第7話 才能ではなく、心で…
前回のあらすじ…宴の席で無理矢理酒を飲まされアルコール中毒になり命の危険に晒されるアンディ、しかしそんな時…『エルフ族』でDランクのハンターの少女『エルメス・ワンド』によって救われ、大事には至らず済みました…。
翌日アンディ達はエルメスにお礼を言おうと、ギルド本部へ訪れて、オカミさんから素材調達の依頼に出掛けたと聞かされ後を追って東の森へ…。
そこで漸く彼女と会うも、彼女は今にも崖から落ちそうな大ピンチに陥っていた、何とか彼女を助けて命を助けてもらったお礼を伝え、彼女の依頼を手伝うことに…
依頼を終えて本部へ戻ると、そこには一人の少女が母親を助けてほしい懇願しており、エルメスは少女の母親を助けることになった。
…少女の家につく
「お母さん!」
「…ハァ、ハァ、ハァ」
母親はかなり衰弱しきっており、息をするのも苦しそうだった。
「…この症状は、恐らく肺に炎症を起こしていますね…今すぐ呼吸を少しでも楽にする薬を作ります!」
エルメスさんはカバンから薬草やら道具を取り出して薬を作り始めた。
…そして薬ができると、それを母親に飲ませる
「さぁ、これを…ゆっくりでいいですから…」
薬を飲ませると、次第に母親の呼吸は穏やかになり落ち着いていく。
「すごい…」
「…スゥ、スゥ、スゥ」
「エルフのお姉ちゃんありがとう!」
「いえ、まだ完璧に治したわけではありません…一時的に症状を静めただけです…また明日には様子を見にきますね!」
「うん、ありがとう!」
少女の家を後にする僕達…するとアリアさんが
「あの、エルメスさん…」
「はい?」
「私、少し思ったんですけど…エルフ族の『治癒の魔法』を使えば完璧に治せるんじゃないですか?」
「それは、無理なんです…」
「無理…?」
「私…治癒魔法“使わない”んじゃなくて、元々“使えない”んです…」
「えっ?使えないって…でもオカミさんから聞いた話だとエルフ族はみんな治癒魔法使えるって…」
「他のエルフ族のみんなは当たり前のように使えるんですけど…何故か私だけは、どんなに頑張ってもちっとも使えなくて…それで私は他のエルフ族のみんなからはやれ落ちこぼれだの…一族の恥さらしだのと揶揄されて、人一倍薬草や薬のことを猛勉強しました…でもそれでもみんなは、私のことを認めてくれなくて、だから私は故郷を離れて色々あって冒険者として生きていく決意をしたんです…」
「エルメスさん…」
「…すみません、くだらない話を長々と…失礼します」
とぼとぼと去っていくエルメスさん、その後ろ姿はやけに悲しそうな感じが伝わってきた。
…その夜、僕は中々眠れずずっとエルメスさんのことを考えていた。
彼女はまるで、前世の自分を見てるかのようだったから…
僕も昔から勉強もスポーツもダメダメでいつもみんなから馬鹿にされてとても悔しい思いを味わってきた。
だから僕には彼女の気持ちが痛いほど分かった、なんとかして彼女の力になれないものかと、一晩中そんなことばかりを考えていた。
…翌日、僕達はあの少女の家を訪ねてみた、すると少女が玄関先の掃き掃除をしていた。
「あ、昨日のお兄ちゃんとお姉ちゃん!」
「こんにちは、お母さんは?具合どうかな?」
「うん!今は落ち着いててまだ寝てるよ、エルフのお姉ちゃんの薬がまだ効いてるみたい」
「そっか、それは良かった…」
するとそこへ丁度エルメスさんも少女の家にやってきた
「…あれ?アンディさん アリアさん来てくれたんですか?」
「えぇ、ちょっと心配になったもので…」
「すみませんわざわざ…」
家の中へ上がらせてもらう、母親はまだ落ち着いた様子で寝息を立てていた。
「まだ薬が効いてるようですね…」
「エルフのお姉ちゃん、お母さん治るよね?」
「え、えぇ…大丈夫、私がきっとお母さんを治してみせます!」
と、薬を作る準備を始める
するとその時だった。
「…うぐっ!?あぁっ!!」
突然母親が胸を押さえて苦しみ始めた。
「!?、お母さん!」
「効果がきれた!?すぐに薬を!」
急いで薬を準備するエルメスさん、そしてできた薬を急いで飲ませる。
「さぁ、飲んでください…」
しかし、薬を飲んでも母親の症状は一向に収まる気配がなかった。
「そ、そんな…!?これじゃもうダメか…こうなってしまったらもう私には手の施しが…」
「お母さん…うあぁぁぁん!」
泣き叫ぶ少女、アリアさんはそんな少女を優しく抱きしめる。
(…どうしよう?どうしようどうしようどうしようどうしよう!?)
