3話(御神琉の朝3)
「御神 琉です。受験組で東京の世田谷区出身です。よろしくお願いします」
入学式が終わり、今は教室に集まって絶賛、自己紹介中。
1クラスは大体45人程度。
この春から通うことになった中学は、いわゆる小中高一貫教育で付属大学もある。つまり、オレの様に中学受験をして来た者と、小学校からのエスカレーター式で上がってきた者がいる。
受験組は7割がスポーツ推薦で3割は試験入学。オレは、後者の方だった。
例の騒動が無ければ、新兄も一緒に転校という形で通う予定だったのだが、今は霊体となり、授業参観の親のように後ろからこちらを見つめてみたり、見えないのをいい事に女子生徒の顔を覗き込んだりしている。
「琉! 琉! かわいい子の多いクラスで良かったね!」
変態的な発言と行動を繰り返す新兄に呆れて溜息をついた。
オレは、筆記用具からシャーペンを取り出すと机に「黙って」と走り書きする。
新兄は、オレが何かを書き始めたのに気づき、最短ルートを通りオレの机上に書かれた文字を読むと両手で口を抑える仕草をし、コクコクと頷いて見せた。
ようやく集中してオリエンテーションを受けれる様になったオレは、教師の話に耳を傾けつつも教卓の目前の席が、ポツンと空いているのが、嫌でも目に入ってしまう。
「何だろうね。あの席。まるで誰かのために開けられてるみたい」
新兄は、口から手を離し、今度は、顎に手を当てさながら推理をする探偵のようなポーズを取ってみせた。
「簡単な話、教卓の目の前は、サボれないからだろ。しかも教師の唾が一番、飛び散る。物好きじゃないと座らないって話」
オレは、できる限りの小声で話しながら、先程、机上に書いた文字を消しゴムで消す。
「なるほど、席は、自由だもんね。教卓の前は好きで座る席じゃないか」
新兄は、ぽんと手のひらを打つと腕を組み直した。
ちょうどそのタイミングで前からプリントの束が配られ、オレも一枚取ると残りの束を後ろの席へ流れ作業のように託す。そして全てのプリントが行き届いたであろう。
その時だった。
「おっはよーございまーす!!!!!! 遅れましたー!!!」
教室の前方の扉が勢いよく開け放たれ、大声で登場する一人の男子生徒が、仁王立ちで立っている。
クラス中の視線が彼へ注がれた。
しかし本人は、全く気にする様子も無い。
そして堂々と空いている教卓の席へ着席した。
彼の突然の登場に静まり返った教室内は、誰かのヒソヒソと話し始める声で次第に騒々しさを取り戻す。