1章 -61- 次の街へ
さて、メディーさんと改めて仲間になった。
しかし、今後の方針は何も決まっていないのだ。
「でも、これからどーするの?」
南雲も心配そうに聞いてきた。
「んー……」
現状、アルシアードの街の外、メディーの小屋に隠れたままだ。
認識阻害の魔法が掛けてあるので、見つかる心配はないものの、食料なども多くはないのでこのまま篭城するわけにもいかない。
まあ、メディーさんの目が光るだけで全ての問題が解決してしまいそうな気配はある。
しかしそこまでして街に戻ることもないかと考える。
「他の街へ行けば良いんじゃないかしら?」
メディーが気軽にそんなことを言った。
「他の街って言っても、指名手配とかされるんじゃないの?」
近隣の街くらいなら情報が出回るんじゃないだろうか?
「こういう場合なら指名手配にはならないでしょうね」
メディー曰く、貴族は他の貴族に自身の失態を知られたくないものらしい。罪状を伏せて手配を掛けたとしても、他の領地で捕まった罪人が情報を漏らす可能性があるので、あまり他の領地まで手配はかからないのだとか。
家宝を盗まれていた上、その罪人を宮殿から取り逃がすというのは大きな失態らしい。
前回の“天使の羽”のときも、指名手配はかからなかったそうだ。
まあ、当然盗賊など一般的な犯罪者で貴族に落ち度がなければ近隣で指名手配の速報が回るのだが。
また、この辺境の街の領主程度にその秘密を伏せたまま領地をまたいで兵を動かせるほどの力もないとのこと。
事を荒立てると結局自分たちの失態が公になる上に、他の領主と争うことになると言うことか。
それなら安心か。
ここでもしばらくは生活できそうだけど、おいしいものもないし、何よりせっかくなら他の街も見てみたい。
指名手配とかされてないのならぜひとも行きたい。
それに、とりあえずこの世界のお困りごとを解決していかないといけない。忘れてはいけない。忘れてはいけないのだ。
忘れてないからね。大丈夫。
結局、お困りごとってなんだ……。
まあ、適当に動いて探していくしかないものか。
しかし、街とは近くにあるものなのだろうか。
「街って近くにあるの?」
「そうねぇ。昔はあったけど、最近は出歩いていないから。どうなのかしら」
出不精のメディーさんは数十年他の街へは行ってないそうだ。当然世情にも疎い。
まあ、数十年という期間で街が消えたりはしないだろうが……。
「街ならあるのじゃ」
暇そうに部屋の置物を観察していたヴィーが会話に混じってきた。
空を飛び回るドラゴンは街をよく見かけるようだ。
普段は雲の上から見下ろす程度だとのことだが、ヴィーの目なら街の様子も見えるようだ。
北西に行けば今回の街と同じ位の規模の街があるらしい。
メディーもまだあったのね。とか言っているので、間違いないのだろう。
とにかくそこへ向かってみることにした。
少し休憩した後、俺たちは小屋を跡にした。
後にした、ではない。跡にしたのだ。
メディーさんの魔道具の中に空間ごと収納できる謎のバッグがあり、それに小屋を基礎ごと放り込んでしまった。
そのバッグ自体も、魔力を通すと小さくなっていき形を変え、リボンの飾りのようになってしまった。
今はメディーの腰の辺りに、洋服の飾りかと思いそうな感じでくっついている。
あの中には色々入ってそうだ。
今度暇なときに覗かせてもらおう。
「しかし、隣町までどうやって行くかな」
「あら、飛べばいいじゃない」
メディーさんがさも当然のように言ってくる。
「うーん、俺もそう思うんだけど……」
「………………」
南雲が無言で首を振っている。もうフルフルと振りまくっている。
あまりに首を振りすぎて、その豊かな胸元まで左右にフリフリ……、もっと首振ってもらいたいな。
それは置いておいて、
「南雲が高いところ飛ぶの苦手なんだよな」
「あら、そうなの?」
「人としてトウゼンです」
むすっとして南雲が応える。
地味にメディーに対しては敬語なのな。
「え、南雲って飛行機苦手?」
「バカ。飛行機は大丈夫よ」
「………………」
いきなりバカ呼ばわりです。
「だって飛行機は落ちないじゃない」
「俺だって落ちないぞ?」
「そういう問題じゃないわよ!」
何が納得いかないんだ?
「ヒコウキ?は知らないけど、安定していたら大丈夫ってことかしら?」
「まあ、そうですけど」
南雲はしぶしぶと言った感じではあるがそう言った。
「ヴィーの背中だったら広いし安定するんじゃないかしら」
「あ!?」
メディーの提案に俺は思わず声を上げてしまった。
最近ずっと人間の姿をしているのですっかり忘れていた。
ヴィーはドラゴンだ。それこそ元の姿はかなり立派な赤竜だ。
ドラゴンの背に乗って空を飛ぶとか、異世界物のロマンじゃん!?
というか、ファンタジー物の映画とか小説なら憧れの展開だ。なんで気づかなかったのか!?
それに確かにあの状態のヴィーの背中なら余裕で数人座れる勢いだ。
「それに、わたしとユータで支えていれば安心でしょ?」
「ま、まあ、それなら……」
まだ安心したわけではなさそうだけど、妥協できるレベルにはなったようだ。
というか、ドラゴンの背に乗るって展開にすこしロマンを感じているご様子。
前に有名な丸メガネの魔法使い映画は見たと言ってたし、そういうファンタジー展開には理解があるようだ。
そんなこんなで、俺たちはヴィーに乗ってアルシアードの街から離れることとなった。
なんとも微妙なところになってしまいましたが、一応ここで第一章?終わりです。
ここからは次の街に行くということで第二章にしようと思っていたのですが、区切りという感じになってません。章の区切りは一応だということで。。。
今後とも宜しくお願い致します。




