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スラッとした容姿に腰まで伸ばした黒髪がよく似合う女。ナーザは黒い鞭の様な物を床に振り落としバチンと音を鳴らした。
「ジル、勝手に何か食べるのは良いけど、任務を行う時だけは2人で行動する約束でしょ?」
「わ、悪かったよ!ナーザ!けど!まだ何もしてねーよ!教徒も生きてるし、玉も取っちゃいねー!」
ナーザはニコリと笑うと、先程よりも鋭く持っている物を振り落とした。
「お黙り!言う事を聞かない犬には躾が必要ね。ちょっと2人とも向こうの方を向いてて」
ジルと状況を飲み込めずにいたバランは何故か言う事を聞いてしまいナーザに背中を向ける。
ナーザは2人の背中を確認し、手を顔まで持っていくと自分の鼻穴片方に指先2本を器用に突っ込み出す。
そこからナーザは色っぽく息を漏らし鼻穴から自分の髪と同じ長さの黒いヒモを引っ張り終えると背中を向けている2人に声をかけた。
「終わったわ。ごめんなさい。こんな恥ずかしい姿は誰にも見せたく無いの」
ナーザの顔は誰にも見られてなかったが、赤く染まっていた。
「とりあえず、躾するからジルこっちに来なさい」
ジルは面倒くさそうにナーザの目の前で行き首を差し出す様に前屈みになると、ナーザは先程出した黒いヒモをジルの首に巻き始めた。
「お、おい優しく頼むぜ!お前のヒモ伸縮性があるから余裕があるって勘違いして毎回絞め過ぎる事が多いか•••うがっ!」
ジルの嘆きはナーザに届かなかった様でミシミシと音を立て絞められていく。ジルの口から何かが出たとこで、漸くナーザは絞め過ぎていた事に気づく。
「あら、またやってしまったわね」
とナーザはジルの頭を撫で始めた。ジルもさすがに怒るのかと思いきや、ぷるぷると震えるだけで黙っていた。完全に躾けられてるようだ。
「何を見せつけてくるかと気になって眺めていましたが犬の躾ですか。彼はあなたに完全に服従してるようだ」
バランはパチパチと拍手する。満足し拍手が終わると姿勢を変え、ジルに一撃を与えた時と同じポーズを取った。
「教徒様、今持っている透明な玉なにに使うか分かってらっしゃる?」
バランに闘う意思があるのを感じたナーザは突然、妙な事を言い出した。
さすがに玉の事だと黙ってられないバランはうっとりとした顔をして玉のことについて語り出す。
「光が宿る玉を持ち、毎日、天に向かい祈りを捧げれば光が私を導いてくれる。そう教祖様から聞きました。私は光に触れたい。いや、光になりたいのです!」
ナーザはそれを都合が良いと笑い、バランの懐にある玉を指差す。
「良い事教えてあげる、私は光に近づく方法を知ってる」
バランは悲願だった光に触れられる方法が聞けると思い、闘う姿勢を解いて彼女が続きを話すのを待った。
「その玉を割りなさい」
懐にあった玉を片手に持った状態で答えを聞いたバランは呆然とした顔になり、玉を見つめ声を震わせた。
「これを割れと言うのですか?」
「そうよ、床に叩きつければ簡単に割れるわよ。光に近づきたいんでしょ?」
ナーザはバランが欲に負けて割るのを確信していた。ジルも隣でやれやれと首を振る。
「分かりました」
バランは持っている玉を見つめながら空気を飲み込むと、持っていた玉を床に叩きつけた。
パリンと音を鳴らし割れた玉は中で小さく明滅していた光だけを残し跡形も無く消えてしまった。
「何も起こらない?」
とバランが言った瞬間、足元で小さく明滅していた光が激しく発光する。
次第にその光は大きくなりバランの体全体を包んだ。
「おめでとう、あなたはずっと光と一緒よ」
そして最後にナーザは自分にしか聞こえない声で「自分の命と引き換えにね」と呟きバランの住居からジルを連れ出て行った。
「ナーザ、あれ、あのままでいいのか?」
「この村には面白い子がいるし、あのままで良いんじゃない?」
「あの無表情のガキか!たぶん、あのガキ化けるぜ!」
「殺されなければね」
2人は楽しそうに笑いながら村から離れていく。
「ナーザ、アノ玉何個残ってると思う?」
「分からない、けど、あればあるだけ楽しくなるのは間違いないわ」
「違いない」
「でも、上への報告はどうすんだよ?」
「勝手に玉を使ったから仕方なく殺したって言っとけば大丈夫よ」
「そうだな。この位で怒るような方じゃないしな」
「そう。きっと良い方向へ光が導いてくれるわ」
ナーザが空を見上げると無数の光が地に向かい降り注いでいた。