第10話 敵
ダンジョン攻略をすることになった俺たちSクラスは3つのグループに分かれそれぞれのグループは各グループごとにダンジョン攻略を進める。俺の所属するグループは俺を含め5人。
俺、レイン・スティール。
ガジル・ヘイド。
ミコト・ムラクモ。
アレン・ルイス。
アメリア・レイスの5人である。
淡々とダンジョンを進みダンジョンの最深部にたどり着いた俺たちだが、そこにはネズミの魔物が100体程潜んでいた。この時だった。俺があることに気付いたのは。このダンジョン攻略が罠ということに。
そう、このダンジョンは罠だったのである。ゲームでいうところのダンジョンは、内部は敵の巣窟になっている。宝箱などが設置されていてレアアイテムを獲得できることもある。つまり、ダンジョンはハイリスク・ハイリターンの探索スポットと言っていいだろう。
だが、この世界はゲームではない。現実なのである。この世界での敵は誰だ?「魔族」である。じゃあ、ダンジョンとはなんだ?「敵の巣窟」つまりは「魔族の巣窟」なのである。
俺たちはダンジョンに入る以前に何者かに認識を阻害する何か魔法をかけられていたと考えることができる。俺たち5人はダンジョンに「敵」がいるという「認識」は確かに存在していた。だが、その「敵」=「魔族」という「認識」何者かに操作されていた。まあ、そんなことができるのは今のところ一人しか考えられないが・・・。
「ひとまずは外に出よう。このままだと他のグループが危ない!」
「間に合ってくれ!サレン・・・!」
俺たち5人は外に出るべくダンジョンを走り外へ脱出を試みた。だが、何だかおかしい。一向に進んでも進んでも進んでいる気がしないのだ。
「どうなってるんだ。道が終わらない?」
「確実にわしらの足止めじゃのう。何が目的なんじゃ?」
何が目的なのか。そう。ここがポイントだと思う。俺たちを確実に殺したければこんなまどろっこしいことはしないだろう。ゲームでも序盤にダンジョン攻略のミッションみたいなものが存在した。ゲームでのダンジョン攻略の目的はチュートリアルだ。確かにこの世界はゲームの世界に近似している部分が多くある。それなら、ゲームの順に沿ってこの世界も動くことも考えられるだろう。ゲームの開始は冒険者学校の入学ごろから始まるからそれまでの幼少のころの出来事や記憶はストーリーの回想シーンなどで明かされていく。だから俺やサレン、アメリア、アレンが幼少の頃はまだ、ゲーム上ではストーリー自体がスタートしていない。だからこその今回のダンジョン攻略のイベントが発生しているのなら辻褄が合う。
しかし、何回も言うが、ここはゲームの中ではない。現実だ。この世界にチュートリアルなんてものはない。だからこそ、この出来事はチュートリアルの意図を含みつつ何らかのストーリーに繋がっている。モブキャラである俺に主導権はない。もうここは、主人公に任せるしかない。さあ、どう動く。主人公アメリア・レイス。
「もう!めんどくさい!みんな離れて。ぶっ放す!」
アメリアの意図を察したのかアレンは俺たちに指示を出した。
「みんな伏せて!」
俺はアレンの言葉通り伏せてアメリアの動きを見守った。
「穿て!ヘヴンズ・レイ!」
アメリアは拳を力を籠め始めた。その拳からは光魔力が籠められていく。その言葉と共に拳からは光の光線が放たれダンジョンの天井を貫通させていった。
「ふう・・・よし!」
よしじゃねえよ。これが主人公の力ということか。これでまだまだ成長するとか化け物か。アメリア・レイス。適正魔法・光魔法。光魔法は適正魔法としてめったに出現しない特殊魔法である。魔族の闇とは相反する光の魔法を持って生まれた少女か・・・。
「これまたベタな主人公設定ですわ・・・」
俺たちはアメリアの魔法のおかげでダンジョンの外へと脱出した。外に出ると、外には・・・。
