2章 -35- やっぱりラブ&ピースだよね
「貴女はユータの奴隷になるのよ。ユータへの態度と言葉遣いには気をつけなさい?」
メディーの指示に呼応したのか、ジュジュっと音がしてお姉さんの首の鎖の痣から煙が出た。
少し痛いらしく、お姉さんが少し声を漏らしていた。
「わかったわ。私は坊やの奴隷ね」
どうやら命令として発動したようだ。
だから奴隷になんてしないって。
とりあえず、話の軌道修正をしていこう。
「えっと、やっと話のできる状況になったかな?」
有翼人のみんなは、リーダーであるエルシアが負けたことに驚き硬直したままだ。
その後のやり取りも今まで黙って見ていた。
とりあえずさっきまでのように、喧嘩腰で来られることはなさそうだ。
「俺たちはこの先の王都に向かいたいだけなんだ。テリトリーに入っちゃったのは謝るけど、見逃してくれないかな?」
ほんとはこれ、最初に言いたかったよね。
そのまま通してくれればなにもなかったのに。
「それは……、もうわしらには貴方がたにどうこう言えませぬ」
お婆さんがそう答えた。
「おお、てことはそのまま通過しても良いってこと?」
「あ、ああ」
「ありがとー! ここ通れると結構すぐ行けるっぽいんだよね」
今後も通って良いとのことだった。
これは重畳。
今後、王都やエルケンリアードの街、エルフの村を行ったり来たりするようになれば、ここを通れるのは非常に楽だ。
通常はこの森を迂回するルートが選ばれるらしいので、何かと俺たちに便利に働くだろう。
まあ、そもそも空を飛べる人がいないので、魔物の多くいる森の中を通過する人は他にいないだろうが。
で、とりあえずは片付いた。
が、
「あら、ユータが最初から通るだけだと言っていたのに、絡んできたのはあなた方でしょう?」
これで終わらせないのがメディーさんだった。
「そ、それは申し訳なく思っている」
おばあさんが渋い顔でそう答える。
まあ、確かに勝手に絡んできて負けたからと言ってさあどうぞ、では筋が通らないのか。
でも絡まれた本人が良いって言ってるんだからさぁ。
「メディー、もう良いから」
「そう?」
とりあえずこれ以上は引っ掻き回したくない。
今度こそ片付いた。と、思いたい。
後はこのお姉さんだけど。
エルシアさんを見る。
自身の身体を抱くように立つ姿が非常に様になっている。
スタイルの良い身体のラインが引き立って、背中にある純白の翼も相まって芸術品のようだ。
しかも、腕を寄せているので大きな胸が寄せられて、すごく良い。
え? 今日からこれが、俺のものに…………なんて思わなくもない。だって男の子だもん。
確かにそのシチュエーションを思うと非常に惹かれるものがあるけど、それはダメだ。
「じっとしてて」
そう言って近づく。
エルシアさんは口をきゅっと閉じて、こちらを見てくる。
その目には諦めの色が濃いようだが、まだ諦めきれてない感じもした。
その証拠に、
「動こうとしても無駄よ?」
メディーが声をかけた。
お姉さんの腕がプルプルしている。
抵抗しようとしているようだが、隷呪に逆らえないでいる様子だ。
さっきの俺の言葉「じっとしてて」も命令になってしまったようだ。
そんな抵抗できない美女に近づいていく。
なんだろうこの背徳感。
このままちょっとだけ、なんて欲が出てくる……。
あ、正面から行くとすごい睨まれて怖い。
悔しさからか、諦めの中でも反感が強くなってきたようだ。
視線が怖いので後ろへ回る。
なるほど、首筋が弱いのはこれのせいか。
戦闘中はゆっくり見れなかったが、彼女の首筋、うなじのあたりから翼の付け根にかけてうっすらと羽毛のようなものがあった。
翼の羽とも少し違い、ふわっふわで柔らかな毛がうっすら並ぶ。
遠目に見るとわからないレベルだけど。
これをそっとなぞられたら確かにゾクゾクしてしまいそうだ。
もう一回なぞりたくなったが、我慢する。
(できるか?)
『大丈夫よ』
ミズキから返事があった。
精神属性の精霊が対応できそうとのことで、大丈夫そうだ。
非常に複雑な魔法だそうで、同じ事はできないものの、解除はなんとかなるようだ。
精霊たちの指示に従い、首元へ手をかざす。
精霊のサポートを受けながら魔力を操作した。
するとエルシアさんの首元から、煙が噴き出した。
今度の煙は、先ほどのようにどす黒いものではなく、すすのような薄墨色の煙だった。
浮かび上がっていた黒い痣が、煙となって消えていく。
解除できたようだ。
『ひゃー、さすがにこれはすごいねー』
あっさり解消したように見えたけど、結構大変だったぽい。解除に関わった精霊が感心していた。
しかし無事に解除できたようで、良かった。
「あら?」
メディーさんから驚いたような声が聞こえた。
残念なのかと思ったら、これはこれで面白そうな顔をしている。
「……っ!?」
直立不動を解いたお姉さんがこちらを振り返った。
首を確認するようにさすっている。
「じゅ、術者本人でもない者が、禁呪を解くとは……!」
近くにいた有翼人のお婆さんはまたも驚いている。
驚きすぎじゃない?
心臓止まったりしない?
大丈夫?
「どうして……?」
どうしてってそりゃあ、引かれるものはあったけどさー。
強引にってのは趣味じゃないんだよねー。
やっぱりラブ&ピースですよ。ラブ&ピース。
「そんな理由で……」
あれ?
『漏れてたわよ』
どうやら考えてるつもりで口に出してしまっていたようだ。
俺の心の声はダダ漏れらしい。
栓とかないのかな?