。大事にしてくれよ。」


驚いた。もやもやが生命力と連動しているという不思議技術にまず驚いたが、それよりも…


「父さんが…死ぬかもしれないの?」


俺は、この世界のことを何も知らない。貴族の仕事のこともよく知らない。事務職のようなものだと思っていた。だから、突然生死に関わる話をされても全く現実感が湧かなかった。


「はは。そう悲しそうな顔をするな。もしもの話だよ。この石はな、伝統だよ。……昔々、戦争があったとき、貴族はたくさん死んじゃったんだ。そのときに、次の継承をスムーズにできるように作られたんだよ。今は戦争は無い。けれども、形式だけ残っているのさ。親から子へのお守りみたいなものだ。」


言葉を聞いて安心する。前世を通して、身近な人の死を見たことがない。その前に自分自身が死んじゃったからな。

俺は受け取った石をギュッと握りしめる。ほんのりと人肌程度に暖かい。こささけ体が発熱しているのだ。本当に不思議だ。この世界にはこの世界なりの技術があるということだろうか。


そのあとは、両親にギュッと抱きしめられておでこにキスをされた。

俺が不安そうな顔をしていたからだろう。この身体になってから精神が身体に引っ張られている気がする。両親にギュッとしてもらえると安心する。


そして、パーティはお開きになった。母さんにベッドまで連れていかれると、母さんは子守歌を歌い始める。正直、無くても寝れるんだけどな。でも、ちょっと嬉しかったし、安心した。


俺は首から下げたペンダントをギュッと握りこむ。


眠りに落ちていくまま、この平和がずっと続いて欲しいと心から思った。


その日は、いつもよりよく眠れた。


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