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2章 -27- 旅立ち


「さーて、どうするかな」

 一夜明けて、朝。

 宣言どおり、昨夜は遊びすぎに注意した。

 正直すごい我慢が必要だった。

 生まれて以来一番強烈な我慢だったかもしれない。

 が、やっぱり朝きちんと起きるのは気分が良い。

 両サイドに美女が寝ているのも気分が良い!すごく良い!


 しかし、これからどうしようか。

 食堂で朝食を食べながら考える。

 先日のヘンリーさんの話では、ケイトは王都の方向へ向かったそうだ。

 どうやら同行者もいるようだが、そっちの人は誰かは知らない。

「俺たちも王都へ行くかなぁ」

「あら、王座を頂くのかしら?」

 頂きません。

 メディーが変なことを言っているがスルーしておく。

 この人、妖艶な雰囲気はそのままなんだけど、常識がズレ過ぎててたまにボケキャラみたいになっている。

 しかも本人は本気で言っているようなので地味に怖い。

 もっと平和的にいきましょう。

「まあ、せっかく来た異世界だし、お城とか城下町とか見てみたいわね」

 南雲は前向きな発言である。

 先日まで発言も少なくネガティブだったのだが、きちんと前向きになってくれたようだ。

 元の世界でもポッターさんとかの映画は好きだったようなので、そういうところは興味があるらしい。

「確かにな。どうせ行くあてもやることもわかんないだし、とりあえず行ってみるか」

 そんな気軽なノリで王都へ行くことが決定した。


「なんじゃ? 西へ向かうのか?」

 一応話を聞いていたのか、ヴィーが確認してきた。

 王都はこのエルケンリアードよりさらに西にあるらしい。

 アルシアードからここまでより更に距離があり、馬車で一週間以上かかるそうだ。

 進路上には凶悪な魔物が多数生息する危険な森、リアレドル大森林があり、王都へ向かうなら大きく北へ迂回しながら向かうしか道が無い。

 直線距離でも離れているが、それ以上に移動は大変だとの事だった。


「それなら、わらわは一度山に戻るのじゃ」

 これ以上留守にするなら取りに行きたいものがあるそうだ。

 同行はここまでかと思ったら、面白そうなのでまた合流したいと言っていた。

 まあ、大人しくしていてくれるのであれば悪い子ではないので良いのだが、どうせなら山で大人しくしていてくれとも思わないでもない。



 その日の午後には街を出ることにした。


「待て待て! 待つんだ!」

 城門を出ようとしていると、ハリーたちが慌てて追ってきた。

 どうやら俺たちを探して宿に行き、宿屋のおっちゃんに話を聞いたそうだ。

「ん?」

 俺は出店で買ったフルーツをもぐつきながら振り返る。

「君たち、王都へ向かうんだと聞いたが!?」

 ハリーは息を整えながら確認してきた。

「ああ、今から向かうんだけど」

 何を慌てているんだろう?

