4話(御神琉の朝4)
「はぁ、入学そうそうに遅刻とは、肝が座ってるな」
ホームルームの進行を中断させられた教師は、たった今、正面の席へ座った生徒へ嫌味を言うも当の本人は、ケロリとしている。
「あー、すんませーん!」
教卓の前、つまり教室内のセンターへ座った男子生徒は、教師へ向け、まるで反省の見られない形だけの謝罪を述べる。
そして何事も無かったかのように荷物を片付けはじめた。
教師は、彼に付き合うのは時間の無駄だと理解したのか、ホームルームの続きを開始した。
「空気読めない系男子かな? 略してKYDT。めっちゃ言いにくいww」
一連の緊迫した空気を新兄はじっと観察し、センターを取った彼への第一印象を楽しげに言い始めた。
オレは、再びシャーペンを取り、机上に「I agree with you.」そう書く。
意味は、あなたの意見に同意する。
英語にしたのは気まぐれ。
「何だろう。あの態度、すっごい何処かで見覚えがあるんだよねぇ。従兄弟の中にいたよねぇ」
含みのある言い方をする新兄は、きっと彼の正体にもう気づいているのだろう。
ニヤニヤとこちらを見つめてくる。
「佐藤 千里だろ」
オレは、静かに呟いた。
「あ、分かってたの? なーんだ。それよりさ、もしかしてだけど、入学式の新入生代表挨拶って千里だったんじゃない? なんかそんな予感しない? 入学式で飛ばされたよね。普通あるのに」
そう新兄がポツリとつぶやいた。確かにその可能性は高い。
オレたちの振り分けられたクラスは一組。これはホームルームで担任の先生からも話があったが、クラス分けは、入試順。エスカレーター組は、成績順になっている。つまり、一組は成績、入試でトップスだった者が集まっている。
天才肌の千里が、いない訳がない。
昔、一度だけ千里のテストを見せてもらったが、答えしか書かれていなかった。
例えば、算数や数学なら、どのようにして答えを導き出したのか、を書くのが通例だろうが、彼の用紙にはそこがガッポリ抜けていた。どうやって求めたのか質問すれば、かなり正確に解説する始末。
要は、頭の中で全ての計算を終えていたという話だった。
まさにバカと天才は紙一重。そんな言葉がピッタリ当てはまる人物、それが佐藤 千里という奇妙な男だ。
「多分、千里のやつサボったな」
オレは、先程の英語文の下に書き足す。
「むしろサボって正解だったんじゃない? 千里が挨拶文を真面目に書くやつとは思えないし、きっと、元気一番、みんな仲良く頑張りまーす。とか書いてそうだしねぇ」
新兄の台詞にオレは、小さく頷き再び消しゴムを机に擦りつけた。