2章 -4- めぐたーんウィーンクっ!
ライブ会場を後にして、俺たちは宿を探すことにした。
最初はどこも人気がなくて大変だったが、ライブが終わったら急に賑わいが戻ってきた。
一度閉められていた食堂や酒場なども再び開けられ、人の出入りが始まった。
『ついて来てるわね』
宿を探して道を歩いていると、ミズキが教えてくれた。
何かが追跡してくる気配があるらしい。
とりあえず路地裏に入ってみた。
こういうのは慣れたもので、メディーさんも気づいている様子だしヴィーも同様だ。
案の定、路地に入ってすぐ、声をかけられた。
「ちょっと待ちなさい!」
何となく聞き覚えのある声だった。
振り返ると、見覚えのある女が立っていた。
めぐたんである。
やっぱり近くで見ても普通だな。
ステージの上と変わらない服装で街の中を歩いてきたようだが、誰も追っては来ていない。
精霊さんレーダーで確認していたが、道行く人は興奮して視線を送っていても、むやみに近づいたり声をかけたりはしていなかった。
それはあのルールのせいだろう。
たしか、めぐたんとの交流は握手会でっていうのがあった。
あれは街中でむやみに絡まれるのを防ぐルールだったのか。
「あなたたちは新入りね?」
めぐたんが話しかけてきた。
「この街に来たばかりって意味では新入りだけど」
まあ、この世界においても新入りの部類かもしれないけど。
ややこしいのでそこはスルーしておく。
「やっぱり。さっきわたしのライブから出ていくのが見えてたの」
しっかりチェックされていたのか。
巻き込まれると面倒だと思って立ち去ったのだが、それがアダとなったようだ。
「えっとー、何か御用ですか?」
雰囲気的に無理そうな気がするけど、まずは平和的に会話で解決だよねー。
「ええ。あなたたちもわたしの虜になってもらいます!」
無理そうだった!
言うと同時、めぐたんは足を肩幅より広く開き、左手を腰に当てた。
右手の人差し指と中指だけを伸ばし、自身の閉じた目の前に持ってくる。
キランッという効果音がしそうな勢いで指を開き、片目だけを開いた状態でこちらを見る。
ピースでウィンクだ。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………?」
無言の間が過ぎていく。
『精神干渉があったから無効化しといたわよ』
(サンキュー。あ、南雲は?)
『しかたないから一緒にしといてあげたわ』
(よろしい)
脳内で精霊さんから状況を聞く。
「あれ?」
動きのない俺たちに違和感を覚えたのか、めぐたんが間の抜けた声を出した。
「もう一回っ」
キランッ
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………?」
南雲だけ状況が呑み込めずキョロキョロしている。
可愛いのでほっておこう。
キランッ
キランッ
キランッ
キランッ
めぐたんは焦ったように何度もキメポーズを繰り返す。
ちょっと笑ってしまった。
ふと、そこでいたずらを思いつく。
(できる?)
『できるわよ』
実行可能なようだ。
さっそく実行してみることにした。
「くっくっくっくっく。その程度の魅了で俺たちをどうにかできるとでも思ったか?」
「なっ、なんなの!?」
「我こそは、神をも打ち倒し、魔王すらも従える! 破壊者にして救世主! 悠太・古川である! 真の魅了というものをみせてやる!!」
ババッと俺流キメポーズをとり、香ばしい姿勢になりつつも、めぐたんがやったように目の前で指を開き、ウィンク状態でめぐたんを見た。
キリリッ
「は…………、はうぅ!? ゆ、悠太様ぁ!!!」
キマッたな。
めぐたんは、苦しそうに胸を手で押さえ、ひざをがくがくさせている。
「どっ、どうしたの!?」
体調が悪くなったようにも見えるその動きに、南雲が心配の色を見せたが、
「悠太様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
次の瞬間には顔をひきつらせた。
めぐたんが俺に駆け寄ってきて抱き着いたのだ。
「ああ、悠太様、悠太様、悠太様ぁぁぁ」
ぐりぐりと俺の胸に顔を埋め、頬ずりをしている。
というか臭いをかいでいる?
ぶっちゃけなんか怖い。自分でやっておいて怖いし、キモイ。
「ちょ、あんた離れなさいよ!」
南雲がはがしにかかるが、思いのほか強い力で俺にしがみつき離れようとしない。
「待ちたまえ南雲クン」
「はぁ?」
「………………」
…………ギャルの『はぁ?』はちょっと怖い。なんか文句あんの?とかウザいんですけどー?とかの言葉が含まれてそうだ。威圧の効果とかあるんじゃなかろうか。
一瞬折れかけた自分の心を奮い立て、気丈にふるまう。
「めぐたん、これは良くない。交流は握手会などしかるべき場所で、だろう?」
「はっ!? ごめんなさい! そうですよね! わたしとしたことが思わず」
そう言って急に離れためぐたん。
うーん。
これって思った以上に強力だな。
やろうと思ったらすごいことになりそうだ。
『そうね、こないだの街とか今回の街とか余裕で支配できるわよ』
『悠太なら国くらいまとめて魅了できるかもしれませんね』
とのことだ。
精神系の精霊がいて、精神干渉を防ぐことができるなら、こちらから精神干渉をすることもできるだろうと思ったのだ。
で、実際にやってみたらこうなったわけだ。
魅了してみたのだが、思いのほか強烈だ。
しかも、相手は精神系の能力者で、当然精神干渉への抵抗力もある程度持っていただろう。
それをこうもあっさり干渉してしまえるとは。
我ながら恐ろしい力を得てしまったものだ。
この力は今後封印しておこう。
そう心に誓ったのだった。
めぐたんはまだ俺の目の前で俺を見つめてうっとりしている。
心なしか鼻息も荒く、目もうるんでいる。
正直怖い。
怖いのでそろそろ終わっとこう。
パチンッ
「はっ……、わたしは何を!?」
めぐたんが正気に戻った。
めぐたんが現れた。
>戦う
>逃げる
>捕まえる?
ちょっと更新ペース落ちましたが、じわじわ更新して参りますので、今後とも宜しくお願い致します。




