第19話 目的の再確認
闘舞祭まであと一週間となったある日の授業中、俺の魔法感知に反応があった。すぐに、反応のあった場所に訪れると1年Aクラスが中庭で魔法実習を行っていた。俺は中庭の樹木の裏に気配を感じ「誰だ!」と声を上げると人影が現れ素早い動きでどこかへ逃げてしまった。俺はこの時何かが引っ掛かっていた。その片隅にはジークの言い放った言葉が脳裏をよぎっていた。
「見えているものだけが真実ではない。表があれば裏がある」
俺はこの時「まさか!」と一つの結論に至った。俺の今考えていることが正しいのであれば裏切者はやつだ。そうなるとジークはこのイベントのことを把握している。自分の妹が狙われることを。ということは・・・。
「ジーク・テイラーは転生者だ」
そして、このイベントにおける裏切者の手懸りは・・・。
「裏設定・・・か」
「ようやく気付いたみたいだね。レイン」
後ろを振り向くとそこにジークが立っていた。
「ジーク。どうしてここに・・」
「君が特定の場所に魔法感知の罠を設置していることは知っている。授業中に慌てて出ていっていったからね。だからここにいるかなってね」
ひとまず俺とジークは授業に戻り放課後を待ったのだった。ハンナのことは他のSクラスの皆に任せ俺とジークは二人きりになれる場所にきていた。俺たちは互いに知っている情報の交換した。俺はこの時この世界はChronicle・Lineのストーリーに沿って進んでおりイレギュラーがあれば世界は元のストーリーに戻るように修正することを伝えた。
「僕もそう考えているよ。この世界はChronicle・Lineのストーリーに沿っている」
「ジーク。いつから俺が転生者だと気づいた?」
ジークは今までのことを語ってくれた。まず、ジークも俺と同様もともとは地球の日本に住んでいた。ジークは幼いころから重い病気に苦しんでいた。そんなときに一人でも楽しめるゲームに夢中になっていた。最後に遊んでいたゲームがChronicle・Lineだったが、病気で命を落としこの世界にジーク・テイラーとして転生していた。
「転生して、双子の妹ができて僕は二度目の人生を楽しんでいたよ。でも・・・」
「お前は知っていた。妹が、ハンナが今後たどる運命を!」
「そうだ・・。僕はハンナが自身の魔力によって衰弱していき、魔族によって目を覚ますことのない状態になることをね。病気に苦しんで死んだ僕はハンナの苦しんでいる姿を見ていられなかった。だから僕は決意した。こんな運命ぶっ壊してやろうってね。そんな時だよ。レイン。君が現れたのは」
「君は本来Sクラスに所属する人物ではない。始めは半信半疑だったよ。君が僕と同じ転生者でこの世界に歯向かっているのかどうなのか。でも、僕はハンナが魔法暴走したとき君がハンナを助けてくれた。確信したよ。君が転生者だってね。ハンナの魔法は僕たち兄妹と一部の信頼する人物しか知らない。それなのに君は知っていた」
「それなら、俺が転生者だってことに気付いたときにどうして接触してこなかった?」
「あの場には僕たちとハンナ、サレン以外にも人がいたからだよ」
「なんだと!?」
あの場に俺たち以外に人がいた?まあ、ジークが言うのならば間違いはないか。ジークは探索の魔法も得意とする。その精度は国がジークという人物を欲したほどだ。
「おそらくそれが、このイベントの首謀者アルバート・クラウだ」
「今回のイベントは初めはスタートの街を襲い魔族の領土を拡大することが目的だったと考えられる。でも、アルバートは俺たちの会話を聞いてしまった。そして、ハンナの力を奪うことも計画の一部とした。自身の手柄のために。重力魔法が魔族に渡れば魔族との力の均衡はもう、戻ることはないだろう」
ジークの推理ならすべての辻褄が合う。魔族の領土拡大だけが目的ならわざわざ冒険者学校の内部から侵攻開始する意味はない。堂々と街の真ん中にワープホールを出現させ侵攻すればいい。俺の魔法感知の罠が闘舞祭開始の一週間前なんていうギリギリで反応したのはその計画にハンナの重力魔法奪還が計画に加えられたことで急遽、冒険者学校を中心に侵攻を開始することにしたからだ。
「でも、まさか裏設定まで関わってくるとわな」
「正直、僕も驚いているよ」
Chronicle・Lineには様々な裏設定が存在している。そんな裏設定の中でゲーム上Sクラスの一人だったアルバート・クラウには不自然な行動が多く魔族との内通者という裏設定がある。これは、ゲームのユーザーが言い出したことだったが、裏設定の中で唯一ゲーム制作陣が認めた裏設定だ。
「この世界ではレインがSクラスに所属したことによってアルバートの裏設定を利用して今回のイベントを通常のイベントに世界が戻そうとしてるわけか」
「レイン。今回のイベントで世界にとって一番の邪魔者は君だ!世界は元のイベントに戻すのと同時に君の存在も消しに来ることも大いに考えられる」
「そんなの重々承知だよ。サレンを守るって決めたときから覚悟はできてる。それを言うならジーク。お前も人のこと言えねえだろうが」
「まあ、そうだね」
俺たちは少し笑っていた。笑えるような状況ではないのに。
何故だろうか。ジークの言葉を聞いたとき安心した気持ちになった。この世界に転生してきたのが自分以外にも存在した。この事実は俺にとってこれほど頼もしいことはなかった。俺もジークもこの世界に転生して守りたい存在ができた。俺たちの目的はただ一つ。
「サレンを」
「ハンナを」
「「絶対に守り抜く」」
そして、とうとう闘舞祭は開始されたのだった。
よろしくお願いします。