2章 -26- ひょっひょっひょ
「ひょっひょっひょ。よくぞ参った。ユータ・フルカワよ」
ひょっひょっひょって何だよ。
怪しい笑顔で俺たちを迎えたのは、このエルケンリアードの領主、ヘンリー・ド・フェン・エルケンリアード男爵だった。
アルシアードの領主、レイリーさんの邸宅より贅をこらした屋敷には多くのメイドと執事がいた。
屋敷の周囲には高い塀が建てられ、敷地の中も外も、かなりの兵隊に守られている。かなり厳重だ。
そんなお屋敷だったので、レイリーさんより大物が出てくるのかと思って緊張していたら、もっとすごい大物が出てきたのだ。ある意味の。
「まずは美味しいものでも食べながら――」
そう言って挨拶もそこそこに食事が始まった。
これもレイリーさんの館よりはるかに贅沢な感じのものだった。
量も多いし、品も多い。
たぶん、使っている材料も高いのだろう。
にもかかわらず、
「すまぬのう。最近節約しておるので、見栄えが悪いかもしれん。許しておくれ。ひょっひょっひょ」
とか抜かしていた。
だからひょっひょっひょて何だよ。
こいつはすごいヤツが出てきたぞ。
「ほうらーヘンリーさん。そんなこと言わずに、もっとわたしのファンがわたしを応援できるように、お金を分けてあげてよー」
何故かヘンリーさんの横に座っているめぐたんが、甘い声でヘンリーさんに何かを言ってる。
語尾にハートマークとか着きそうだ。
その反対隣には奥様らしき人物が座っているのだが良いのだろうか。
「ひょひょぉぉぉ、めぐたんがそう言うなら仕方ないのよねぇ」
ひょひょぉぉぉって何だよ!?
笑ってんの? 驚いてんの?
しかしなるほど。
どうやらこのヘンリー男爵、かなりの贅沢三昧だったご様子だ。
俺の想像していた異世界の貴族代表みたいなヤツだな。
そのうち些細なことで死刑死刑とか言い出しそうだ。
それをめぐたんが洗脳で上手いこといさめている感じだろう。
まあ、結局節約したお金を街に還元し、それがめぐたんを潤すのだから、結局めぐたんも私利私欲ではあるのだが。見る限りめぐたんも贅沢はしている様子でもないので、良しとしておくか。
「ところでユータよ、わしは此度の件、褒美はやってもそれ以外は知らぬでの」
食事を楽しんでいるとそんな事を言われた。
「ん? と言いますと?」
「おぬしらが倒したアウトバッターズというごろつき共は、シルバニアの一派だと言ったのであろう?」
「ああ、はい」
ケイトは確かそんな事を言っていた。
あの森の愉快な仲間たち的な名前を聞き間違えることはありえない。
「シルバニアの力は恐ろしい。噂では王都にも帝都にも手を伸ばしているという。そんな連中と事は構えたくないのだ」
なるほど。
そういえばレイリーさんもそんな事を言っていた。
一度手を出すとその後ずっと追われるのだとか。
街を治める領主ですら腰が引けている。それだけの力を持っているのだろう。
仮に報復されても領主としては守ることもできないし、報復した者を捕まえたりもできないということだ。
結構面倒なことになりそうだな。
「一応、わしの持つ情報だけは与えておこう。逃げおおせたという女ともう一人、王都へ向かったそうだ」
どうやら領主様お抱えの情報網があるらしい。
暗部とでも言うやつだろう。
今もこの部屋の天井裏に、兵隊とは別で数人潜んでいるようだし。
「それはどうも」
追うかどうかは別として、一応頭に置いておこう。
どちらにせよ、この街も十分堪能したし、次に行く方向も決めなければならない。
せっかくなら追ってみるのもいいかもしれない。
なんとなくだけど、ケイトとは今後も関わっていく気がするのだ。
主にトラブルに巻き込まれる方向で。
ま、王都というのも気になるし、この街も大体回り終わったところだ。
行って見るのも悪くないかな。
とりあえず後でみんなと相談しようか。
その後、メディーに色目を使うヘンリー男爵に対し、メディーの目が光ったりもしたのだが、無事食事会は終了した。
前回のことがあったので、また何かやらかすんじゃないかとちょっとビクビクしていたが、今回は追われることにはならなかった。
食事会の終わりには、裏の組織退治の報酬として、ヘンリーさんからいくらか貰う事となった。
前回よりはだいぶ小さかったものの、袋には純金貨がたくさん入っていた。
手持ちと合わせると、正直しばらく働かなくて良い感じだな。
正直元の世界の時より、はるかに経済事情は上場だ。
そもそも高校生だったので、小遣いとちょっとしたバイト代くらいしかなかったし。
それがいまや大金持ちだ。
俺、異世界のほうが向いてたかな?
シルバニア・ファミリーに目をつけられるのは怖いと言うことで、ヘンリーさんからは表向きの表彰や公式発表はされないこととなった。
表向きはごろつきを退治した功労者とだけ発表された。
まあ、ごろつきたちを連行する際には結構な騒ぎになっていたので、今更ではあるけれど。
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