第17話 闘舞祭準備開始!
とうとう一か月後に俺が今までのすべてを懸けるイベントが始まる。その名も「闘舞祭」。そのイベントがゲーム通り進むのならサレンが死に、そして、ハンナが昏睡状態となり、魔族との力関係が崩壊する。このイベントに抗うことは世界に背き、世界を完全に敵に回す。
「さて・・・世界。どう動く!」
リディア先生のくじによって闘舞祭実行委員になってしまった俺だが、今現在・・・クッソ忙しい!猫の手も借りたいとはこのことだ。実行委員の仕事はいわゆる文化祭実行委員と同じことだ。闘舞祭の準備の進行、お金の管理、冒険者学校への届け出など様々な仕事がある。だが、もう一人の実行委員ハンナ・テイラーは自身の魔力によってかなり体に負担をかけているため無理をさせるわけにはいかない。だから、ほとんどの実行委員の作業は俺一人でこなしている。リディア先生にハンナの交代も頼んでは見たのだが・・・。
「ハンナの交代ねえ。まあ、レイン一人で何とか回ってるなら頑張れ!私は私で忙しい。そっちばかりに構ってもいられん」
そう言うと、リディア先生はその場から去ってしまった。なんて無責任な・・・。こうなったら何とかするしかないな。まあ、この実行委員がデメリットだけということはない。今回のイベントのカギとなるのは「裏切者」の存在だ。正直にというか、疑いたくはないが俺は1年Sクラスの全員を裏切者として疑っている。これは仕方がないことだ。
今回のイベントで狙われるのはハンナだ。この学校で一番ハンナに近づくのがたやすいのは・・・。そう考えてしまえば一番に疑うのはSクラスの連中だ。俺だって疑いたくて疑っているわけではない。この疑いを晴らすために疑っている。なんかわけわかんなくなってきたな。ともかく今はSクラスの連中の動きを監視できる実行委員という立場にいる。何とか「裏切者」のしっぽをつかめればいいが・・・。
まあ、ぶっちゃけると、他学年、他クラスにまで目を向けていては俺1人だときりがない。俺たち1年で今年は150人。それが後2年生、3年生、教師陣も加わるとなると合計で450人以上、俺だけじゃキリがない。それに協力を頼むにも俺の言葉を信じる奴なんているはずがない。俺の言葉は、聴く側からすれば妄想、カッコよく言えば、未来視だ。Sクラスの連中を疑うのは少しでも情報があるもの集団だからというのも大きい。全く情報のない、名前もわからない相手から探すよりも少しでも情報のある者たちから調べていった方が効率がいい。
それに、もしゲームだったらゲームのストーリーでポット出のやつがいきなり「私が裏切者です」なんて出てきたらお前誰やねん!状態だ。この世界がゲームに忠実に近似しているのなら裏切り者はこのストーリーに関わってくる人物だと考えるのが妥当だ。まあ、これで裏切者がポット出の奴だったら裏切者なんて探せるわけがねえ。
もしもの話だが、1年Sクラスの連中の1人でも敵になったらどうなる?まあ、その瞬間、ストーリーは一気に変化するだろうな。主人公をサポートするポジションにいたやつが敵だったんだから。じゃあ、そのポジションは誰が埋める?この心理にたどり着いてしまったらこのストーリーは修正不可能か。
「1人1人調べるしかないな」
俺は教室に戻り闘舞祭の準備に勤しんでいた。そこにハンナがやってきた。
「レインくん・・・私にできることある?」
確かにやることはたくさんある。だが、その作業を任せて体に負荷がかかるのも俺としては嫌だ。それに、ハンナは自身の重力魔法のことを隠している。重力魔法のことを知っているのは本人と兄のジーク、俺の3人だ。まあ、ハンナとジークが重力魔法のことを俺が知っていることは知らない。どうしようかなと考えていると兄のジークが現れた。
「レイン、僕にも手伝わせてくれないか。ハンナのことは俺がサポートする。これでレインの負担も減るだろ。どうだ?」
「ありがとう。ハンナのことはジークに任せるよ。助かるよ、ジーク」
ありがたい申し出だ。ハンナのことも人手不足もこれで何とかなるだろう。
「早速だが、何か手伝わせてくれ」
「それじゃあ・・・お化け屋敷のSクラスの連中の進行状況が知りたい。確認して来てくれないか?」
「わかった。よし、行こうか。ハンナ」
「うん!」
そうして、ハンナ、ジークは教室から出ていった。仲のいい兄妹だ。裏切者としてジークは除外だな。もしもジークが裏切者なら今までハンナの魔力結晶を狙わなかった理由がわからない。この一か月が勝負だ。何から何まで調べつくすぞ!
