2章 -28- 空を飛ぶ人
俺たちはエルケンリアードの街を後にし、王都へ向かう。
ヴィーは忘れ物を取りに行きたいとの事で別行動中だった。
どうやら山になにかを置いていて、長期間放ってはおけないらしい。
単純な飛行速度なら、魔力を使わずに飛べて休憩もいらないヴィーの方が早い。
王都で直接落ち合うこととなっていた。
王都への道は馬車で一週間以上。
エルケンリアードの街から西へさらに進むとあるそうだ。
しかし直線距離以上に王都へのルートは長い。
それはリアレドル大森林という巨大で危険な森を迂回する必要があるからだ。
魔の森と恐れられるその森は、凶暴の魔獣が多数生息し、今だ人の手が入らない場所らしい。
王都とエルケンリアードをつなぐ道は、昔からそのリアレドル大森林を迂回するルートになっていた。
しかし、俺たちなら空を飛べる。
魔物だろうがなんだろうが関係ないだろう。
エルケンリアードを出てすぐは街から見えないように低空を飛んでいたのだが、だいぶ距離ができた今、魔物などに絡まれないよう高空を飛んでいた。
天気も良いし、気持ちが良い。
速度もそこまで出さないようにして、のんびり飛んでいた。
「どうよ」
背中に向かって声をかける。
「まあ、慣れれば気持ちいいモンね」
南雲も空の移動はだいぶ慣れてきたのか、落ち着いている。
風を受けることを少し楽しんでいるくらいだ。
まだ王都は見えていないので、どれほど進んでいるかは謎だ。
地図も無い上、正規のルートでもないので現在位置も分からない。
日の位置から見て、方位だけを確認しながら進んでいた。
正直通り過ぎたらどうしようとは思うのだが、王都はかなり大きいらしいので、見過ごすことも無いだろうとたかをくくっているのだ。
その上、最悪迷ってもメディーの小屋がある。
例の魔法のバッグの中に入れてあるので、夜になれば場所を決めて出せば良い。
認識阻害の魔法をかけておけば魔物に発見されることもないだろうし、一応食料は俺の便利空間に大量に放り込んでみた。
あの空間の中ではどうなるか分からないので、日持ちのするものからしないものまで入れてみて実験も兼ねている。
なので、遭難してもしばらく平気なのだ。
「あれ、すごいわね」
肩の上から南雲が指を刺し、前方を示した。
「お?」
広大な森の上を飛んでいるので、どこまで見ても緑一色の絨毯のような視界。
その真ん中くらいに、ひときわ大きな緑の塊があった。
「あれ、山じゃなないんだな!?」
ずいぶん前から視界には入っていたけど、山か何かだと思っていた。
南雲に言われて初めて気が付いたが、あれは巨大な木だ。
木というか樹という表現のほうが良いのだろう。
とんでもなく大きい樹だった。
地上500mはありそうだ。
日本で見ていた超高層ビルのような高さだ。
よく見ると、大樹の足元は地面が周囲の森より高くなっていて、かさ上げされているようになっていた。
それでも樹だけの部分でも450mは余裕である。
その上、幹の太さもとてつもない。
超高層ビルが数本中に納まりそうな太さである。
ゲームとかマンガなら世界樹とか呼ばれそうな代物だった。
「あら? あの樹は……」
メディーさんは過去に見たことがあったのか、何かを思い出そうとするように首をかしげていた。
その時だった。
「貴様ら何者だ!?」
まさかの上から声がした。
例によって、
(いたの分かってたよね?)
『あんなの気にしなくて大丈夫よ』
脳内に語りかけると、あっさりと返事が返ってきた。
やっぱり精霊さんレーダーは探知はしても警告音は鳴らないらしい。
見上げると、人がいた。
人?なんだろうか?
いわゆるハーピィというやつだろうか。
翼がある。
しかしよく見ると、手足は普通に人間のそれだった。
翼の生えた人間のような姿だ。
ハーピィとは違うようだ。
天使とかそんな感じにも見える、有翼人というやつだろうか。
ちょっとテンションが上がったけど、どうせなら女の人が良かったな。
高度を下げて近づいてきたのは男性だった。
「えーっと、ただの通りすがりなんですが……」
もめ事はごめんなので下手に出ておく。
「ただの通りすがりが空を飛ぶものか! 貴様ら、この空が誰のものだと思っている!?」
誰のもの? 空って誰かのものだったのか。
こんな異世界に領空圏とかあるのだろうか。
知らなかった。
「あら、羽虫さんたちが偉そうなことを言うのね」
メディーさん!? 挑発するのはやめて下さい?
俺がどうしようか考えているうちにメディーさんが返事をしてしまった。
返事ではないのだろうけど。
「なにぃ!」
当然青筋を立てる有翼人の男。
「我らへの侮辱、許さんぞ!」
激高した男が、角笛を吹いた。
えー、面倒なことになりそうじゃん?
笛の音に呼応してか、大樹からわらわらと有翼人たちが飛び出してきた。
「ほらやっぱり。羽虫みたいに湧いて出るじゃない」
まあ、遠目に見たらそう見えなくもないけどさ。
というか、一人しかいなかったのに「羽虫さんたち」とメディーさんは言っていた。
この人、最初から複数いることご存知で挑発なさったのか……。
「空を飛べるだけで図に乗るなよ?」
あっという間に囲まれてしまった。
もう本当にさっと話をしてスルーしたかったのに、これでは全面戦争状態だ。
平和的にいきたいな……という俺の希望は、あっさりと消え去ったのだった。
「あら、珍しいお客さんね」
涼やかな声がはるか上空から聞こえてきた。