「バカをいってはいけない。王都へは馬車でも一週間以上かかるんだぞ?」

「それが?」

「馬車は?」

「ない」

「そこからおかしいだろう!?」


 やかましいやつだな。

 とりあえず人目もあるのでハリーを無視して城門をくぐり、街の外へ出た。

 出る時は身分証の確認はないので“冒険者”ジョブを笑われなくて良い。気が楽だ、


「普通、長距離の旅をするとき、初日は早朝から出るものだ。そうしてなるべく距離を稼ぐのがセオリーだぞ?」

「へー」

 街の外に広がる農地をのんびり歩きながらハリーの説明を聞く。

 アルシアードから来た東側と違い、エルケンリアードの西側には農村地帯が広がっていた。

 街から農業に来るのが一般的のようだが、中には城壁の外に家を構えて農業をしている人もいるようだ。

 それは農業に本腰を入れるためというよりは、街の住民税を払うのが大変だからだったりする。

 それでも城壁の外は人が少ない。

 城門の辺りには街に入るため並んでいる人がけっこういるが、ここまで来ると畑仕事をしている人がちらほらいるくらいだ。

「そもそも、君たちの格好はなんなんだ?」

「え、お洒落じゃない?」

 今の俺は南雲の選んでくれたセンスの良い服を着ている。

 以前着ていたエルフの地味服とは比べ物に習いくらいお洒落になったはずだ。

 南雲も当然お洒落にしているし、メディーは元から良い服を着ている。

 ヴィーにも一応南雲が選んでいたのでばっちりだ。

「ほんとね。センス良いわ」

「ですねー。どこで買ったんですかー?」

 マリーさんとエリーさんがちょっと興味を持っている。

「そこじゃないよ!?」


 その空気をハリーが引き戻した。

「これから長期の旅に出ようと言うのに、荷物も装備も無いとはどういうことだ!?」

「あー、それはなんとかなるから」

「なんとかなるわけ無いだろう!?」

 いちいちうるさいやつだなぁ。

 ハリーはその後もくどくどと冒険とは何たるかを解いていた。


 小一時間ほど歩くと農村地帯を抜けて森に入った。

 農村地帯は実際かなり広いのだが、城壁に沿うように広がっており、意外と森は近いのだ。

 近いと言ってもそれなりの距離ではあるのだけれど。

 森に入るとしばらく歩き、道を外れ、茂みの中に進んでいく。

「おい、どこに行くんだ? そもそもこっちは王都への道ではないぞ?」

 この辺で良いかな。

 森の中で少し開けたところへ出た。

 周りは完全に森だけで、人気は無い。

 一応精霊さんにお願いして周囲を探知しておく。危険っぽい動物や魔物の気配もしなかった。


「ヴィー、良いぞ」

「もう飛んでもよいかの?」

 今回もヴィーの背中に乗って楽したい気がしないでもなかったが、わざわざヴィーを待つほどではないので別行動となった。

「おう、これくらい広さがあったら大丈夫だろ」

「そうじゃの」

 言うが早いか、ヴィーの身体が光り始めた。

 紅い光に包まれ、その質量が急速に増していく。

「な、なんだっ!?」

 ハリーたちが少し慌てているが、見れば分かるだろうから説明はしてあげない。

「グルルルルルル……」

 光が収まると、そこには立派な赤竜が立っていた。

 全長数十メートルはありそうなその巨体。頭を下げていなければ巨木の生い茂るこの森でも、木々の上に姿が見えそうだ。

 真っ赤な光沢のある鱗が全身を覆い、少しトゲトゲしいその姿は威圧感が半端無い。

 でも今こうして改めて見ると、すごい格好良いな。やっぱ異世界と言えばこういうのだよねー。

「ドラ、ゴン…………」

「こ、こんな巨大な……」

「漏れ、ちゃった……」

 一人致命傷を負ってしまった人がいる。

 南雲が短剣を隠すために買っていた腰布の予備を、エリーさんに巻いてあげていた。

 うん。なんとか被害は隠すことが出来そうだ。


《それでは行ってくるのじゃ》

 脳内に直接語りかけてくる念話が聞こえた。

「おう」

 応えると、ヴィーは翼を羽ばたかせ、一気に上空へ舞い上がって言った。

 ジャンプと合わせて、一回の羽ばたきで相当な高さまで上っていったな。

 雲よりも高く上り、それから東へ向かって飛んでいった。

 かなりの巨体であるが、あの速度で飛んで行けば目撃者がいたとしても、それが何なのかは分からないだろう。

 それよりも、被害は地上である。

「あいつ……」

 俺たちの周囲は結界を張ったので無事だったが、ヴィーの翼の風圧でそこら一帯の木々がへし折れていた。


「ちょちょちょっと待て! ななななな何なのだあれは!?」

 てんぱり過ぎてろれつの回ってないハリー。

「お前さあ、いちいち驚いていられないとか言ってなかったっけ?」

 先日夕飯の席でそんな事を自分で言ってたはずだけど。

「これはいちいちなんてレベルじゃないぞ!?」

「言ってなかったっけ? ヴィーはゴトバルド山のドラゴンだぞ」

 竜王種というんだったかな?

「ゴトバルド山!?」

「なんでそんなところのドラゴンが……」

「しくしく……」

 ヴィーが飛び去って、ひとまず落ち着いたのか、ハリーとマリーさんに質問攻めにされている。

 エリーさんは隅っこで静かに泣いていた。南雲が慰めているのでそっとして置いてあげよう。

「まあ、適当に移動してたら出会うこともあるよね」

「そんな訳あるか!」



 色々質問されて正直に答えていたのだが、信じてもらえなかった。

 というか、面倒になってすぐ適当に答え始めたのだが。

 そろそろ行こうかな。

「南雲―」

「待て、まだ話は終わってない……なんでおんぶなんてしているんだ?」

 まだ抵抗はあるみたいだが、素直に俺の背中に乗る南雲。

 今回は最初から同意も取っていたのだ。

 気のせいか、以前おんぶして飛んだときよりも密着度が高い気がする。

 背中に感じる幸せよ。


「絶対落とさないでよ」

「もちのろん。……じゃ、そういうことで!」

 ハリーたちに声をかけ、俺たちも飛び上がった。

「「飛んだぁ!?」」

「……飛んでるっ!?」

 隅っこで泣いていたエリーさんだけ一足遅れて驚いていた。


「また会うことああったら宜しくなーー!!」

 足元に声だけかけてハリーたちを置いてきぼりに、俺たちも飛び去ったのだった。


お休みなので日中からの更新です。

キリが良くなかったので、いつもより少し長めになりました。

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