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1章 -5- 頭の中のお友達


 南雲の声ではなかった。

 周囲に声を発したと思しき者はいない。


 というか、俺の頭に直接響いてる?

(まさか、あのイノシシ……)

『ちがうわよ!』


 ん?

『わたしたちは悠太の中。知ってるでしょ?』


 そういえば聞き覚えのあるような無いような。

(だれ?)

『ミズキよミズキ』

 やれやれ、といった感じで“声”は名乗った。


 えーと。

 ミズキといえば、俺の子供のころからの脳内お友達の名前で、沢山いる中でもそいつとはよくしゃべっていたものだ。

 ん?


『とりあえず話は後。アレやってよアレ』

 そうだった。

 目の前には大イノシシがいて、こちらを睨みつけている。

 いつ突っ込んできてもおかしくない状況だ。


(アレって何だよっ?)

『寝る前によくやってるやつ』

 瞑想か? 我流の呼吸法か? 豆球ランプを手に持って光れと念じるあれか!?

 いろいろありすぎてわからん!


(どれ!?)

『周りから力を集めるやつよ!』

 あれか!

 下腹部に力を入れてゆっくり息を吸いながら周りの力っていうかエネルギーを取り込むイメージの……

 って、それ俺の中二病活動の一つじゃん。なぜ今ここで!?


 しかし、この“声”に従うこと以外にできることは何もない。

「フーーーーーッ」

 いつもやっていた事なので、とっさの状況でもスムーズにできた。

 深呼吸とともに、全身で力を取り込んでいくイメージをする。

 中二病の妄想力が大活躍だ。


『きたきたきたぁっ!』

『さすが悠太です!』

『力がもどってくるネー!』

『生き返るーー!』


 ん?

 声、増えてね?

 というか、耳鳴りが消え、代わりに多くの声が脳内で聞こえた。

 なんだこれ。


『ありがと悠太!』

(はあ、どういたしまして?)

 よくわからないが、感謝された。


『とりあえずあいつ、吹っ飛ばそうか』

『そうですね』

 ひとまず危険を排除することになった。




『吹っ飛ばすなら、カグラでいいんじゃない?』

 カグラというのは、ミズキに並んで昔から俺の中にいた“声”の一人だ。

 風の神様とかそんな感じでイメージしていた存在だ。

 ちなみにミズキは水の神様。勝手な妄想だけど。


 物心付いたときにはイメージがあって、脳内会話のようなことをしていた気がする。

 エア友って言っちゃうと寂しいよね。


『そうですね。悠太、いつものあれを』

 どれよ? 多すぎてわかんない。

『風靭斬です』

(あ、ああ……あれね)

 よく近所の山で修行(イメトレ=妄想)してたあれね。

 風を圧縮して攻撃として放つ技をイメージして一人で遊んでいたのだ。

 いわゆるウィンドカッター。

 中学時代は調子に乗って風靭斬とか技名つけてたな。くそっ、恥ずかしい。

 え? それ今やるの?


 右腕に力を集中し、それを掌から出す感じ。何度もやったことだ。

 後はカグラが合わせてくれるとのこと。

(大丈夫か?)

『問題ないわよ』

『思い切って行きましょう』

 能天気なミズキの声と、意外にやる気のカグラ。


 まあ、この状況では藁にもすがるというような気分だ。

 とにかくやってみるしかなさそうだ。


 相変わらず大猪はこちらを睨んだまま、土を蹴り上げ鼻息を荒くしている。

 いつ突っ込んできてもおかしくない。


「ど、どうしよう……」

 背後の南雲の声が震えていた。

 いつものキツイ表情はどこへ行ったのか、泣きそうな顔で俺のシャツを掴んでいる。

 うむ。強気ギャルの弱弱しい感じにギャップ萌えしてしまいそうだぜ。


 とりあえず、なるようになるだろう。

 カグラたちを信じることにした。

 こういう思い切りのよさも俺の美点だと思うんだよね。


「大丈夫。俺に任せとけ(キリッ)」

 無意味に格好つけてみる。


 空気を読んだのか、いいタイミングで大イノシシが突進してきた。

 脳内の指示に従って右手を前に出し、力を打ち出すイメージをしてみた。


「はぁっ!」


 その結果、前方の森がまるごと吹っ飛んだ。

「ん?」

「は?」

 突然の事態で南雲も間抜けな声を出している。

 やった本人が理解できていないのだから当然か。


 大イノシシどころか、前方数十メートルの森が地面ごと抉れて吹き飛んでいった。

 3mを超える大イノシシは、暴風にのってどこかへ吹っ飛んでいって見えなくなった。


「おっおー」

 なんだこれ?


まだまだ続きます!

今後とも宜しくお願い致します!


相変わらず改行のタイミングが分かりません。

読みにくかったら恐縮です。

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