第23話 拡張パック
「さて・・・始めよう!ショータイムだ!」
その声と共に魔族の襲撃が開始された。街中に無数のワープホールが発生した。その中からは魔獣と呼ばれる魔族が湧き始める。その数、3000体。この数はゲームでの襲撃のおよそ3倍の数。もう「ゲームのストーリー通りに」なんて甘ったれたこと言っていられない状況となった。周りは突如として始まった襲撃に混乱状態が続く。そんな中、上空から美しき声が聞こえたのだ。その声は心に直接訴えかけてくるような感覚があった。その言葉に俺たちは落ち着きを取り戻し魔族の迎撃を開始した。俺たちSクラスは委員長セリーヌの指示の下、動き始めた。即席で小さなグループを作り確実に魔族を一体ずつ潰していく。この状況下で的確にセリーヌは指示を出している。流石としか言いようがない。そんな中俺は自身を含めサレン、アレン、アメリア、ジーク、ハンナの6人で魔族との戦闘を繰り広げていた。襲撃してくる魔族はゲーム同様の者ばかり。このくらいの魔族なら俺たちでも何とかなる。そんな風に思っていた。
だが、上空から隕石のようなものが落下してきたのだ。その隕石は黒い角を生やした小学校くらいの少女だった。
「お前らか・・今回の標的は。アルバートの命令だから来たけどめんどくさいな~。ちょちょっとやちゃうよ!」
少女がそう言葉を発した瞬間、三つのワープホールのようなものが俺たちの前に出現し、それは俺たちを吸い込もうとしている。俺たちは全員で手を繋ぎ必死に耐えたのだが耐えきれなかった。俺はサレンと共にワープホールに吸い込まれた。吸い込まれた先は真っ白な何もない空間だった。他の4人がどうなったのかはわからない。それに外の様子もどうなったのか。
「レイン、ここどこ?」
「サレン絶対に俺から離れるな」
「うん」
「大した友情だねえ。レイン・スティール」
「アルバート・クラウ・・」
「く・・く・くはあはははは!」
アルバートは突如笑い始めた。
「いいよ!いいよ!その目、ぞくぞくする!久しぶりだよ。レイン・スティール、そんな怒りに満ちた目は!」
「レイン、誰なの彼は!」
サレンが動揺を見せる。こんなわけわかんない場所で不気味に笑う一人の男が現れたんだ。無理もないのかな。
「こいつが魔族襲撃の黒幕だよ。サレン」
「そんなっ!」
サレンが目を丸くしている。それほどまでに驚いたのだろう。それに加えてサレンにとってはこの状況に理解することすら難しいのかもしれない。
「レイン!だって彼は人間だよ!黒幕だなんて」
「サレンちゃんは僕を人間として見てくれるんだね~。実に実に嬉しいよ。でもねえ僕はとっくの昔に人間を捨てた」
アルバートは今回の黒幕として俺たちの前に立ち塞がっている。俺が絶対に倒さなくはいけない相手として。ゲームでのアルバートは不審な動きはあるものの悪に染まった描写はなかった。むしろ主人公を助ける場面すらあった。今回の明らかな闇落ちを醸し出しているアルバートになったにも何かしらの理由があると俺は見ている。世界は元のストーリー通りにするためにアルバート利用している。それならそれなりのアルバートにも悪に染まった理由がある。世界がストーリー通りにするためにアルバートの設定を改変したということになるだろうか。まあ、少し推測が俺の中でできているのだが。まだ、決定的な証拠が欲しいところか。
サレンは今動揺のあまり体に力が入っていない。この状況でサレンを守りながらアルバートと分身体の二人を相手にできるほど俺は強くない。俺はあるキーワードをもってアルバートに問いかけた。
「なあ、アルバート。クロニクル・ラインって知ってるか?」
アルバートはその言葉に少しの驚きと動揺を見せる。その反応を待ってたよ。アルバート・クラウ。
「そうか・・そうかよ。レイン・スティール、お前もこっち側かよ!」
アルバートはその言葉と共に俺に急接近し持っていた剣を俺に振りかざす。俺は即座に小刀を取り出し攻撃を防ぐ。この小刀はドノバンに頼んで作ってもらったものだ。流石は天才鍛冶師一切の刃こぼれなし。
「その通りだよ。アルバート」
アルバートは一旦距離を置いて話し始めた。
「なおさらお前をここで殺す必要があるなあ。レイン・スティール」
「分身体!サレン・レイスを捕縛しとけ!そいつは後だ!」
分身体は本体の言う通りにサレンを後ろから腕を閉め捕縛する。
「サレン!」
「おっと、レイン・スティール。手を出せばサレン・レイスは死ぬぞ」
「くっ!」