頭を抱えてパニックに陥るエルメスさん
「エルメスさん!落ち着いてください!」
「無理です!こんな状況で!私の薬が全然効かない…もう無理です!」
「諦めちゃダメだ!そうだ!治癒魔法!治癒魔法を使えば!」
「だから言ったじゃないですか!私には治癒魔法の才能なんてないんです!もう私なんか、誰も救うことができない…うっ、うっ、うっ…」
「そんなことない!現にエルメスさんは、僕のことを救ってくれた!エルメスさんならできる!僕は信じる!」
「…アンディさん、どうして私なんかの為にそこまで?」
「僕も、昔落ちこぼれのダメダメだったんだ!でも僕は冒険者になって変わることができた!人間できるって思えばなんだってできる!それが分かったから今こうして僕はここにいる!だからエルメスさんも!」
「でも、私には魔法の才能が…」
「才能なんて関係ない!魔法を使うのに一番大切なもの、それは“才能”なんかじゃない…“心”だ!」
「心…?」
「自分ならできる!絶対にやってやる!って強い心さえあれば絶対にできる!」
「心…」
自分の手を胸に当てるエルメスさん
「私…やってみます!」
「頑張って!エルメスさん!」
「はい!…フゥ~」
母親の胸に手をかざして息を深く吸い込み、集中する。
「いいですか?イメージするんです、必ず病気を治す…必ず助ける!そう強く心の中で念じるんです」
「必ず…治す…絶対に、助ける!『キュア』!!」
するとその時だった、彼女の両手が黄色く光り出した。
「やった!上手くいった!」
それから母親の治療をしていく、そして母親はみるみる内に顔色がよくなっていく、そして…。
「…はっ!?」
突然ガバッと起き上がる母親
「…あ、あれ?全然苦しくない?体も軽い、不思議…」
「お母さぁん!」
母親に駆け寄る少女
「ミランダ!ごめんね心配かけて!」
「ううん!良かったねお母さん!」
「うん、あの…どなたかは存じませんが、本当にありがとうございました!」
「ありがとう!エルフのお姉ちゃん!」
「いえ、良かったですね…」
ホッとしたのかにっこりと微笑む彼女
…翌日、ギルド本部にて
「…あの子、ミランダちゃんでしたっけ?お母さん元気になって無事に働けるようになったらしいですね!」
「そうでしたか…良かったですね!」
するとそこへエルメスさんがやってきて
「あ、アンディさん!ここにいたんですね!」
「あぁエルメスさん、あっ!そうだ、エルメスさんに報酬を渡さなければなりませんね!」
「あの、そのことなんですけど…私、報酬はいりません!」
「えっ?」
「報酬はいただきません、でもその代わり…アンディさん、私を…私を!あなたの弟子にしてください!」
「え、えぇ~!?」
あまりの予想外な展開に大きな声を挙げて驚く僕達
「で、弟子ってそんな!」
「私、あなたのおかげで魔法を使えるようになったんです、もっともっと側であなたの魔法を見て勉強したいんです!だからお願いします!私を弟子にしてください!」
「でもそんな、ぼ、僕が人に教えるなんて…」
「いいじゃないですか!こんなにもアンディさんのこと頼ってきてくれることですし…」
「アリアさん…分かりました、僕でよければ!」
「ホントですか!ありがとうございます!『師匠』!」
「し、『師匠』て…なんか、ガラじゃないな…普通にアンディさんでいいよ?」
「いや、そういうわけには…じゃあせめて、『先生』で!」
「うーん、まぁいいか…」
「やったー!ではこれからよろしくお願いしますね!アンディ先生!アリアさん!」
「あぁ、うん!じゃあ、早速…」
「はい!」
“タラタターン!”『エルメス・ワンド』が仲間になった。
すると、そんな時オカミさんが僕らのところへやってきて
「おやエルメス、アンタアンディのところのパーティーに入ることにしたのかい?」
「はい!」
「そうかいそりゃ良かったじゃないか…ところで、アンタ達にちょっと頼みたい仕事があるんだけどいいかい?」
「頼みたい仕事?」
「そう、実はCランクの『魔物討伐』の依頼がきたんだけどねぇ…今Cランク以上の冒険者やパーティーはみーんな出払ってていないのよ、うちの人も別の依頼でしばらく留守にしてるし…でも今回は割と緊急の依頼みたいだから悪いんだけどアンタ達に行ってもらいたいのよ」
「えっ?僕達がですか?でも、Dランクでも僕達よりも強い人達なんていくらでも…」
