1章 -8- 煙
「………………」
決めポーズまで決めて、すっきりしたところで背後からの視線に気が付いた。
南雲がジト目でオレを見ている。
視線だけでダメージ判定がありそうなジト目だ。
痛いです。
「……南雲サン。こういう時って、自分を助けてくれたヒーローを熱い視線で見るものじゃありませんか?」
思わず自分の意見を主張してしまった。
「いや、最後ので台無しでしょ」
確かに、調子に乗って決めポーズは長めにしてしまった。
そりゃぁ、お熱も下がるというもの。
うん。下がって良かった。
実は、思ったより一方的で暴力的な感じになってしまったので、ちょっとボケてみたのだ。
場の空気が緩んで良かった。
「はぁ」
南雲はため息をついている。非常に残念なものを見る感じだ。解せない。
ひとまず、ここを離れることにした。
圧勝にはなったが、これはあくまで不意打ちのようなものだ。
こちらの能力が割れ、対策を練られると危険かもしれない。
意識のない男たちから装備品を拝借する。
特に、ローブの男からはいろいろ回収しておいた。“魔力妨害”のネックレスももらっておく。
ちょっと一方的になりすぎて、こちらが盗賊になった気分だが、これは仕方のないことだ。
だってまた追ってこられたら怖いじゃん?
追われたとしても敵の装備がなければ少しでも安全率あがるじゃん?
それに悪人に悪いことしたらマイナス×マイナスでプラスじゃん?
だから仕方ないのだよ。
ついでに小銭も貰っておく。
迷惑料ということで。
仕方のないことなんだよ。うん。仕方ない。
盗賊たちから装備を拝借し終えると、さっさとその場を離れた。
いつまた意識が戻るかわからないし、逃げるが勝ちだ。
そしてまた森の中をさまよう。
考えたら、一人くらい意識を残しておいて、街とかの情報を聞いておいても良かったのでは?と今更ながらに思ったけど、今更である。
万が一奇襲を受けてこちらが負けてもダメだし、仕方がなかったといえば仕方がなかったのだ。
自分の力量が分からないうちに余裕を見せすぎるのは危険なのだ。
しかし、多少は自信も持てて、慌てて逃げることはないと考えた。
最初のころのように、普通に歩くペースで森の中を進む。
今度はミズキの力で空気中の水分を集めて飲めるので、水分不足で不安になることはない。
気持ち楽に森の中を進んでいた。
「あの、さ」
特に話すこともないので会話のないまま森を歩いていたが、ふと南雲が話しかけてきた。
大声で話をすると危険だと理解したのか、南雲も今の今まで声を発していなかった。
「ん?」
歩きながら応える。
「…………」
振り返らなかったので南雲の表情はわからない。
無言がしばらく続いたので振り返ろうかと考えたところで続きの言葉が届いた。
「ごめん。……ありがと」
「? おう」
さっき盗賊から守ったことに対する感謝だろうか。
でも、ごめんって何に対して?
それきり南雲は口を閉ざしたので、俺も結局振り返ることもなく、そのまま歩き続けたのだった。
その後も南雲のペースに合わせながら森を進み続けた。
当初の思惑とは裏腹に、なかなか森は抜けられない。
日も傾いてきて空は茜色に染まり始めた。
「まずいな……」
時間的にはかなりの時間を経過していた。
水はあっても食べ物はなく、食事抜きで森の中を進み続けたため疲労もすごい。
何より南雲がそろそろ限界だった。
「はぁ……はぁ……」
思いのほか文句も言わず頑張ってついてきているが、さっきからしんどそうな表情だ。
最悪どこかで野営をするしかないかも知れない。
どうしたものかと考えながら、赤く染まる空を睨んだ。
「お?」
その茜色の空に向かって伸びる雲。
というより煙?
進行方向正面に煙が上がっていた。
「南雲、もう少しがんばれ」
煙の下に何があるかは分からないが、火を使う脳のある何かはいるのだろう。
さっきみたいな盗賊かもしれないが、確認はしてみるべきだろう。
煙が出てるという事は、少なくともベースキャンプか何かだ。最悪盗賊だったら戦ってでも食料や毛布などを手に入れることもできるかもしれない。
希望を持って歩を進めた。
森の中を進むことさらに30分。
腕時計はしたままだったので時間は正確にわかる。この世界が1日24時間かは不明だけど。
幸いにもモンスター的なものにはあの大イノシシ以外遭遇しなかった。
休憩を挟みながらもついに煙の足元に到着することが出来た。
頑張って更新してまいります。
何卒宜しくお願い致します。