第2話 助けた少女に連れられて
『皆様ごきげんよう、水先案内人のアニーと申します…さて、これまでのお話の流れなのですが僭越ながらご説明させていただきます…』
手に持った本を開くアニー
『人間社会の闇の揉まれ人生に絶望し、引きこもり生活を送る一人の青年 安藤 道男、母親の死からもう一度社会に出て働こうと決意したものの結果は惨敗…もう最早希望も何もかも失った彼は自らの命を絶ってしまう…。
しかし死んだと思いきや目を覚ませばそこは見知らぬ森の中、突如目の前に現れた水先案内人『アニー』により自分は異世界に転生した事実を知ることとなる…。
そして彼は名前を新たに『アンディ・ロードマン』と改めてこの異世界で過ごすこととなる
そこで突然人喰いワームが現れ、アニーからもらった魔法の装備で魔法使いとなり、人喰いワームを撃退…そこでワームに食べられかけていた剣士の少女『アリア・フルーミネ』を偶然助けてお礼として近くの街まで案内して貰えることとなりました…。
さて、今回はどのような物語が待ち受けていることでしょうか…?』
…アリアさんに連れられて森を歩くこと数十分、目の前に大きな城壁に囲われた立派な門が見えてきた。
「あっ、見えてきました!あそこです!」
「ここが…」
門の近くまで来る、門の前には衛兵が二人立っていた。
「…身分証の提示を願います」
「はい」
衛兵に促されてアリアさんは自分のギルバイスを差し出す
「うん、良し!」
「へぇ、それ身分証にもなってるんですね…」
「はい、普通の一般人は住民であることを証明する『住民カード』が必要ですが、私達ギルドに加盟している人達は皆このギルバイスに持ち主の情報が組み込まれているのでこれを見せれば通れることになっているんです」
名前 アリア・フルーミネ
年齢 15歳
所属ギルド 冒険者ギルド『猛者の集い』
ランクE
見ると、アリアさんの顔写真と年齢と所属ギルドまで事細かに記載されていた。
「へぇ…すごいなこれ」
「なんだキミ?ギルバイス持っていないのかね?」
「は、はい…」
「見た所この街の人間でもないようだな…それだったら通行料として銀貨一枚納めてもらうが…」
「えっ、お金払うんですか?」
「はい、ギルドでも街の住民でもない人は通行料として銀貨一枚を納める必要があるんです」
「で、でも僕…お金持ってないですよ?」
「安心してください!今回は私が変わりに払いますから!丁度さっきワームから還元した時の銀貨があるんで!」
と、言って衛兵に銀貨を渡す
「うん、確かに!では通って良いぞ!」
門を開ける衛兵
「さ、行きましょうか!」
「は、はい!」
街の中へ入る、街並みはRPGのゲームの中に出てきそうな中世のヨーロッパ風のレンガ作りの建物が立ち並び、住人の人達もそれっぽい服装をしていた。
「ここが冒険者の街『アドガリーノ』です」
「うわぁ、すげぇ…」
「この街は古くから冒険者達が集まる街として有名なんですよ、しかもここは『パラドワール王国』の中でも王都に次ぐ大きな街としても知られているんです」
「へぇ…」
アリアさんの今の説明で僕が転生したこの国の名前は『パラドワール王国』と言うらしい…『王都』というのは多分、王様のお城かなんかがある街で日本で言うところの東京みたいなもんかな?
