第51話 ハル
よろしくお願いします。
魔法とは、この世界に存在する不思議な力の一つである。それは単なる幻想ではなくこの世界に必要不可欠なものである。この世界には5つの国が存在している。各国の文化や信念を介して多様な形をとっている。
魔法はその本質を理解することは容易ではない。それは、自然の力と繋がり、魂の根底に眠ると言われている。異なる国々の魔法体系は魔術の知識、錬金術の秘密、自然との調和、闇との融合、魔法の混合など様々な側面を持っている。
これから話す物語は魔法の力が世界に及ぼす影響と、一人の少年がその力の中でどのように成長し、自らの運命を切り開いていくかを描くものである。
この世界は、とても似ている。僕が前世で遊んでいたゲームの世界に。でも僕はこの世界にて良かったと思っている。前世の世界になんの思い出も大切な人などいないから。僕はこの世界に転生したことに・・・。
後悔の文字は一歳ない。
僕はハル・ウォード。魔術の国マナティスの魔法騎士団の雑用係として、早朝から団員達のために食事を準備し訓練場を整える。これが僕の日課であり、仕事である。
「おう!ハル!いつもあんがとな!」
「今日も朝食美味しそう!ありがとうハル!」
「ありがとう。ニーア」
「ゲイルは朝から声が大きい・・・。耳に響く」
「なんだと!ニーアと扱い全然違うじゃねーか!」
「そんな生意気な口を聞く奴はこうしてやる!」
騎士団員と戯れあう光景なんていつものことで、僕はこの日常が大好きだ。
騎士団員のみんなが朝食を食べ終え訓練や魔術の研究へ向かう。僕は彼ら彼女らを見送り、食器の片付けやテーブルの拭き掃除などを淡々とこなす。その後も清掃に洗濯といった毎日の仕事をこなしていく。
そして、僕は決まって仕事を終えると訓練場で訓練する騎士団員達を見学するのである。ふと思う時がある。
僕にも魔法の才能があれば・・・と。
騎士団の日常は静かながら厳かな雰囲気に包まれている。訓練に没頭する団員達の姿を見ながら僕は彼ら彼女らの意気込みに関心している。僕も彼ら彼女らのように何かできないかと模索する。みんなの役に立ちたい僕はいつもそう思っている。
「ハル!」
訓練場の様子を見ていた僕は騎士団長に話しかけられる。
「ねえさ・・・騎士団長!」
僕は背筋を伸ばし立ち上がった。
「今は姉さんと呼んでおくれ。ハル」
僕の前に立っている女性は、長く滑らかなシルバーの髪を持ち、その髪は頭の後ろで小さな結び目にまめられ彼女の優雅な容姿を引き立てていた。彼女の目はあおい宝石のような輝きを持ち、顔立ちは整っておりその端正な顔には深い知識と強さそして柔らかさが宿っている。
彼女の名はシルヴィア・ウォード。24歳という若さながらに魔法騎士団長を務める才女である。幼少の頃から魔法の才能を持ち驚異的な学習能力と洞察力を持っている。
僕はそんな天才であるシルヴィア・ウォードの一応、弟である。実際には血縁関係は一切ない。僕が転生した時は赤子だった。だが、その赤子は誰かに捨てられ雨に打たれ、死にかけの赤子だった。そんな僕をウォード家の主人(シルヴィアの父)に拾われた。僕は命を拾われこれまで育ててくれたウォード家に仕えるため、今は魔法騎士団の雑用係として働かせてもらっている。
「どうしたのですか?姉さん」
「用がなければ話しかけてはいけないのか?ハル」
そんなことを言いながら頭を姉さんは撫でてくる。
「これから王城へ行くんだが、ハルにちょっと頼み事があってね」
「頼み事?」
「ああ、頼み事っていうのはな・・・」
僕は姉さんには絶対に逆らわない。姉さんの命令は絶対だ。姉さんの判断は常に正しい。正しいのだが・・・。
僕は姉さんと一緒にマナティスの中心部に聳え立つ王城へ向かう。僕も一応ウォード家の一員ということで、周りの目は痛いけど王城内に入ることは可能である。まあ、ほとんど一般市民なので入っていいのかと自分でも思うことはあるが。
「それじゃ、頼んだぞ!ハル!」
そういうと、姉さんはいかにもこの国のお偉いさん達と一緒に会議室のような場所に入っていった。
姉さんからの頼み事、それは・・・。
「きましたわね!ハル!」
「はい、きました・・・、姫様」
姉さんの頼み事それは、この国のお姫様の魔法訓練の手伝いだという。手伝いと言っても姫様が怪我をしないか見張っていたり、時々話し相手になったり、そんな感じである。時々、姉さんから頼まれるこの姫様との交流。姫様は炎の玉を杖を用いて放っている。
「どうですの!こんなにも早く打てるようになりましたわ!ハルにはできまして!」
「私には到底できぬことです」
「そうでしょ!そうでしょ!」
この国の第2王女。名をエリス・マナティス。この国の次期統治者である。この国は代々マナティス王家が統治してきた。だが、魔族のと戦いで、長男の第1王子ゼイン・マナティスが命を落とした。その時からだ、姫様が魔法を勉強なされるようになったのは。