それから月日は流れ闘舞祭まで残り2週間となった。準備は着々と進んでいた。意外と順調に進むもんだな。これまでの闘舞祭の準備でSクラスの連中を調べてはみたが裏切者になる要素が全く見つからない。正直に言ってまずい状況だ。Sクラスに裏切者がいないとすれば、裏切者の捜索範囲は学校全体ということになる。何かないのか?突破口は・・・。
「レイン」
考え事をしていると、一人の少年に声をかけられた。その少年はドノバン・テイク。ドワーフの少年だ。Sクラスに所属している。ドワーフなだけに鍛冶が得意で俺たちの世代では天才鍛冶師の名で知られている。
「ドノバンか、どうした?」
「できたぞ・・・頼まれたものだ」
俺はドノバンから布で包まれたものを受け取る。俺はその中身を確認した。
「ありがとう。ドノバン」
「これは貸しだからな。ぜってえ返せ」
「あいよ」
そう言うとドノバンは去っていった。流石は天才鍛冶師。仕事が早え。
それはさておき。少し細工をしようと思って今は中庭にいる。闘舞祭では魔族は召喚魔法によって侵攻してくると考えられる。それならば召喚される際には魔法での干渉が確認されるはずだ。俺の適正魔法は隠密・偵察だ。魔力探知なら朝飯前だ。俺はそこらへんに落ちている石ころに魔力探知の魔法を仕掛けておく。召喚魔法が発動するならその石が反応するはずだ。それに召喚魔法を仕掛ける際にも魔法の干渉が確認できる。
「引っかかってくれよ」
「レイ―――――ン!」
俺は背後から猛烈なタックルを食らった。
「大変なの!」
サレンの様子がおかしい!なんか慌てた様子だ。
「ハンナちゃんが・・・ハンナちゃんが!」
「ハンナがどうかしたのか!」
俺はサレンに連れられてお化け屋敷の会場に向かった。そこにはハンナが倒れ苦しんでいた。
「何があった!」
「ハンナちゃんとジークと一緒にお化け屋敷の準備してたんだけど急に倒れちゃって」
「ジーク!これは一体?」
俺はジークにハンナの様態を確認する
「ハンナの魔力が体内で暴走しかけている。今までここまでのことはなかったんだが、くそっ!どうしたらいいんだ!」
「ひとまず先生たちを呼ばないと!」
サレンはそうして先生を呼ぼうとするが・・・。
「それはダメだ!ダメ・・・なんだ!」
ジークは歯を食いしばってそう訴える。それもそのはずだ。ここで先生を呼べば今まで隠してきたハンナの魔力のことが漏れてしまう。だが、今のハンナの状況を考えれば・・・。正直どこに裏切者が潜んでいるかわからない。だが、ここで魔力暴走が起こってしまえばどうなるかわからない。ハンナの魔力は重力魔法だ。強力な魔力ゆえに被害が想像できない。奥の手として取っておこうと思っていたが・・・仕方ない。
「悪いなサレン・・・」
「え・・・」
俺はサレンのみぞおちを殴りサレンを気絶させた。
「何をしているレイン!」
「今は俺を信じてほしい!ハンナは自身の重力魔法が体内で暴走している。放出してやらねえと本当に死ぬぞ!」
「俺がブラック・アウトでハンナごと影の中に連れ込む。そこでハンナに重力魔法を発動させる。もうこれしかない」
「どうして重力魔法のことを知っている!レイン!」
「今はごちゃごちゃ言ってる暇わねえ!お前は妹を殺したいのか!」
「・・・わかった。今はお前を信じる!」
俺はハンナに言葉をかける。
「ハンナ、俺の言う通りにしてくれ。俺が合図をしたら魔法を発動させろ!お前を救うには今はこれしかない!」
「行くぞ!シャドウ・アウト!」
俺はハンナを抱え、影の中に潜る。影の中は暗く何もない空間。
「ハンナ!魔法を発動しろ!」
すると、ハンナの体は光だした。その直後だった。
「ぐはっ!」
なんだこれ!これが重力魔法か・・・。体が重い。頭いてえ。耐えろ!耐えるんだ。ここで耐えなければ男じゃねえ!
「うらああああああああ!」
時間はどのくらい経っただろうか。俺はハンナの重力魔法に何とか耐え現実の空間に戻ってきた。
「ハンナ!」
「安心しろ。ジーク。今は安定している。これで大丈夫だろう・・・」
「ありがとう。レイン」
「今はお礼はいい。ハンナとサレンを寮まで運ぶぞ」
俺とジークは寮にハンナとサレンを運びこの一件は落着したかに見えた。だが・・・。
「レイン!ハンナの件は感謝している。だが、僕の質問に答えてくれ!」
「レイン!君は・・・なぜ、ハンナの魔法のことを知っている!」
よろしくお願いします。