「…さ、着きましたよ!ここが私達の所属している冒険者ギルド『猛者の集い』の本部です!」
アリアさんに連れてこられた場所は『BAR STRONGER』と言う看板が掲げられた酒場のような店だった。
「ここって、酒場?」
「はい!ここはギルドの副代表が経営してる酒場でして、ここで依頼の受注をしたり情報交換をしたり…後、酒場なので飲食もできますよ」
(…なんか、マジでひと昔前のゲームみたいだな)
「さ、行きましょうか!中で『オカミさん』に紹介しますね」
「あ、はい!」
酒場の中へ入る、すると武器を持った屈強な男達が酒を飲んだり食事をしていた。
中には女性も少しいるみたいだけど大半が強面で屈強な男ばかりで、僕らが店に入った途端睨みつける人も入ればこっちを見て不気味にニヤつく人もいてとにかく怖くて冷や汗が垂れた。
店に入るなり、僕らは真っ直ぐカウンターへ向かう
カウンターには店員さんらしき中年女性がいた。
「オカミさん、こんにちは!」
「おや、アリアじゃないか…今日は何の用だい?依頼の受注でもしに来たのかい?」
「あ、いえ!今日はこの人をここまで案内してきたんです」
「へぇ、この坊やの?ふーん…」
オカミさんは僕をじとっとした視線で下から舐め回すかのように見る。
「アンディさん、この方がオカミさんでギルドの副代表でこのお店の店主でもあるんです」
「は、はじめまして…アンディ・ロードマンといいます」
「あらよろしくね、アタシはここの副代表の『カミーレ』まぁ気軽にオカミさんって呼んでくれればいいから」
「あ、はい!」
「で、坊や…アンディだっけ?アンタ…冒険者になりたいのかい?」
「は、はい!」
「ふーん、そう…見るからにひ弱そうだけどホントに大丈夫かしら?」
「で、でもオカミさん!アンディさんは私の危ないところを助けてくれたんです!ワームに食べられそうだったところをアンディさんがやっつけて助けてくれたんです!」
「ワームを?へぇ、アンタ可愛い顔して中々やるじゃないか…」
「え、えぇ…まぁ…」
「まぁいいわ!うちに入りたいのなら大歓迎よ!早速手続きするわよ!」
「はい、お願いします!」
「じゃあまずは、ここに名前と年齢を書いてくれる?」
カウンターの奥から一枚の紙を取り出す、僕は言われた通りに紙に自分の名前と年齢を書く。
「アンディ・ロードマン、16歳ね…じゃあ次は、この水晶玉の上に手を乗っけてくれる?」
またカウンターの奥から今度は大きな水晶玉を取り出す、僕は言われた通りに水晶玉に手を乗せる、すると水晶玉は青白く光り出した。
「はい、これでOKよ!」
「い、一体今ので何が分かったんですか?」
「アンタの魔力をこの水晶玉に記憶させたのさ、この水晶玉にはうちのギルドに加盟してる冒険者全員の魔力が記憶されてるのよ」
「へぇ…」
「さ、これで大体の手続きはおしまい!後はこっちで登録してくるからしばらく待っててちょうだい」
「はい、ありがとうございました」
と、オカミさんはお店の裏に入っていく
「良かったですねアンディさん!」
「え、えぇ…」
するとその時だった、誰かが店に入ってきた。
「おーいオカミさん!いるかー?」
大きな斧を背負った髭面の武骨そうな大男、この男も冒険者なのだろうか?
「チッ!なんだいねぇのか…ん?」
カウンターにきて僕らの方を見る大男
「なぁんだ誰かと思えばへっぽこ剣士のお嬢ちゃんじゃねぇか!」
「だ、誰がへっぽこよ!」
「まぁ怒るなよ!怒った顔も可愛いけどな!…あ?なんだこのガキは?」
そう言って僕を睨みつける大男
「おいおい、ここはテメェみてぇなガキが来ていい場所じゃねぇんだよ!」
「ガ、ガキじゃない!今日から僕も冒険者になったんだ!」
「ハンッ!テメェみてぇなチンケなクソガキが冒険者だとぉ?ダッハッハッハ!笑わせんなクソガキ!テメェみてぇなガキに冒険者がつとまるほど甘い世界じゃねぇんだよ!とっとと帰ってママのミルクでも飲んでな!」
…やれやれ、どこの世界にもいるもんだな…こうやって子供だからといってバカにしてくるキャラ、ゲームとかだとこの手のキャラはあまり強くないと相場が決まっているけど…
「まぁいい、こんなガキほっといて俺と楽しいことしようぜ嬢ちゃんよぉ!」
「イヤっ!離して!」
アリアさんの腕を掴んで無理矢理連れて行こうとする大男
「ちょっとあなた!いい加減にしてくださいよ!彼女は嫌がってるじゃないですか!」
咄嗟に飛び出して大男を止める僕、咄嗟に出ていったはいいものの内心とてもビクビクしている。
「なんだテメェ?この俺様が誰だが分かって言ってやがんのか?俺様はなぁ!泣く子も黙るDランク冒険者イチの期待の星!タガロア様だぜぇ!悪いこたぁ言わねぇ今すぐに謝れば特別に許してやってもいいぞ!」
「…謝るつもりは、ない!」
僕はきっぱりと言い放った、途端に周りの冒険者達がざわめき始めた。
「お、おい!あのガキ、タガロアさんに喧嘩売ってやがるのか?」
「やめた方がいいのによぉ、可哀想に…あのガキ死んだな」
「へんっ!おいガキィ!テメェどうやら本気でこの俺様を怒らせたみてぇだなぁ…表出やがれ!」
そして僕は表に連れ出される
「さぁ覚悟しろよクソガキ!ギッタギタのボコボコにしてやるよ!」
首の骨をゴキゴキと鳴らし、背中に背負った斧を投げ捨てる。
「斧、使わなくていいの?」
「ふんっ!俺様はDランクの冒険者だぞ!テメェみてぇな入りたての素人同然のクソガキなんぞ素手で十分だ!」
…あーらら、すごい自信たっぷりだこと…これがゲームだったら死亡フラグ確定で僕の圧勝パターンだね。
「その代わり、お前は好きに武器を使ってもいいぞ!」
「僕は杖で十分さ…」
「あ?そんな変な棒切れで俺様と闘ろうってのか?どこまでもナメ腐りやがって…このクソガキがぁ!!」
真っ正面から突っ込んでくるタガロア、僕はタイミングを見て瞬時に避ける。
「ふんっ!上手く避けたな、だが次はねぇぞオラァ!」
もう一度攻撃を避ける、タガロアのパンチは地面に当たりめり込んだ。
「ひゃー、あんなのまともにくらったら大惨事だ…」
「クソ、ちょこまかと…いい加減くたばれやぁ!」
ひたすら攻撃をかわしていく僕
(…マズイな、ただのザコキャラかと思えばそこそこ強いじゃんか!迂闊に喧嘩売るんじゃなかった…何かいい手はないか?)
