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第58話 覚悟のその先へ

マナティス王国・作戦司令室

滅びるか、生き残るか。

今のマナティスは、その境界線の上に立っていた。

魔王軍の侵攻。

それは避けようのない現実として、この国に牙を剥いている。

住民の避難は進んでいた。

突然の出来事に、街は一時混乱したが姫の声が響いた瞬間、人々の表情が変わった。

恐怖に支配されかけていた感情が、「信じる」という選択へと切り替わっていく。

……流石だ。

この国の姫は、最後まで民を導く覚悟を持っている。

避難先として協力を申し出たのは、隣国・錬金術国家アルケミスタ

救いは、確かに存在する。

だが――それは「逃げ道」であって、「勝利」ではない。


「敵は魔王軍……だが、その動きは異常だ」

シルヴィアの声は冷静だった。

あまりにも冷静すぎて、逆に胸を締めつける。

地図をなぞる指先は迷いがない。

だが、その指は、ほんの僅かに震えていた。


「統率が取れすぎている。まるで……一つの意思で動いているように見える」

(……また、あの時と同じ)


神。

あの理不尽な存在が、再び盤上に手を伸ばしている。

「つまり、神が関与してるってことか……」

ゲイルが低く唸る。

歯を噛み締め、拳を握る。

悔しさと怒りが混ざったその表情は、かつて仲間を救えなかった自分自身への苛立ちだった。


「ふざけやがって……」


吐き捨てるような声。


「兵力差はこちらが不利です」


ニーアが淡々と告げる。

だが、彼女の目は冷えていなかった。

理性で現実を見つめながらも、感情を押し殺しているのが、はっきりと分かる。


「現状での勝率は五分五分……いえ、それ以下」

(この数字を、私は何度も見てきた)


勝率が低い戦いの先にあるものを、ニーアは誰よりも知っている。


沈黙が落ちる。

団長を失い、

仲間を失い、

それでも前に進んできた。

もう、これ以上失いたくない。

誰もが、そう思っていた。


だからこそ。


「……僕も、戦わせてください!」


気づけば、声が出ていた。

ハル自身が、一番驚いていた。

だが、止められなかった。


視線が一斉に集まる。

その重さに、喉が詰まる。


「ハルは雑用係だ!」


シルヴィアの声は鋭かった。


「例の力も、まだ制御が不完全なんだ!そんな状態で前線に立たせるわけにはいかない!」


(また……守ろうとしてる)


ハルは分かっていた。

これは拒絶ではない。

恐怖だ。


「でも……!」


声を張り上げる。


「僕も、この騎士団の一員です!」


拳を握りしめる。


「守られてばかりは……もう嫌なんだ!僕も、誰かを守りたい!」


震える声。

それでも、視線は逸らさない。

沈黙。


「……いいじゃねえか」


ゲイルが、ふっと笑った。

だが、その笑顔はどこか痛々しい。


「覚悟がねえ奴の目じゃねえ」

(こいつ……もう戻れねえところまで来てやがる)


「彼の言葉に、嘘はありません」


ニーアが頷く。


「恐怖も迷いもある。それでも前に出ようとする意思は、本物です」


シルヴィアは、しばらく俯いたままだった。


肩が、僅かに揺れている。


(また……失うかもしれない)


(それでも……)


ゆっくりと顔を上げる。


「……わかった」


決意と、諦めが混じった声。


「ハル。前線に立ちなさい」


「……はい!」


ハルの返事は、覚悟そのものだった。



戦闘志願の前夜

月明かりの下。

ハルは剣を振り続けていた。


(怖い……)


(でも、逃げたくない)


その背を、影から見つめる視線があることに、彼は気づかない。



防衛戦開始

炎が道を切り開く。

剣が血を断つ。

シルヴィアは、前に立ち続けていた。


(団長は、前に立つもの)

(後ろで守られる存在じゃない)

(長引けば……負ける)


それでも、退かない。


ハルは、遠くからその背を見ていた。


(姉さん……)


(また、全部背負うつもりだ)


ゲイルは歯を食いしばる。


(ちくしょう……!)


ニーアは戦況を見ながら、胸の奥で叫んでいた。


(誰か……止めて……!)


そして――

巨大なゴーレムの群れが現れる。

絶望的な数。


それでも。

シルヴィアは、剣を握り直した。

手は震えている。

心臓は、痛いほど早鐘を打っている。

それでも。


(……来なさい)


(私が……止める)


私だけの犠牲で済むのなら、なんてことはない。

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よろしくお願いします。

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