第59話 騎士団という答え
よろしくお願いします。
戦場には、確かに覚悟があった。
だがそれは、同じ形をしていなかった。
誰もが正しいと思う選択をしている。
それでも――噛み合わない。
ニーアは魔法陣を展開しながら、戦況を冷静に追い続けていた。
(敵数、想定以上)
(前衛の消耗、加速)
(魔力残量……まずい)
数値は、正直だった。
どれだけ計算しても、導き出される答えは一つ。
(このままじゃ、押し切られる)
それなのに…
(連携は、できているはずなのに)
それぞれが役割を果たしている。
命令も、判断も、間違っていない。
(……違う)
ニーアは気づいていた。
(“同じ方向”を向いていない)
守る者、攻める者、耐える者。
覚悟の向きが、微妙にズレている。
(私が、まとめきれていない……)
胸の奥に、冷たい焦りが広がった。
「くそっ……!」
ゲイルは魔族を殴り飛ばしながら、歯を噛み締める。
(前に出りゃ、誰かがやられる)
(下がりゃ、別の誰かが死ぬ)
分かっている。
戦場では、選ばなきゃならない。
(守るって、決めたはずだろ)
だが、その「守る」が――
いつの間にか、「一人で背負う」になっていた。
(またかよ……)
脳裏に浮かぶ、過去の後悔。
(俺は……何度、同じことを繰り返す)
拳に込めた力が、僅かに鈍る。
シルヴィアは、誰よりも前に立っていた。
団長として。
盾として。
犠牲を引き受ける存在として。
(私が、止めなければ)
(私が、耐えなければ)
剣を振るうたび、身体が悲鳴を上げる。
魔力は削られ、視界が揺れる。
それでも、退かない。
(……それで、本当にいいの?)
心の奥で、微かな問いが生まれる。
(私は……“団長”として、正しい?)
答えは、まだ出ない。
ハルは剣を握りながら、胸の奥のざわめきを抑えられずにいた。
(このままじゃ……)
(誰かが、倒れる)
その瞬間だった。
胸の奥が、ふっと温かくなる。
(……?)
視界が、一瞬だけ遠のいた。
脳裏に浮かぶ、誰かの姿。
女の子。
名前は分からない。
顔も、はっきりしない。
それでも――
確かに、知っている。
懐かしくて、切なくて。
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
そして、声。
『1人で背負わなくたっていいんだよ!』
『だって、みんなが支えあっての――マナティス魔法騎士団でしょ!』
その言葉が、胸の奥に落ちる。
ハルだけじゃない。
同じ瞬間。
ニーアは、はっとして視線を上げる。
ゲイルは、歯を食いしばるのをやめる。
シルヴィアは、剣を握る手を止めた。
(……そうか)
(私は、一人で立とうとしていた)
シルヴィアは、深く息を吸った。
そして――叫ぶ。
「全員、聴け!」
その声は、戦場を貫いた。
「私たちは、それぞれ違う覚悟を持ってる!」
「正解なんて、今は分からない!」
一瞬の間。
「だからこそ――」
「繋がるんだ!」
「一人で戦うんじゃない!」
「訓練も、経験も、恐怖も、迷いも!」
「全部合わせて戦う!」
「それが――マナティス魔法騎士団でしょう!」
その言葉に、迷いがほどける。
「……やっと言ったな、団長」
ゲイルが、笑った。
(これでいい)
ニーアは、胸の奥で静かに頷く。
ハルは、確信する。
(あの子が……繋いでくれた)
連携が、噛み合う。
一時的に、戦況は好転した。
魔族の陣形が崩れ、前線が押し返される。
だが――
「……それでも、劣勢です」
ニーアの声が、現実を突きつける。
それでも。
誰も、俯かなかった。
騎士団は、繋がっている。
戦いは――これからだ。