と、咄嗟に自分のステータスを一度確認する
すると、さっきまでなかった新しい術が一覧に載っていた。
(…よし!これだ!)
逃げるのをやめ、杖を構える
「へんっ!観念したか!くたばれやぁ!」
「『グランドウォール』!!」
術を発動させる、すると僕の目の前に土でできた大きな壁が現れてタガロアの攻撃を防いだ。
“ガツーン!”
タガロアの拳が土の壁に当たる、壁はびくともしなかった。
「い、痛ぇぇぇぇ!!」
硬い土の壁を殴ったタガロアの手は真っ赤に腫れ上がった。
「お、おい!今の見たか!?」
「あぁ、あのガキ…魔法使いだったのか!?」
僕が魔法を使ったことに周りの冒険者達は驚いてざわめき始めた、魔法を使うのがそんなに珍しいのかな?
「テ、テメェこのクソガキ!妙なことしやがって!こなくそがぁ!!」
「『グランドウォール』!!」
再び殴りかかってきたのですかさず土の壁で防御する
「だぁっ!痛ぇ!!」
タガロアの両拳は気の毒なほどに真っ赤に腫れ上がっていた。
「はぁ…もう十分でしょ、これ以上やっても意味はない」
「ナメんなクソガキが!もう勘弁ならねぇ…殺してやる!」
するとタガロアは先程捨てた斧を拾い上げる
「ちょ!タガロアさん!殺したらマズイって!」
「るせぇ!こんなクソガキにナメられたまま引き下がれるわきゃねぇだろ…こいつで真っ二つにしてやるよ!!死ねぇぇぇ!!」
「アンディさん!!」
力いっぱい斧を振り下ろすタガロア
「『ファイヤーボール』!!」
と、咄嗟に火の玉を放つと見事タガロアに命中し派手に吹っ飛んでいった。
「ぐはっ…こ、この俺様が、こんなガキなんぞに…ガクッ」
気を失うタガロア、するとその瞬間周りの冒険者達が歓声を挙げる。
「うぉぉぉ!すげぇぞ坊主!やるじゃねぇか!」
「すげぇよマジで!あのタガロアに傷一つつけられずに勝つなんて!」
「ハンパねぇよお前!大したヤツだぜ!」
タガロアを倒した僕を称賛する
「アンディさん!」
「あ、アリアさん…」
「すごいです!ホントに強い方だったんですね!びっくりしました!」
「いやぁ、それほどでも…」
すると、皆が騒いでいるところへオカミさんが店の外へ出てくる。
「おやまぁ、このバカ騒ぎは一体何なんだい?」
「あっ!オ、オカミさん!」
「おや、アンディ…ん?あそこで倒れてんのはタガロアじゃないか…もしかしてアンタがやったのかい?」
「えぇ、まぁ…その」
…オカミさんに事の顛末を説明する。
「そうかいそうかい、タガロアがまた新人を困らせてたってねぇ…」
「そんな頻繁にあるんですか?」
「あぁ、タガロアは活きのいい新人を見つけては力比べして自分の力を見せつけるのが好きな困ったヤツでね…タガロアにコテンパンにされて冒険者になるのをやめる連中なんて数知れずいたわよ…」
「そうだったんですね…」
「けど、今回アンタに負けたことでいい薬になったんじゃない?」
「そうだといいですけど…」
「…っと、忘れるとこだったわ!はい、アンタのギルバイスよ!」
「おぉ!これが、僕のギルバイス…」
オカミさんからギルバイスを受け取る、ギルバイスにはしっかりと僕の情報が記録されていた。
名前 アンディ・ロードマン
年齢 16歳
所属ギルド 冒険者ギルド『猛者の集い』
ランクE
「良かったですね!アンディさん!」
「はい!」
「それでですね…差し出がましいとは思いますけど…」
「??」
「あのっ!アンディさん!私と『パーティー』を組んでくれませんか!?」
「パ、『パーティー』!?」
to be continued...