2章 -29- 有翼人のクイーン
人影が下りてくる。
空の明るさを背にしていてシルエットしかわからないが、女性のようだ。
というか、声も女性だし。
「空を飛ぶ人間なんて初めて見たわ」
降りてきたのは綺麗なお姉さんだった。
見た感じ二十歳ちょっとくらいで、スレンダー美女って感じである。
スレンダーと言っても、一部には激しい膨らみがあって主張を怠らない。
メディーさんほどではないが、南雲と張るかそれ以上はありそうだ。
色の白い肌に、切れ長の目。怪しく微笑む口元はクールで、顔もすごく整っている。
その背に生える翼は、真っ白な羽に覆われており、まるで天使か女神のようだった。
しかしその表情は冷徹で、やさしげな雰囲気はどこにもない。
メディーもそんな感じの大人の色気を纏っているけど、メディーは裏世界の女といった雰囲気だった。
それに対してこの有翼人のお姉さんはバリバリのできる若手女社長って感じである。
たぶんその会社は軍隊のように躾けられてそうだけど。
スーツを着て、細身の眼鏡とかかけたらドはまりしそうだ。
そのたたずまいにはカリスマがあり、自然とこの集団のリーダーだと感じさせた。
「クイーン!」
周りを飛んでいたハーピィたちが皆頭を下げる。
やっぱりリーダーだった。
というかクイーンって女王様か。まあ、そんな雰囲気だけど。
「それにしても、許可もなく私の空を飛ぼうなんて、図々しいにもほどがあるわ」
非常に偉そうな人だった。
どうやらこのあたりは彼女の領空だったようだ。
「姫様、空を飛ぶ人間など、普通ではありませぬ。並みの者ではありますまい。お気をつけなされよ!」
クイーンの背後から追ってきた、しわしわの有翼人のお婆さんが言った。
羽の色もくすんでいて、心なし翼が薄くなっているようにも見える。
まあ、羽ばたいて飛んでいるわけでもなさそうなので、大丈夫なのだろうけど。
「うるさいわね。この空で私に勝てるわけがないでしょう?」
しかしお婆さんの助言は聞き届けられなかった。
クイーンと呼ばれたお姉さんは、結構腕に自信があるようだ。
よほど強いのだろう。
「ふふふ。私たちとゲームをしましょう。あなたたちが逃げられればあなたたちの勝ち。逃げられなければあなたたちの負け。安心しなさい? 負けても何も取らないから」
あぁ、ゲームだけでいいのなら……
「負けと言う事は、あなたたちは死んでるってことだもの」
ですよねー。
淡い期待はあっさりと裏切られた。
てか、すごい条件だなそれ。ゲーム性ゼロだよ。
ただ逃げるだけじゃん。
「うふふ。羽虫はやっぱりおバカさんね。それはゲームって言わないのよ?」
だからメディーさんはなんで挑発するのよ。
もうやめて!
思ってても言っちゃダメだから!
「聞き間違いかしら。羽虫? バカ? 誰のことを言っているのかしら」
「あら、おバカさんね。あなたのことよ」
二人の美女の視線が絡み合った。
視線に攻撃力があれば二人の間でバチバチ火花を散らしてそうだ。
美人って、なんでこうも迫力が出るのだろうか?
勘弁して欲しい。
というか、さっきまで空のお散歩楽しいな状態だったのに、ものの数分で殺伐とした空気になりましたよはい。
「……殺してあげるわ」
殺害宣言まで出されてしまった。
ほんと平和的に終わらせたい。
「うふふ。残念だけど貴女を殺せないのよ。だから一本勝負にしましょう」
「なんですって?」
俺の願いが通じたのか、メディーが殺し合いを回避するような提案をしてくれた。
一瞬安心しかかったのだが、そこはメディーさんである。素直に安心できないのだ。
何かあるにちがいない。
「一対一で勝負をするの。貴女が勝てば私たちは貴女の奴隷として一生働くわ」
一生働くとか、そんなことを言ってしまって大丈夫だろうか。
「あら、一生なんて言ってもいいのかしら。私たちは長命よ。人間ごときの寿命なら当然死ぬまで逃げられないわ」
だそうだ。
負けたら一大事である。俺の楽しい異世界ライフは苦しい奴隷生活へジョブチェンジだ。
というか、人の人生も勝手に賭けないで欲しいんですが?
「ええ。でももし貴女が負けたら、貴女のお仲間ごと私たちの奴隷になってもらおうかしら」
今「もし」のところを強調したな。
なんだか嫌な意図を感じますよ。はい。
というか、メディーは強いんだろうけど、それゆえに怖いもの知らずな言動が多い気がする。
勝ててるうちは良いのだが、もし俺たちよりはるかに強い人とかと当たったら痛い目を見そうで怖い。
今回のこれが、それだったらどうしようと言うのだ。
「ふふふ。いいでしょう」
やばい、あっちのお姉さんも乗っちゃった。
腕を組み、余裕の態度を崩さないお姉さん。
完全にヤル気だ。
どうしたものか……。
というか、メディーさん、今なんかしたよね?
昨日のうちにもっと更新しようと思っていたのですが……。
気がつくと日は変わってるし明日は仕事……。
自分は今日、何をしていたのでしょうか……。




