1章 -59- 脱出
「痛いわ」
「それどころじゃないよ!」
ほんとこの人頭オカシイよ!
俺に頭を叩かれたメディーがニコニコしながらまだデザートを食べている。
「たとえ恩人の仲間であっても、それは曲げられぬぞ!」
レイリーさんも強く言っている。これは本気だ。
捕まったら間違いなく斬首刑だ。
メディーさん、どんだけ悪事を働いてきたんだよ……。
「あの女をひっ捕らえよ!」
しわしわの老執事がつばを飛ばしながら叫んだ。
「なんでこうなるの!?」
さっきまで英雄扱いだったのに急転直下の扱いの差だ。
こちらの返答も待たずに包囲が狭まり始めた。
「しかたない! 逃げるぞ!」
「あら?」
メディーは何言ってるの?って感じの対応だ。あんたが狙われてんだよ!?
「なぜユータが逃げるのかしら。わたしを差し出せば済むでしょう?」
不思議そうに聞いてくるメディーさん。
「何言ってんだよ! 差し出しません!」
差し出したとしても生きて帰ってきそうだけど。……いや、むしろ衛兵さんたちの安全を考えるなら、この人を差し出すより、こちらで一緒に連れて帰ったほうが良いのかもしれない。というか、差し出したら大変なことになりそうだ。絶対ヤバイ。
まあ、そもそも俺的にはメディーはもうチームの一員だと思っている。まだ不安が消えたわけではないけども。
そんな仲間をほいほい置いていける訳がない。
「俺が連れてきたんだから、俺が責任もって連れて帰ります!」
これは周囲にいるレイリーさんたちにも聞こえるように言い放った。もちろんメディーに向けて言ったのだけど。
「…………そう。なら一緒に行くわ」
きょとんとしていたメディーだが、とりあえず同行してくれることとなった。
包囲されつつあるので急いで南雲を背負う。
「蹴散らすかの?」
食事を終えたヴィーが楽しそうに聞いてきた。非常に嬉しそうだ。俺は嬉しくない!
「蹴散らさない! 悪いのはメディーさんだから蹴散らさない!」
手を出してはいけないのだこういう時は。大人しく逃げよう。
どうして俺の周囲には危険人物しかいないのだ!?
背中に感じる南雲の豊かな膨らみだけが俺の癒しだよ! 今はそれどころではない!
「絶対にこっちから攻撃は無し! 逃げるぞ!」
「逃がすな!」
セシリアさんの号令で剣を構えた衛兵たちが、一気に距離を詰めて来た。
「跳ぶぞ!」
身体強化で膂力を増し、包囲している衛兵たちを一気に飛び越える。天井の高い広間でよかったよ。マジで。
ヴィーも一緒に飛び越え、メディーは相変わらずのフワフワ空中移動だ。
「「「なにぃ!?」」」
衛兵たちの驚きの声が聞こえたがもう遅い。セシリアさん率いるガーディアンの上も越えていく。
結構な速度を出して飛び越えたので、さすがに対応できなかったようだ。
そのまま広間を駆け抜け、窓際に走り寄る。
同時に、手から撃ち出すエアーブラストで窓ガラスを吹き飛ばす。
「ええっと、お騒がせしましたぁ! これ、窓代!」
エルフにもらっていた宝石のそこそこのサイズのものを、レイリーさんへ放り投げる。これくらいあれば足りるだろうか?
「あと、この人がすみません! でも50年前なら時効ってことでお許しを!」
メディーの頭を手で押さえてお辞儀をさせて、一緒に頭を下げる。
頭を上げると、目の前に騎士団長セシリアさんがいた。
おっおー。
今のお辞儀の一瞬で間をつめていたようだ。やっぱり速い。
思いっきり剣を振りかぶっている。狙いはメディーのようだ。
これは危ないので思考加速して対応する。どちらが危ないかというとセシリアさんだ。
メディーさんの顔が怪しく笑っていたのでメディーが動くより早く動き、セシリアさんが振りかぶった剣先を摘む。すごい力で握っていたので苦労したが、その手から剣を抜き、鞘に戻しておいた。
そしてメディーさんの手を押さえて魔法を阻止。
「なにぃっ!?」
何も持っていない両腕を振り下ろし驚くセシリアさん。
「あら」
かざそうとしていた手を押さえられ、メディーは不服そうな声を出した。
しかしここは譲らない。
これ以上ややこしくするんじゃないよ!
セシリアさんが驚いているうちに、先ほど吹き飛ばした窓から、みんなで外へ飛び出した。
その後、全力で逃げに逃げに逃げまくったのだった。
今更ながらアクセス数など確認すると、以前の作品にもアクセスして頂いている方がいらっしゃいました。他はもう更新していないので、これを読んで頂いた方が検索してくださったのでしょうか。
本当にありがとうございます!