ゼイン王子は姫様にとって、一番の心の支えだった。何をしても一流で、この国は将来安泰だと言われていた。だが、そんな兄が死に全てが姫様にのしかかってきたのである。それは、この国の将来という名の鎖である。
「少し休憩なさっては?姫様」
僕はメイドさんが、お茶を持ってきているのを見ていたので、姫様にそう声をかける。
「そうね!そうしましょう!ハルも一緒に!」
「え?・・・」
「私にそんな権利はございません」
僕はただの一般市民。姉さんがいるから王城に入ることが許されているだけのこと。姫様と一緒にお茶など言語道断である。
「そう・・・ね」
姫様は一人椅子に座り、お茶を嗜む。
その姿は、王女の佇まいであり、美しい。金色の髪が太陽の光に照らされ、整った顔立ちはこの国の王女なのだと納得させられる存在感がある。
「ねえハル、ひとつ聞いていい?」
「なんでしょうか。姫様」
「あなたは魔法が使えないのよね?」
「はい・・・私に魔法は使えません」
そう、僕は魔法が使えない。体にはごく少数の魔力しかなく、それに加え、そのごく少数の魔力の属性も虚無属性。要するに、ゴミである。何の属性でもない、ただのゴミ。
「それでも、魔法騎士団に所属し続けて辛くはないの?」
「姫様・・・」
僕は自分の今思っていることを伝える。僕は昔から嘘が嫌いだ。嘘がつけないからこそ、前世では周りとうまく馴染めず碌な思い出もない。でも・・・。
「確かに、魔法騎士団は僕の居場所じゃないのかもしれない。そう思ったことなんてたくさんあります」
「僕の生きている意味ってなんなんだろうって」
「でも、姉さんがいて、いつも良くしてくれる魔法騎士団のみんながいて、魔法が使えなくてもみんなの役に立ちたいって思って暮らしています」
「僕には心に決めていることがひとつあるんです」
「自分のできることを全力で!これが僕の全てです!」
「そう・・・それがハルの答えなのね」
「それじゃそろそろ続きを始めましょうか!」
この時、エリス・マナティスは思った。やはり似ている。
兄、ゼイン・マナティスに・・・。
同時に兄の口癖も思い出す。
「自分の今できる最善を!」
エリスは心の中で懐かしく思い、そして、私もハルのように前向きに頑張っていこうと思うのであった。
一方、シルヴィアが参加している会議では・・・。
「魔族の動きが活発になっていることは王宮からの報告で挙がっていますが、先日ガーラ国にてスタートの街が壊滅しました」
「一瞬で壊滅だと・・・」
「報告によると魔王直々の攻撃だったとのことです」
「どうなっているんだ!こんなにも早く魔族が襲ってくるなんて!」
「死傷者は?」
「死傷者は1名のみ・・・です」
「竜族の少女が、住人を転移させ無事だったとのことです」
「さすが、竜族ですな!凄まじい魔法だ!」
シルヴィアは答える。
「だが、安心とは言えないでしょう。いつまた、魔族がマナティスに進軍してきてもおかしくないともいえてしまう」
「ゼイン王子がいてくれたら・・・」
シルヴィアはボソッと呟いた貴族の胸ぐらを掴む。
「お前!今なんて言った?」
「申し訳・・・ありません・・・」
シルヴィアは胸ぐらから手を離す。
「ゼインは死んだ。これは我々にとって受け入れなければならない事実だ!だが、我ら魔法騎士団をはじめとする彼ら彼女らはゼインの分までと言って毎日血眼になって訓練に明け暮れている!」
「貴様らには見えないのか!我々の中で今1番努力しているのはエリス嬢だ!我ら若き世代は着実に育っている。それだけはここに宣言させてもらう!」
「皆、聞いてほしい」
現国王、モーリス・マナティスが口を開く。
「皆に伝えなければならないことがある」
「3日後、魔族がこの国に進軍してくる」
シルヴィアは国王の言葉を考える。
国王の魔法は未来予知。突発的に、未来の情景が見える。そして、国王の未来予知は外れたことは一切ない。
その場は、一気に空気が冷え上がる。準備期間は3日間。その間に魔族の進軍に備えなければ!
「私はこれより魔法騎士団進軍の準備に入ります!後のことは任せます!」
「ああ、任せろ!シルヴィア!こちらこそ頼む。この国を救ってくれ」
この貴族たちは悪い爺さんはどこにもいない。この国のためにと今まで奮闘してきた爺さん達だ。だからこそのゼインの発言だったのはわかるが、さすがに腹がたった。だが、こういう緊急事態に頼りになるのはこの爺さん達なのは間違いない。我ら魔法騎士団は戦闘だけに専念できる。
「それでは失礼する!」
会議室の扉が開き・・・。
「帰るぞ!ハル!」
姉さんの口調が団長モードってことは、大きな戦闘が始まる合図だ・・・。
「はい!」
「姫様、失礼します!」
僕は姉さんの元へ駆けて行った。