ガイ先生が立っているが・・・その周囲には他の「2」「3」のグループの連中が倒れていた。
倒れている中には、サレンの姿もあった。
「サレン!」
こんな展開ゲームにはなかった。この世界はゲームの世界に近似しているだけであって全く同じというわけではない。
「あれあれ?出てきちゃったか・・・せっかく遊んであげようと思ってたのに」
「お前何者だ?ガイ先生の中から出てきやがれ!」
ガイルは何かに気付いているかのように言葉を紡ぐ。
「朝から胡散臭いとは思ってたよ!入学式の時のガイ先生よりも骨格が変形している。見破れないとでも思ったか?」
「まさか、感づいているガキがいるとはね」
すると、ガイ先生の体から黒い煙のようなものが放出されガイ先生は倒れそこから突如として異様なものが姿を現す。その姿は煙のような塊に目が一つある異様な姿。俺たちは困惑する。俺たちはこの時初めて目撃したのだ。「魔族」というものに。
「目的は何だ!」
俺は魔族に質問する。体は震え、口は乾燥し冷や汗が額をつたる。目の前の魔族からはとてつもない闇の魔力を感じ取れた。はっきり言って今の俺たちには歯が立たないと。
「様子を見に来ただけさ。他の種族のね。それに勇者の姿を見にね。」
「目的は達したし帰ろうかな。でも・・・もっと近くで顔を見せてもらおうかな勇者ちゃん?」
魔族はそう言った瞬間一瞬でアメリアの元まで接近してきた。
「シャドウ・アウト・・・」
俺は影の中に潜り込みアメリアの前まで移動した。アメリアの目の前に来た魔族に俺を俺は睨み返した。
「お前の望みは、今は叶えられない」
アメリアは魔族の魔力にあてられ放心状態になっている。それもそうだ。これほどの実力差を見せつけられれば無理もない。俺ももう怖くて仕方がない。睨むのはもう最後の悪あがきだ。魔族はアメリアの今の実力を測ろうと近づいてきていた。
「いいよ・・・今日のところは引くとしよう。また会おう。勇者パーティー諸君」
アメリアの放心状態を確認すると魔族は引いていった。俺は一気に体の力が抜けその場に倒れたのだった。
この出来事の直後、冒険者学校の先生方や関係者の方たちが現場に訪れ救助が行われた。この出来事は、完全に勇者であるアメリアの観察が目的だろう。簡単に俺たちを殺せるはずなのにもかかわらず、サレンを含む冒険者学校の生徒に死者は出なかった。俺たちを殺さなかったのは魔族側の何らかの命令をあの魔族が利いていたからとしか考えられない。この出来事は全世界に広まり拡散されていった。今まで、動きのなかった魔族側からとうとう動きがあったからだ。世界規模で魔族への警戒が強くなった。
俺は医務室で意識を取り戻した。そこには、心配そうに見つめるサレンの姿とアレン、アメリアの姿があった。
「サレン・・・無事だったんだな。良かったよ」
俺はサレンの頭を撫でた。
「もう・・・無理しないでね」
ああ、またサレンを泣かせてしまった。男としてあんまり女の子を泣かせるのは良くないよなー。サレンの傷も大した事なさそうだ。サレンも泣き止みアレンたちの方を見た。
「ありがとう。助けてくれて・・・」
「お礼なんて言わないでくれ」
まさか、あのアメリアから俺の言葉を聞くことになるとは思わなかった。
「僕からもお礼を言わせてくれ。あの時、僕は魔族への恐怖で体が動かなかった。アメリアを助けてくれてありがとう」
アレンは深々と頭を下げる。
「やめてくれ。二人とも。この話はこれで終わりだ。俺たち4人これから仲良くしていこうぜ!な!」
俺はこの会話を強引に終わらせた。こんな序盤でこんな落ち込んでもいられないからだ。俺たちを巻き込むストーリーはまだ始まったばかりだ。俺たちの実力が魔族にはまだ遠く及ばないことは今回でSクラス全員が感じたことだろう。これからもっと強くなっていこう。
「よし!これからご飯いこう!」
サレンのその提案で俺たち4人は夕飯を食べに行くのだった。
よろしくお願いします。