「お前は何故魔族側に就く!魔族側に就いて何のメリットがお前にある!」
俺は問いかけた。アルバート・クラウにいや、アルバート・クラウの分身体に転生した者に。ここまでくれば、俺の推測は推測ではなくなる。後は、本人が認めてくれるかだ。
「いいだろう!教えてやる。俺の前世を、俺の人生を!」
その時、俺の頭の中に誰かの記憶のようなものが流れてきた。俺は浮いている。ここはどこだ。サレンの姿もない。さっきの場所とは違う空間ということか。だが、俺の目の前にアルバートが姿を現した。
「俺がお前の人生を当ててやる。お前は前世でクロニクル・ラインの運営または開発に関わっていた、違うか?」
「ああ、そうだ。俺はクロニクル・ラインの運営に携わっていた。俺は人気ゲームの運営チームとしての誇りを持って仕事に明け暮れていたよ。ストレスなんてない。仕事の疲れなんてない。クロニクル・ラインというゲームが大好きだったから。だが、体は限界だった。俺は過労死したんだよ」
「それでお前はこの世界に転生した。アルバート・クラウの分身体として」
アルバートは目を丸くして、驚きを隠しきれていない。
「お前!どこで気づいた!分身体に転生したことなんて誰にも気づかれていなかったはずだ!」
「俺はお前の発言から推測したとしか言いようがないな」
「まあいい・・。そうだ。俺はアルバート・クラウの分身体としてこの世界に転生した。俺はクロニクル・ラインの主人公に憧れていたんだよ。こんなモブキャラではない。主人公だ。俺は思ったよ。主人公でないなら俺が主人公になってやるって。だからさ・・俺は」
「当時のアルバート・クラウの本体を殺したのか!」
「ああそうだ。俺は俺自身の欲のために本体を殺し、俺が本体となった!あの本体は優しすぎた。欲がねえ。だから殺してやった。それだけのことだ」
こいつは自身の欲のために本体を殺し、自身が本体となった。これで合点がいく。ゲームで不審な動きを見せていたのはアルバート・クラウであってアルバート・クラウではない。アルバートの分身体が魔族と繋がっていたということだろう。アルバートの分身体は意志を持つ。分身体の中から邪悪な心を持った分身体が作られても不思議な話ではない。アルバート自身は優しく主人公を助ける描写などは本体の描写、不審な動きは分身体の描写ということだ。
「本体を殺した後、俺は魔族と接触した。接触してきた魔族は俺に言ってきたんだよ。魔族側に就けばその欲を解放してやるってね。だから俺は魔族の言葉にのった。言っておくが、レイン・スティール。これは、アルバートの分身体がたどるストーリー通りなんだぜ~」
「何を言っている。俺の知っているストーリーにアルバートの本体が殺される描写はないはずだ。本体を殺したのはお前がこの世界でやったことだろ!」
「そうか・・お前は知らねえのか。拡張パックそう言えばわかるか?」
「拡張パック・・」
拡張パックそれは俺がまだ転生する前、片桐誠二だった時に俺は拡張パックが導入される日にそれを速くプレイしたくて学校が終わり次第早急に帰宅していた。だが、俺はその帰宅途中に小学生の子供を守るために横断歩道を飛び出しトラックに引かれ死んだ。
拡張パックはストーリーの後日談や新たなモンスターや登場人物たちの過去の話などが追加されるはずだ。
「まさか、お前がやったことはアルバートの後日談のストーリー通りに行動したとでもいうのか・・」
「そうだぜ。俺は拡張パックのストーリーを速めに行動に移した。それだけのことだ。本来、俺の行動はストーリーの後日談のストーリーだ。アルバートの分身体は魔族と関わりを持っており魔族側として最後の敵(裏ボス)として主人公の前に現れるってことだ」
「流石にそこまでは推測できねえよ」
知らねえことなんて推測のしようがねえ。まさか拡張パックなんてものが関わってくるなんてよ。
俺は、冷や汗を流す。流石に動揺するわ。こんなの。
「アルバートが拡張パックの後日談の最後の敵として主人公の前に現れる。伏線だったわけだ。わざとアルバートの裏設定をネット上に流し、その裏設定を運営側で認める。最後には裏設定を拡張パックで表に出しアルバートを最後の裏ボスとして成り立たせるために」
「すべて運営側の仕業にお前たちは踊らされていたわけだ」
直後、俺は元の白い何もない空間に引き戻される。
「さてと・・長いこと語ったところで、死んでもらいますか。レイン・スティール」
よろしくお願いします。




