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2章 -21- 雲行き


 しかし、ケイトの分厚い笑顔のシールドは、真意を覗かせてはくれなさそうだ。

 どうやって聞き出したもんかな……。


「はあああーーーーい!! みんなあああーーーー! めぐたんだよおおおおおおーーー!!!」

 どえらい声が俺の思考を吹き飛ばした。

 ライブが始まったのだ。

 思わず視線をステージに向けた。

 そこには相変わらず地味なアイドルがフツーなトークを繰り広げていた。

 一瞬だけステージを見て、すぐに視線を戻した。

 しかしその一瞬で、ケイトは俺の視界から消えていた。

「おっおー」


 なーんて。

 あえて視線をそらして誘ってみたのだが、襲ってきたりはしなかった。

 ひとまずは敵ではなさそうだが、泳がして状況を見てみる必要はあるかな。

 実際、そらしたのは視線だけで、気配はしっかり捉えていた。

 ついでにいうと、しっかり精霊さんたちに監視してもらっているのだ。

 ケイトは今、俺の視界からさっそうと姿を消した風に見せかけて、人ごみにまぎれて少しずつ遠ざかっている。

 なるほどな。

 消えた風になる演出の裏側って、テレポートとか瞬間移動が無ければこんなもんか。

 目立たないように地味―に人ごみを抜けていく姿は、颯爽と消えた直後だとシュールに見える。

 俺も姿を消した後は本気で見つからないように気をつけよう。


 しばらくケイトの位置を確認していたが、ライブの人ごみの中で動かなくなった。

 たぶんライブが終わるまでは動かないつもりだろう。

 ついでにケンシロウたちの確認もしてみたが、どうやらこの会場にいるらしい。

 んー、ケイトも洗脳されてないということは、精神系の能力か、何かしらの対抗手段を持っている可能性が高い。

 単純に最初からファンのフリをしてごまかしていた可能性もあるが。

 しかし、精神系能力を持っていると考えた場合、ケンシロウたちを洗脳した犯人もケイトである可能性がある。

 まあ、あくまでそう仮定をしたら、だけど。

 なんとなく、気のせいかもしれないけど、ケイトとケンシロウたちにはつながりが有る気がするんだよな。

 俺は色々と考えながら、めぐたんのライブを聞き流したのだった。



「な、なんと言うか、すごいライブだったな……」

「だよな……」

 めぐたんライブ初体験だったらしいハリーたち。

 微妙で盛り上がるポイントもない歌やダンスなのに、異様に熱狂していくファンたちの姿に引いていた。

 エリーさんもマリーさんも青汁を飲んだような顔をしている。

 こればっかりは一寸の違いもなく、ハリーと同感である。


 雨が降り出しそうな空模様の中、ライブが終わり、人々が各自の日常へ戻っていく。

 広場から人は減り、常設となっているステージだけがライブの名残をのこしていた。

「さて……」

 ケンシロウたちの気配は、この広場を出ようとしていた。

 どうやらめぐたんを追っていくようだ。

 俺たちもこっそり後を追う。



「ふっふふ~~~♪」

 めぐたんはちょっと気を抜きすぎなんじゃないだろうか。

 近道のためか、何の警戒も無く人気の無い路地裏に進んでいく。

 しかも鼻歌が自分の曲なのだが、さっきステージでバンドチームが演奏していたリズムと若干違う。

 後ろからでも聞こえる程度に大きな鼻歌なのだが、ちょっと酷い。

 こいつ……リズム感もないんじゃね?

 更にいうなら、音程もずれている。おい。


「めぐたん!」

 ある程度路地を進んだところで、ケンシロウたちが姿を現した。

 呼び止められた声で、めぐたんが振り返る。

「あら、わたしのファンの人かしら?」

 ケンシロウたちを見てのリアクションを見る限り、やはりめぐたんはケンシロウたちに能力を使っていない。

 となると、やはりケンシロウたちは他の誰かに洗脳されている可能性が高い。

 まあ、元から変なやつらだったので、アイドルの話を聞いて食いついていっただけの可能性もあるのだが。

 さすがにそれはないか。

 精霊たちに確認をとってもらったが、やはり精神汚染を受けているようだった。

「うひょーーー! やっぱりめぐたんサイコーだぜーー!」

「俺たちファンなんだよぉ! 握手してくれー!」

「めぐたんラブ! めぐたんラブ!」

 振り返っためぐたんを間近に見て、テンションをあげるケンシロウたち。

 5人ともハイテンションだ。

 あれ?

 ケンシロウ以外の4人の名前、何だっけ?

 まあいいや。

 ひとまず物陰から静観を決め込んでいるが、これからどうなるのか。


「困るわね。アイドルとの交流は節度を持って。鉄の掟にもあったでしょう?」

 めぐたんは例のルールのために安心だと思っているようだ。

「鉄の掟? なんだそれ?」

 案の定、ケンシロウたちの反応は微妙だ。

「え?」

「悪いなめぐたん。俺たちと一緒に来てもらおうか!」

 言うが早いか、ケンシロウたちはめぐたんへ詰め寄った。

 相変わらず素早い動きだ。

 5人そろって“強靭な肉体と付随して屈強な力”という地味な力を貰っている。

 なんかもっと良い名前無かったのか?

 しかし、その身体能力は素晴らしく、並の人間では対応できない。

 なので、


「ういーす」

 めぐたんとケンシロウたちの間に俺が割って入った。

 加速して飛び出し、めぐたんへ迫るケンシロウたちの前面に立ったのだ。

「へっ!? アニキィィイ!?」

 突っ込もうとしていたケンシロウたちが急ブレーキをかけ、ギリギリ俺の前で止まった。

「近い。ムサい。キモい。下がれ」

「「「「「はいいいい!!」」」」」

 5人そろってズザザァッと後ずさり、その場に綺麗に正座した。

 うん。教育が行き届いていますな。


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