2章 -30- いいね!
「では、始めましょう」
さっそく有翼人のお姉さんが開始しようとしてきた。
しかし我らがメディーさんが悪い顔をしている。
ここは替わった方がよさそうだ。
「あー、メディーはなんか危ないことしそうだから俺が出るよ」
「あら、危ないことなんてしないわよ。きちんと治せる範囲にするもの」
心外だわ。みたいな顔をしているが、絶対アウトだ。
というかその発想がすでにアウトだよ!
治せるから大丈夫という話ではない。
少なくとも、死なないまでも血を見そうだ。
というか、勝つことしか考えていなさそうである。
自信があるのは良いことだけど、おごってしまうのも危険だし。
「やっぱり俺が行くよ。南雲を宜しく」
空中で南雲を受け渡す。
「え、ちょ、やだっ!? 怖い!!」
南雲が何か騒いでいるがここはスルーしておく。
メディーは魔法で南雲ごと浮かせているようだったが、南雲が悲鳴を上げるので、仕方なくお姫様抱っこのようにしていた。
南雲も、宙に浮いているときは怖がっていたが、メディーの腕に収まるととりあえずは静かになった。
実際には魔法で浮いているので、メディーの腕の力が限界、とかもなさそうだし大丈夫だろう。
そこまで確認して、少し前に出る。
「あら、坊やが相手してくれるのかしら」
有翼人のお姉さんは一応待っていてくれていた。
それも自信の表れなのだろう。
これは警戒して望むべきだな。
「あー、まあ、そのまま見逃してもらえると一番嬉しいんだけど」
一応言っておく。
「それは無理ね。勝負をしないと言うなら、つまらないからすぐに殺すわ」
やだ、この人怖いわ。
メディーもそうだったけど、こっちの世界の美女は危険人物が多いのだろうか。
「逃がすつもりはないわよ」
「ですよねー」
衝突は避けられそうにない。
「そっちのあなたの方が面白そうだと思ったけど、本当に良いのかしら?」
お姉さんはメディーを指してそう言った。
まあ、当然だろう。
地味で普通の男子高校生的な俺より、美女で妖艶で何考えているか分からないメディーさんのほうが、強そうにしか見えない。
「ええ。ユータの決めたことに反対はないわ」
メディーは相変わらず面白そうにしている。
この状況を楽しんでやがりますよ。
「では、始めましょう」
有翼人のお姉さんの宣言でゲームがスタートしてしまった。
始まった。
ひとまず様子を見る。
「そういえば、まだ名乗っていなかったわね。私はエルシア・シルフィードレアよ」
「どうも、ユータ・フルカワです」
いつものノリで名乗ろうかとも思ったのだが、このお姉さん、隙を見せるとやばそうだ。
「ふふふふふ。私は空を飛ぶ速度は一族でも最速よ。せいぜい頑張りなさい」
やっぱり。
有翼人って種族からして、とにかく飛行しながらの高速戦闘が定石だろうと思っていた。
そのリーダーともなると、種族の中でも最速に違いない。
目もかなり良かったはずだ。
となれば、ポーズ付きで決めゼリフなんて叫んでいると、スキを突かれかねないのだ。
戦闘においても、それは変わらない。
変に動いて隙を見せたら一撃でヤバイのを貰うかもしれない。
今できる最速を出して戦う方がいいだろうな。
戦闘が始まった段階で、すでに弱めの思考加速は使用していた。
それを一気に引き上げる。
周囲の動きが相対的に遅くなる。
(ホムラ!)
『はいな』
自分の中に呼びかけて、精霊を呼び出した。
ホムラは日本組で、属性は炎の精霊。
おだやかでのんびりした性格なので、普段はぼおっとしていて会話にはそれほど参加してこないが、俺の中でも結構古い付き合いだ。
(アレで行く)
『かしこまりー』
ホノカはすぐに応じた。
飛行のために足からエアーバーストを使っていたが、そこに合わせて炎の魔法を重ねていく。
ファイアバースト。
足元で炎を爆発、噴出させ、その反動で移動する。
一見足裏ジェット噴射だ。百万馬力かな?
同時に魔力をより強く身体に通し急加速の負荷に耐えつつ、風を操作しバランスを保つ。
サポートは万全の精霊さんオートシステムだ!
効果は、エアーバーストの比ではない。
一瞬で加速できた。
(ん?)
『これじゃやりすぎみたいね』
やれやれと言った感じでミズキに言われた。
すでにエルシアさんの目は俺についてきていなかった。
…………あれ?
すごい雰囲気あったので、ヤバいと思っていたが、あれ?
思考加速している状態だと、いまいち通常時との差がつかめない。
しかも今はかなり加速している。
ファイアバーストの加速をなんとか制御できる程度で、それ以外の動きはなかなか思うほど身体が追いつかない。
しかし状況把握は可能だった。
エルシアさんの横を通り過ぎても振り返るどころか、彼女の眼は正面を見据えたままだ。
というか、この場の誰もが俺を追えていない。
いや、メディーが俺を見ている。わずかには遅れてはいるけど、彼女の視線が俺の軌道を追ってきて、俺を捕らえた。
あと有翼人のお婆さんの視線が若干動いているようだ。俺を追えてはないまでも、その場にいないことはいち早く把握した様子。
それだけ一瞬の間の出来事だ。
しかし、こうなると余裕ができた。
視力以外の認識スキルがあるのかもしれないが、背後まで回り込まれて全くの無対応ということはないだろう。
警戒は怠らないものの、ちょっと遊び心をくすぐられた。
何かのマンガで、ハーピィの性感帯は首筋だと読んだことがある。
ちょっと違うけど、有翼人のそれも同じだったりするのだろうか?
試してみよう。
首筋に触れる直前まで最速で動き、触れるギリギリで速度を落とした。
そのままの速度で触れてしまうと、それは攻撃になってしまう。
エネルギー=質量×速度の二乗だったかな。
指先だけの軽いタッチでも、速度が尋常じゃなければ、でこピンよりも痛い何かになってしまうのだ。
そして、やさしく首筋に触れ、撫で上げた。
「っ、んぅっ」
………………。
エルシアさんの口から、甘い声が漏れた。
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