「何言ってるのよ、Aランク級の魔物退治できるぐらいなんだから大丈夫でしょ?」
「そ、それは…まぁ…」
「とにかく、さっきも言ったけど緊急の依頼なのよ…引き受けてくれないと困っちゃうわ」
「わ、分かりました…引き受けましょう」
「ありがとう!じゃあこれ依頼書!」
「はい!えーっと場所は…『巨人国 ラージビガー』…え、巨人の国?」
「先生知らないんですか?そこは『巨人族』っていうとにかく大きな大きな人達が暮らしている国があるんです」
「私も噂に聞いたことがあります、遥か西の険しい岩山を越えた先に巨人族の暮らす国があるって…」
「なるほど、一先ずはそこへ向かえってことですね…じゃあ行きましょうか!『巨人国 ラージビガー』へ!」
「はい!」
「ラージビガーまでは遠いからね、ウチの知り合いで馬主がいるから馬を借りるといいわ、私から話を通しておくから」
「ありがとうございます!」
…こうして僕達は、馬を跳ばして巨人国 ラージビガーを目指した。
ラージビガーはアドガリーノの街からは一晩かかる距離で僕達は途中で野宿しながら先を急いだ。
そして、翌日の朝…漸くラージビガーへたどり着いた。
「ここが、ラージビガーか…」
遥か天を突き抜けるほど大きな門を前に僕らは思わず上を見上げる。
「門番の人がいないみたいですけど…どうやって入るんですかね?すみませーん!冒険者ギルドの者ですけどー!ご依頼を受けてやって参りましたー!」
大きな声で呼び掛ける、すると塀の向こうから大きな男の顔がぬぅっと現れた。
「む?あんた達が冒険者か?待ってな、すぐ門を開ける…」
すると大きな門が開き始めた、門をくぐるとさっき顔を出した巨人の男が待っていた。
ホントに普通の人間よりも数倍大きく、まるでなんだか自分達が豆粒のように小さくなった気分だった。
「わざわざ遠いところからありがとうな、ようこそ巨人の国へ!では、村長のところまで案内しよう」
「あ、お願いします!」
「じゃあこれに乗んな」
すると巨人の男はお盆のようなものを取り出して乗るように促す。
「こ、これに乗るんですか?」
「あぁ、俺達の足じゃそう遠くないがお前達の足じゃ村までは遠すぎるからな、送ってやろう」
「すみません、ありがとうございます…」
お盆に乗ると巨人の男がそれを持ち上げて村まで運んでくれた。
…そして着いたのは巨人の村『デッカ村』
当然村の人達みんな女の人も子供もめちゃくちゃ大きかった。
僕ら普通の人間がよほど珍しいのか僕らが通る度に村の人達は好奇の目で僕らを見る。
「さ、着いたぞ!村長はあの先にいる」
すると柱で支えられた大きな屋根を指さす男
「ありがとうございました、じゃあ行きましょうか」
「はい!」
…そして村長のところまでたどり着く、そこには真ん中にある椅子に座った巨人の老爺がいた。
「よくきたのぅ客人よ…わざわざ遠いところからご苦労じゃった」
「はい、それで…依頼の内容とは?」
「ふむ、お主しらに狩ってほしい獲物は『アイアンパイソン』という獰猛な蛇じゃ」
「アイアンパイソン…確か鋼のような硬い鱗を纏っていることからその名が名付けられたっていう」
「左様、じゃが彼奴めは我がラージビガーの屈強な戦士達を持ってしても仕止めきれなんだのじゃ…」
こんなでっかい人達が束になっても敵わないなんてどんな化け物なんだよ…と思いつつも最後まで話を聞く。
「もう村の戦士はほとんど彼奴によって酷い怪我を負わされてもう戦えるものはほとんど残っておらぬのじゃ…どうかアイアンパイソンを退治して下さらぬか…村の平和を守ってくだされ!」
「分かりました…冒険者ギルド『猛者の集い』の名に賭けて必ずや討伐してみせましょう!」
「頼みますぞ!では、村の者を一人案内役に同行させましょう、これ『ザンナ』や!」
「お呼びでしょうか村長…」
現れた女性は、これまで見た巨人族よりも随分小さく、約3メートルほどの小さな巨人だった。
水色のウェーブが入った長い髪に程よく筋肉のついた体つきでビキニアーマーを身につけて、背中には大剣を背負っていた。
「この娘は唯一残っている村の戦士の一人『ザンナ・バルバロ』じゃ」
「ザンナ・バルバロだ、よろしく頼む…」
「ア、アンディ・ロードマンです…」
「アリア・フルーミネです」
「エルメス・ワンドです」
「よろしく…」
「ではお主ら、頼んだぞ!」
「はい!」
to be continued...