2章 -9- 異世界の武器事情
“冒険者”とか“ハンター”とかいれば、もっと武器の流通もあって種類や量も増えるのだろうが、いかんせんこの世界にはわざわざ魔物を狩りに行くという発想はないらしい。
「なんだいにいちゃん、格好良い武器が欲しいんなら王都に行くしかねえよ」
俺がうなだれていると武器屋のおっちゃんが話しかけてきた。
というか、俺の独り言は漏れていたらしい……。
「この辺りの田舎じゃあ魔物以外に使うこともないし、魔物自体もそんなに出ねえ。そもそも良い武器を使いこなせる人間も少ないからなぁ。王都にでも行けば帝国との小競り合い用にもう少しマシなのがあるだろうよ」
魔物に使うと言ってもこっちの世界の人々は積極的に魔物を狩らない。
護身用に持っていても買い換える機会は少ないのだろう。
てか、ここでも帝国の話しが出てきたな。
「帝国との小競り合いって、結構あるのか?」
「いいや? たまーにあるくらいだが、それでもこんな田舎よりは武器を消費するだろうよ。あっちに行きゃあ、傭兵みたいな連中もいるから、多少は武器もまわるだろう」
基本的に戦争ともいえないような小さな小競り合い程度らしい。
それも、軍事活動というわけではなく、調子に乗った一部兵士の暴動とされているようだ。
これはずっと昔からあることで、それとなく話を聞いてみたが、これがレイリーさんが言っていた戦争に繋がる動きではなさそうだ。
しかし、王都に行かねば買えぬと言うなら、このエルケンリアードの街で他の武器屋を回ってもダメと言うことか……。
俺のカッコイイ武器はまだ当分先のようだ。
異世界なのに夢がないよ……。
武器くらい夢見たって良いじゃない……。
「あ、でも南雲の護身用になんか買っとくか」
「え?」
「万が一の時のためにな。一応持っとけ」
俺やメディー、ヴィーは正直素手でも問題はなさそうだ。
しかし、南雲は今のところ戦う術を持っていない。
武器ぐらい持たせとく方が少しでも安心というものだ。
「なんだい、お嬢ちゃんにも武器を持たせるのかい?」
おっちゃんが驚いていた。
どうやらこの世界では普通ではないらしい。
というか、日本でも女子に武器を持たせると言ったら普通じゃないだろう。
この世界の価値観も日本のそれと変わらない。
城壁の外なら別のようだが、城壁内で生活するには平和ボケと言われる日本と同じレベルで良いらしい。
しかし、メディーやヴィーのように異常に強い存在を知っていると城壁くらいで安心はできない気がする。ちょっとはじけば、あんな城壁はすぐ吹き飛ぶだろう。
てか、先日ゴブリン程度でも城門破られてたし。
日本人の俺が言うのもなんだけど、この世界の人たちって結構な平和ボケじゃない?
「いやぁ、俺たち旅をしてるもんでさ」
「へえ、変わり者だなぁ。しかしそんなべっぴんさんたちを危険にさらすのはよくねえぜ?」
まあ、南雲、メディー、ヴィーと一見するだけではただの女子とお姉さんだ。
そう思われても仕方ないだろう。
俺だってただのガキにしか見えないだろう。体格が良いわけでもないし。
「まあ、色々あってな……」
なんと言ってごまかすか思いつかなかったので適当に濁しておいた。
「ほう。まあ、聞かないでおいてやるよ」
そうしてくれ、と手をひらひらさせておく。
「そういうことなら、これなんてどうだ?」
おっさんがそう言って差し出してきたのは、女性でも持ちやすそうな小剣だった。
他の武器に比べると全体的に小ぶりで、柄のところのデザインも少しお洒落になっている。
なにより、柄についている飾りには小さい宝石のようなものがついていた。
「これは、農家に嫁ぐことになった娘にプレゼントする用の小剣だ」
農家に出るという事は、城壁の外に出ることにもなると言うことで、その娘が安全に過ごせるようにと願いをこめて贈るものらしい。
刃は本物で、万が一魔物に襲われた時はこれを使って対抗するそうだ。
「お、これ良いじゃん。どうよ?」
南雲に聞いてみる。
「別に、アタシこんなのじゃなくて良い。おじさん、もっと地味なのない?」
しかし興味はなかったようだ。
『興味はあったみたいですけどね』
ん?
カグラがさりげなく教えてくれた。
他の武器を見ていたときより、さっきの宝石付きの小剣を見たときのほうが少し表情が違ったようだ。
「んー、これはどうだい?」
同じくらいの大きさだが、完全に地味なヤツが出てきた。安そうだな。
南雲はそれを握ってみたり軽く振ってみたりして、
「うん、これで良い」
そう言っておっさんに買うことを伝えていた。
“これで”ねぇ……。
ちょっと区切りが悪く、短めです。
文字数、ページ数考えて書くのって難しいですね。




