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2章 -16- ハジメテの夜


 夜。

 いつものようにベッドに座る俺。

「出たわよ」

 先に水浴びを済ませていた俺に、南雲が声を掛ける。

「おう……」

 昼間、喧嘩をしてしまった分、少し気恥ずかしい。

 仲直り?はしたとは言え、お互いに本音をぶつけ合ってしまったのだ。

 何となく、何を話せば良いか、少し迷ってしまった。

「えっと……」

 俺が言いよどんでいると、タオル一枚の南雲はまっすぐ近づいてきた。

「……んんっ!?」

 近づいてきた勢いそのままに、南雲は俺の唇を奪う。

 今まで散々抱き枕にしてきたが、マウストゥーマウスのキッスはしたことがなかった。

 あれ? これ、俺のファーストキスじゃん?

「んっ、んん!?」

 ベッドに腰掛けた俺のひざの上に馬乗りになるようにまたがり、唇を吸われる。そして肩に添えられた手で、そのままベッドに押し倒されてしまった。

 押し倒された状態で、それでもまだ唇は触れたまま。南雲の熱い熱いキスを甘受する。

 熱烈だ。すごく熱烈だ。頭の奥がとろけてしまいそうだ。

 いや、すごく良いけど、いきなりなんだこれ?

「な、南雲?」

 唇の離れた瞬間を狙って、南雲に問いかける。

「アンタが言ったんじゃない。アタシらしくしろって……もう気を使うなって……」

 唇が触れるか触れないかのギリギリの距離で見詰め合う。

「え?」

 マジで言ってる?

「アタシ、前も言ったけど、は……ハジメテだから……」

「南雲……」

 さっきの熱いキスもあり、すでに俺の思考回路はオーバーヒートしていた。

 いつも以上の熱量の南雲。気のせいか南雲の身体も熱くなっている気がするし、いつも以上の密着に心臓がどんどん速くなる。

「あ、あんたも、ハジメテよね?」

「お、おう」

「アタシじゃ、イヤ? だったらやめる」

「そんなわけない……だろ。むしろ、お願いしたいくらいだし」

「ん」

 南雲は小さくうなずいて、再度熱いキスを交わしてきた。

「アタシをアンタの物にしてよ……んっ……ゆーた……」

「んんっ」



 致してしまいました。

 これはもう、致してしまいましたとも。

 さすがに子供が出来てしまうと大変なので、最後は一応外だったけど、ついに南雲の全身をくまなく知り尽くしてしまいましたのだ。

 これはもうヤバイ。

 しかも勢い余って、一晩中ずっといちゃついてしまった。

 何回したのかも覚えていない。

 だって南雲の熱烈ご奉仕が欲望を際限なく立ち上げてしまうんだもの!


 今、もう日は昇っている。

 俺と南雲は、汗だくのままベッドで横になっていた。

 最後はお互いに力尽きてそのまま寝てしまったのだ。

 意識が遠のく前、窓の外が明るくなりかけていた気がするので、かなり頑張ったようだ。

 そして今はもう日は高い。昼ごろだろうか。

「南雲なら俺の横で寝てるぜ」

 なんて。

 目が覚めて、上半身だけ起こした状態でそんな事を言ってみる。

 南雲は俺の横でスヤスヤと寝息を立てている。

 なんだかすごくおだやかで満足げな表情で寝ている気がするのは俺の気のせいだろうか。


 こいつ、意外と献身的なんだな。


 しばらくすると南雲が目を覚ました。

「あ……、おはよ」

「おう、おはよう」

「………………」

「………………」

 お互いに気恥ずかしく、無言になってしまった。

 寝る前まではあれだけ激しく求め合っていたのに、落ち着いてしまうといろいろと……。

「あはは」

「ん?」

 南雲が急に笑い出した。

「まさかアンタとこんなことになるなんてね」

 まあ、いじめっ子といじめられっ子(?)がそういう関係とかね。

 むしろ昨晩は俺がいじめるくらいの感じになっていたが。南雲は健気にも全てに応えてくれたけど。

 ちょっと変ですよね。

「てか、やっと笑ったな」

「え?」

 南雲は、こっちの世界に来てからは一度もあははと笑っていなかった。

 ふふっって感じの中途半端な笑い方しかしていない。

 たぶんずっと縮こまっていたからだ。

「ふん、ゆーた様のおかげですよ」

 少し照れたようにしたものの、それをごまかすように俺の腰に抱きついてきた。

 今俺たちは服を一つも着ていない。

 タオルケット一枚の下で、肌と肌が直接触れ合う。

「お、おい……」

 おなかの辺りに南雲の柔らかい膨らみが押し当てられ、すごく気持ち良い。

 南雲は、俺の胸の辺りに頭を乗せて、静かに目を閉じた。

 そういえば、俺の上に南雲が寝るのも初めてかもしれない。

「アンタさ。昨日のお昼、本気でキレてた訳じゃないでしょ」

 ぎくり。

「最初はちょっとイラッとしてたみたいだけど、途中からアタシに合わせてたんじゃない?」

 ぎくり。

「そんな訳ないだろ」

「冗談を言おうとして止めてなかった?」

 ぎくり。

 というか、俺の胸の上に頭を置いている南雲の耳、俺の心音を聞いているんじゃないだろうな。

 今の質問の答えは俺が答える前に心音の変化から察知されてたり……。そんなまさか。

「なんでそう思うんだ?」

「こっちに来てからずっとあんたと一緒なのよ? それくらい分かるわよ」

 分かるのか。

 さすがに昨日は気付いてなかったけど……とのことだ。

「別に、ほんとにキレてたけどな」

「そういうことにしとく」

 そういうことにされてしまった。

「あーあ。全部アンタに助けてもらっちゃってるじゃない」

 そう言いながら南雲は頭の向きを変えた。

 耳を離して、額を俺の胸元に押し付けている。

「全部ってなんだよ」

「全部は全部よ。トラックに轢かれたときから、盗賊に襲われた時、イノシシの時、エルフの時、森を歩くのも、宿を取るのも、食事にありつくのも、自分らしくってのも、全部アンタに助けてもらってる」

「トラックは助けられてないけどな」

 一緒に死んでしまったわけだし。

「アタシだけで死んでたら結局いっしょよ」

 確かに。南雲だけで死んでいたら、こっちの世界に来てからはどうなってたか。

 まあ、そうなってたら、あのクソ女神ももう少しまともな力を授けて、もう少しまともな説明の上で転世されてたかもしれないが。

 それはIFの話でしかないかな。

「おい、また気にするなよ?」

「わかってるわよ」

 素直な感じだし、今回は分かってくれたようだ。

「だから、アタシらしく恩返ししていくからね」

「おう」

 ぎゅっと俺に抱きついたままそんな事を言う南雲。

 正直すごく可愛い。

 ずっとこのままでいたい気分になってくる……。

 あれ?

「おい、まさか恩返しでこれじゃないだろうな?」

 愛のないエッチはだめなんだぞ!

 それは俺の主義に反する!

「ばっ、違うわよ。これはアタシらしくしたい事しただけよ! 恩返しは別だから!」

 なら良しだ。

 うん、素晴らしい。

 え? 本当に?

 すごく素晴らしくない?

 いまだに実感のわかない俺だった。


おはようございます。

朝更新しますが夜のお話です。

朝から読んで頂いた方、朝からすみません。

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