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1章 -58- 50年ほど昔のことじゃ……


 そんな話をしつつ食事もひと段落し、テーブルの上が片付けられた。

「これはお礼だよ。受け取りたまえ」

 レイリーさんがが仰々しく言うのと同時、食事を下げたりしていた侍女さんがなにやらお洒落な袋を運んできた。

「何すか? これ」

 袋を受け取り、中を覗き込む。おっおー。

 大量の金貨だった。小銭じゃない。金貨だ。

 価値は不明だが、なんか凄そうだ。ずっしり重い。

「ヴィーくん。君にも用意しているよ」

 みんなで一袋ではなく、個別にあるようだ。

「なんじゃ? わらわは金などいらぬぞ?」

 やはりドラゴンには金銭感覚は無いようだ。普通に断ってる。もったいない。

 しかしこのお偉方のいらっしゃる空気で、それもくれとか言い出せない。

「あら、じゃあヴィーの分もわたしが貰っておこうかしら」

 そう言ってあっさりとメディーさんが受け取った。

 さらに自分用に用意してあったであろう袋も回収する。さも当たり前のような堂々とした態度で、誰も何も言わない。というか、美女過ぎて誰も文句を言わないのだろう。ズルいぜ。


 と、その時、一人だけ声を漏らした。

「き、貴様は……」

 貴族様の背後に控えていた老執事だ。

 しわを全開に広げ……いや、目を見開いてメディーさんを見ている。しわに埋もれていた目が少しだけ見えている。

「貴様は、メディア・グリード!?」

 老人がガクガク震えながら大声を出した。そんなに震えてると骨とか折れそうだよ? 大丈夫か?

 結構な高齢のようで、所作は綺麗だが、杖を持つ手も震えている。

 しかも大声で叫んだのはメディーさんの本名だった。

 しかしなぜ今更?

 やっぱりあの目、見えてなかったんじゃない?


「知り合い?」

「いいえ?」

 まったく覚えがありませんといった表情だ。たぶんどうでも良いことはすぐ忘れるタイプだこの人。

「貴様! 忘れたとは言わせんぞ! 先々代アグリー・フォン・アルシアード様をかどわかし家宝であった“天使の羽”を持ち去りおったであろう!」

「何やってんのメディーさん!?」

 窃盗じゃん。強盗だったのか?

 まあ、メディーさんの美貌に当てられたら貴族だろうが王様だろうが何でも貢ぎたくもなるだろうね。

「あら、そんなこともあったわねぇ」

 懐かしそうにしているメディーさんだが、老人のガクガクが怒りに満ち満ちてきてるんだよ?

 これ以上ガクガクすると、どこかの骨がポキポキいってしまいそうだ。落ち着いて欲しい。

「“羽”をどうした! アルシアード家にお返しせよ!」

「あら、それは無理よ。食べてしまったもの」

 食べ物だったんだろうか? 名前的にそうとは思えないのだが。

「たっ!? 食べたじゃとう!?」

 爺さんもびっくりピクピクしているので食べ物ではなさそうだ。

「まだ覚えている人がいたのね」

 思い出話をするような雰囲気でおっしゃるメディーさん。

 現場の雰囲気はそんな和やかな感じではないんですが?

「ちなみにそれ何年前の話?」

「50年くらい前かしら」

 先々代貴領主の御付きの方がまだ生きていたようだ。

 てか、あの爺さん50年分の記憶を振り返るのに時間がかかりすぎて今まで気付かなかったんじゃないだろうな?


「き、貴様、何故姿が変わっておらぬのじゃ!? 50年前と変わらぬ姿ではないか!?」

「あなたは少し、老けた……のかしら? 以前の姿も覚えていないけど」

 興味なさそうだ。これ以上ないほど興味なさそうだ。

「やはり! こやつは魔女じゃ! 先々代アグリー様を貶めた邪悪なる魔女ぞ! 捕らえろ!」

 老人が騒ぎ出した。それはもうものすごい騒ぎっぷりだ。つばが飛んでいる。ちょっと汚い。

 警備の人たちは、街の英雄として招待されて来た者を捕らえても良いのもか戸惑っている。

 そこへレイリーさんの声も掛けられた。

「メディア・グリードという名には私も覚えがある。 お祖父様より話を聞いていた。あなたが本人であるなら許すわけにはいかぬ!」

 その言葉を受けて、警備の人たちが動き始めた。

 広間の扉を開け、外にいた兵たちも流れ込んでくる。

 当然セシリアさんを筆頭に、ガーディアンの方々も包囲に加わった。


 いまや、広間の外周部分を衛兵に囲まれ、完全包囲だ。

 レイリーさんや執事の爺さんは安全のため俺たちから遠ざけられ包囲の外に。

 俺と南雲は突然の事態に立ち上がっていた。

 当のメディーさんと、ずっと背景で食べまくっていたヴィーは何事もないかのように食事を続けている。

「ユータ君。君は彼女が罪人であることを知っていたのかね?」

「いえいえ! 初耳です!」

 やばそうなお姉さんだとは思っていたけど、本当にヤバイ人だったようだ。

「であるか。ならば、君も彼女を捕らえることに力を貸してくれたまえ」

 街を救った英雄を、罪人の仲間として捕らえたくはないのだとのこと。

「えーっと、この人を捕まえたらどうするんですか?」

 どう対応すればいいのかわからなくなり、とりあえず聞いてみた。

「その女は我が一族の家宝を持ち出すだけでなく様々な悪事を行っておる。罪も重く、危険である。早急に首を撥ねねばならぬ!」

 斬首刑!

 良い貴族だからって気を抜いていたら結局死刑死刑じゃないかよ!

 やだね中世レベルの世界観って!


 てか、メディーさん家宝を盗んだだけじゃないのかよ!?

 ホント何してんのこの人!

「そのー、メディーさんもこうして反省していますし、刑の軽減を……」

「あら、おいしい」

 メディーさんは別のデザートに手を出していた。

「反省しなさい!」

 ベシッと頭を叩いておく。


また新たにブックマークありがとうございます!

本日はもう一本更新しときました。

自宅でお暇な方へどうぞ。

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