2章 -34- ちょっとだけだよ
「うくっ、うぅぅぅぅぅ」
答えはすぐに分かった。
目の前にいたエルシアさんが苦しみだしたのだ。
両手でのどを抑えている。
その指の間から、どす黒い煙のようなものが漏れ出ていた。
よく見ると、鎖のような痣がじわじわと首を一周しようとしていた。
「こ、これは隷呪の鎖!?」
慌てて近づいてきた有翼人のお婆さんが、その正体を看破した。
「あら、物知りな子ね」
正解だったらしい。
というか、お婆さんを子供扱いとは……。
『有翼人は長くても300年くらいしか生きないからネ』
ミザリーが教えてくれた。
なるほど。
500年以上生きるメディーさんからしたら、少なくとも200歳以上年下なわけだ。
しかし、“隷呪の鎖”とは物騒な名前だな。
「何したんだ?」
メディーに問いかける。
殺しはダメだとあれだけ言っているので、死ぬことはないだろうけど。
ひとまず、状況を把握することにした。
「あれは“隷呪の鎖”と言って、相手を服従させる魔法よ。呪いと言った方がいいかしら」
この人、服従系の能力豊富だな。なんでそんなにレパートリー充実してるの? 怖い。
精神属性の魔法らしい。
「レジストしやすくて、相手の心が弱った時しか使えないのが難点だけど。最初のキーは魔力も微量で差し込みやすいのよ?」
いいでしょ? みたいに言わないでほしい。
そんな怪しい魔法使わない。
強力な呪いである反面、相手の精神に深く入り込む必要があり、通常だとレジストされてしまうそうだ。
しかし最初に打ち込む魔力は極めて少なく、魔法の初動を見るのは難しいのだとか。
戦い始める前に何かしていたのはこれだったようだ。
そして発動条件が満たされたとき、内側に入り込んだ魔力をカギに魔法を発動し、内側と外側から相手の精神を支配するのだとか。
戦いに負け、心が折れた時に隙ができてしまったのだろう。
まあ、確かに気の強いお姉さんだったので、折れた時の反動は大きいだろうけど、そこを容赦なく狙っていくメディーさんがエグイ。
「こんな恐ろしい呪いを……」
おばあさんが口をパクパクさせている。
そんなにヤバいのだろうか。
「婆から聞いたことがあるわね。そんなもの、ただの作り話かと思っていたけど」
一応自我はあるようで、エルシアさんが弱々しくも言った。
「実際にあるのよ」
メディーさんは楽しそうでなによりである。
実にご機嫌だ。
「そのようね。……これに縛られると生涯、いえ、魂まで絡めとり死んでも隷属させられるのだったかしら」
魂までって、どんだけだよ。
というか、魂ってやっぱり存在するのか?
科学だけでは説明つかない部分も、魔法や魔術があれば別角度から説明できたりするのかな?
「どうかしら。今までそれで縛った相手は、全存在ごと消してきたから分からないわね」
だから怖いって。
全存在って、魂すら残さず消してきたってこと?
まあ、こっちの世界では人を殺すことなんて普通にあるらしいから、だからどうとは言えないけど。
「そう……」
有翼人お姉さんは、諦めたような顔をした。
「完全に私の負けね」
「ええ、そうね」
だからメディーさんはそのニコニコやめようよ。
「………………」
メディーにお姫様抱っこされた状態のままの南雲も、ちょっと引いている。
「……いいわ。どちらにせよ最初に決めたルールでは、負けた方が奴隷にるんだったもの。好きになさい」
諦めの境地に達したのか、ずいぶん大人しくなってしまったエルシアさん。
「あら、もう少し泣きわめいても良いのよ?」
メディーさん、完全に悪役ですよ?
まあ、崩天の魔女とか呼ばれてたらしいし、元々悪い人なのか?
そこ、本気で残念そうにしない!
「あー、いいかな?」
このままだと話が変な方向に行きそうなので話を止める。
「ええ」
俺に向かってにこやかに頷いたメディーは、
「貴女はユータの奴隷になるのよ。ユータへの態度と言葉遣いには気をつけなさい?」
エルシアさんに向けてそう言った。
何が「ええ」だよ。俺の意図を全く汲んでないよ?
奴隷にもしないから。
まあ、あんなクール系お姉さんが自分の奴隷とか言われるとちょっとドキドキしてしまうけど……
ちょ、ちょっとだけなんだけどね!?
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今後とも頑張って書いていきますので、何卒宜しくお願い致します。