2章 -24- 王子様の活躍……?
「えっ!?」
「え?」
ハリーが酷く驚いたので、俺も驚いた。
「君も戦わないのか!?」
何で戦わないといけないのさ。
ラブ・アンド・ピース。
平和的にいきましょう。
「いえいえ、王子様の活躍の場を取ってしまってはいけませんので」
焦っているハリーを突き放しておく。
「それとも怖いんですか?」
「怖いわけないだろう!? いや、なんでこんな時だけ敬語なんだ!?」
気付いたか。
「だって王子様には敬語を使わないといけないじゃないですか」
「なら普段から使ってくれ!」
「あ、来るみたいですよ?」
「ごちゃごちゃ言っているうちに、やっちゃうデース!!!」
「なにぃっ!?」
俺たちがバカなことをしているうちに、ケイトの後ろに控えていた男たちが前に進んできた。
全員が全員体格が良いわけではないが、それでも大人の男たちだ。
狭い路地に入ってくると、圧迫感がすごい。
「仕方ない! 僕だけで戦ってやるさ!」
「後ろからも回りこまれてるんで、両方ともお願いしまーす」
周囲の気配を確認すると、一部の男たちが建物を回りこんでいた。
すでに背後に姿を現している。
「ムチャを言うなよ!?」
覚悟を決めて前を向いていたハリーがまた慌てだした。
「さー、めぐたん。俺たちはこの辺に座って応援でもしようぜー」
路地の脇に置いてあった木箱に腰掛ける。
メディーに背中を押されて南雲とエリーさんマリーさんもやってきた。
ヴィーは何しているのかと思ったら、隅っこでしゃがみこんでアリ(みたいな昆虫)の行列を観察していた。
「わ、私たちも援護を!」
マリーさんとエリーさんはそう言ってハリーのところへ行こうとするのだが、とりあえず止めておいた。
精霊さんたち的にも大丈夫だそうだし、メディーも落ち着いているので問題は無いのだろう。
「行くぞ! おおおおおお!」
ナイフや片手剣を持ち出してきた男たち相手に、両手剣を抜き放ったハリーが果敢に突撃して行った。
もう少し待ってればいいものを。
「ヴィー」
「なんじゃ?」
退屈そうにしていて、こちらを見もしない。
「遊びたいんじゃないか?」
「!」
アリの観察をしていたヴィーが、バッと期待のまなざしでこちらを向いた。
「よいのか!?」
「おう。ただし、絶対殺しちゃダメだからな?」
「分かっておるのじゃ!」
本当だろうか。心配である。
「女の子以外、やっちゃっていいよ」
「わかったのじゃぁぁぁぁ……」
最後の「あぁぁぁ……」は叫びながら走り始めたので、ドップラー効果で変な声になっていた。
これで何とかなるだろう。
「くっ、この小僧、なかなかやるなぁ!?」
「両手剣を器用に振り回しやがる!」
ケイトが立っていたほうから攻めてきた男たちが苦戦をしている。
片手剣や大きめのナイフを装備した彼らは、狭い路地でも素早く間合いを詰めて自由に武器を振り回している。
対してハリーが持っているのは大振りの両手剣だ。
本来であれば攻撃力に重きを置いていて速度に劣り、しかも狭い路地の中では大きく振り回せないのだ。
にもかかわらず、何とか男たちと対等に戦っていた。
多大な人数差があることを考えれば、かなり健闘していると言える。
こちら側だけで二十人以上の男たちが入れ替わり立ち代りで前に出て戦っていた。
「はあ、はあ、はあ…………」
ハリーの頬を汗が伝い、しずくとなって落ちていく。
しかしその目はまっすぐ敵を見ていて、闘志の衰えを少しも感じさせない。
「ここは……僕が……通さないぞ…………」
荒い息を吐きながらも、しっかりと断言する。
「ふっふふ~ん♪ ふっふふ~ん♪ ふっふっふっふふ~ん♪」
そんなハリーの横を、赤髪の少女が鼻歌混じりに歩いていく。
「へ?」
「なんだ? このガキ?」
ハリーの間抜けな声と、男たちの困惑する声が聞こえた。
ハリーの横に立ったヴィーが一応確認してきた。
「ユータぁ! こっちもよいのか!?」
「どーぞー」
もう好きにしちゃってくださいな。
後ろはすでに片付いた。
ヴィーが瞬殺してしまったのだ。
そして前方も、今片付いた。
「ちょっと物足りんのじゃ」
とか良いながら、どこかスッキリした顔で帰ってくるヴィー。
「………………」
悲しそうな目でこちらを見てくる王子様は、そっとしておいてあげよう。
剣を構えたポーズのまま、首だけで振り返っている。
「ななな、なんデスカー!?」
今の今まで呆然としていたケイトが、急に驚いた声を出した。
「50人はいたんデスヨォ!? こんなバカなことがありマスカー!?」
そんなにいたのか。
大体は把握していたが、数字で聞くと多く感じるな。
「いやー、ほんと世の中怖いよな? 危険がいっぱいだぜ」
「あんたねぇ……」
南雲が若干呆れたように言う。
「確かに自分らしくしろとは言ったけど」
「言っただろ? ドン引くくらい自由にするってな。まだまだこんなもんじゃないぜ?」
「あっそ」
そんな事を言いつつ、ちょっと状況を面白がっている南雲。
こいつもこいつで肝が据わっているよな。
こないだまでは、もっとビクビクしていたのに。
まあ、俺のことを信頼してくれていると言うことなのだろう。
「ユータ! 何をしたんデスカー!?」
ケイトが混乱してそんな事を聞いてきた。
何をしたもなにも、ヴィーに戦ってもらっただけなんだけど。
俺が何かをしたとすれば、手加減するように指示をしたくらいだな。
それに普通、敵にそう言われても答えないよね?
「え、普通に殴ってもらっただけ」
適当に答えておく。というか事実だし。
ヴィーは武器を持っていない。
ゴブリン戦のときもそうだったが、基本素手だ。
パワーがありすぎて、正直武器が要らない。
しかもドラゴンの皮膚はそれ自体が鎧のようなもので、それは人間化しているときでも同じらしい。
マジックキャンセル付きで耐久力もずば抜けているので、鎧どころの話しではない。
なので鎧も不要なのだ。
本気で心配だったのは力加減だったが、練習の成果が出てよかった。
この街へ来る前に、森の中で少し練習しておいたのだ。
さっと倒れている男たちを見ると、致命傷や後遺症になりそうな怪我をしている者は一人もいない。
俺の言葉に、倒れている男たちを見やるケイト。
みな生きている様子を確認し、ひとまず少しは落ち着きを取り戻したようだ。
「と、とんでもない人がいたデスネー。セッカクめぐたんの能力を我らのものにする計画ダッタノニー!」
こっちの予想通りすぎる!
というか自分で言っちゃったよ!
「かくなるうえは、撤退するデース!」
言うが早いか、脱兎のごとく逃げ出した。
かくなるうえはとか言うから、何か秘策があるのかと身構えてしまったじゃん。
逃げるんかい!
「これに懲りたらもう悪いことはするなよー!」
一応逃げる背中に言っておく。
「えーい、うるさいデース! 覚えてヤガレー!」
姿の見えなくなった路地の向こうから、そんなセリフが聞こえてきた。
懲りてなさそうだ。
一応あの速度なら追えば簡単に追いつくのだが、ひとまずはこの死屍累々をなんとかすることにした。
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