1章 -56- 領主からのご招待
せっかくなのでゴブリンたちにも洗脳をかけてもらった。
思考能力が低い生き物なので、洗脳の効果はいまいちのようだが、ゴブローがリーダーをしているうちは大丈夫だろう。これで人間に危害を与えるようなことはないはずだ。何せ女神様の教えだからね。
とりあえず労働力として街に貢献してもらうことになった。その戦闘力を買って近隣の魔物退治をお願いしたのだ。これも女神様の教えだろう。きっとそうだ。
幸いゴブローに対してはオ拓が話をすることができるので、セシリアさんに話を通して通訳にしてもらった。
もちろん洗脳の話はしていない。街全体の洗脳を解くとか面倒なことになりかねないし、平和ならそれで良いだろう。それに洗脳と言っても自由意志はそのままに、女神様を尊敬してもらうだけだし。
結局、俺たちの活躍はすぐに広まっていた。
多くの人間治癒して回り、ガーディアンの騎士団長でも倒せなかったゴブリンロードを単独で倒した少年、俺。
数多のゴブリンを素手で殴り飛ばし続けた少女、ヴィー。
多数のゴブリンをまとめてお陀仏(死んではいない)させた美女、メディーさん。
この3人が目立ち、あっという間に英雄扱いとなった。
噂はあっという間に広がり、街の住民まで知る事態となったのだ。
ふっふっふ。非常に鼻が高い。
「今度改めてお礼をしよう」
セシリアさんにもそう言われていたし、どうやら街の領主の貴族からもお礼があるらしい。
これは早速英雄旗揚げへの第一歩だな!
勇者として名を馳せるのもすぐだろう。そうなればその地位を活かして冒険者ギルドの立ち上げだ!
ギルドが上手く広がれば、ハンターを手配して魔物の駆除もスムーズになるし、希少とされる魔物の部材もより多く市場に出回るようになるだろう。これは大儲けの予感だ。
数日の間、観光を楽しんだり、ダラダラしたりしながら過ごしていると、街の領主から招待状が届いた。
ついに街の英雄として取り上げてくれるそうだ。
「ふっ、ここから俺の英雄伝説が始まるのだ!」
「………………」
ジト目の南雲サンはスルーしておこう。
後日、街の領主の館にやってきた。
さすがに入り口の警備は厳重で身分証を見せることになった。俺の抵抗はむなしく提出させられた。
何故こういう時だけ南雲サンは強気で提出を促すんだろうか!?
街を救った英雄ということもあって、表立って笑う人はいなかったが、みんなプルプルしていたので俺の肩もプルプルしていたよ。恥ずかしすぎる。
領主の館はやはり大きかった。中世ヨーロッパの屋敷って感じだ。ヴェルサイユ?
部屋とか何部屋あるんだろうか。無駄に百は越えてそうだ。
廊下は全て赤いカーペット敷きで、靴で歩くのが気が引けるレベルだ。
案内されるがまま屋敷の中を進んで行き、広間に通された。
非常に広いその部屋には長いテーブルが置いてあり、その周りに皆が座っていた。
ガーディアンの騎士団長セシリアさんや城壁警備隊の隊長さんも呼ばれていたらしく、席についている。
上座のお誕生日席には髭のダンディーが座っていた。たぶんあれがこの街の領主様なのだろう。高そうな服を着こなし、丁寧に調えた髪型がきまっている。悪徳貴族って感じもしないし、普通に良い人そうだ。
その貴族様の背後には老人が控えている。老執事だろうか。もうだいぶお歳なんじゃないだろうか。目が開いているのか閉じているのかも分からないほどしわくちゃの顔。見えてるのかな?
領主の貴族はレイリー・フォン・アルシアードと名乗った。
「ユータ・フルカワよ。此度のお主の働き、聞き及んだぞ。良くやってくれた」
「いえいえ。とりあえ ず騒がしかったので静かにしただけでございますよ?」
どう返せば良いのか分からない。敬語ってこれでいいのかな?
「ちょ、あんた、相手は偉い人なのよ? もうちょっと言葉遣いとか……」
背後から小声で南雲サンが怒ってくる。
仕方ないじゃん。貴族と会うときのマナーとか習ってないし?
「ふっふっふ。面白い少年だ」
良い貴族様はこの程度では怒らないようだ。
こういう異世界の貴族って下卑た笑いしながら死刑死刑言ってるもんじゃないのかね。
そういう展開も想像していたのでちょっと残念だ。
もしそうなっていたら悪徳貴族を打ち倒し、その金品財宝を全部頂いて街で豪遊する予定だったのに!
どう見ても親切そうなダンディーだ。
「おぬしたちはどこから来たのかね?」
早速食事をしながらの話となった。
長テーブルの上に並べられた豪華な料理の品々に思わずよだれが出る。
南雲にいたっては、その高給そうな料理たちに圧倒され、固まってしまってる。
貴族や屋敷は平気だったのに、何故ここで固まるのだ?
「俺たちは西のほうから来ました」
細かい説明は難しいので、方角だけ答えておいた。
こういう世界では世界地図なんてなかったりするし、そうざっくりした答えで大丈夫だろう。
「ほう。あの森を抜けて来たのかね?」
うなずく。
「あの森には人間に矢を向けるエルフや、盗賊などがおっただろう。襲われたりはせなんだか?」
あ、偉い人は知っているのね。
まあ、どこの世界でも偉い人が情報強者というのは当然か。
情報が無ければ政治などできないし、何かあったらすぐに大混乱だ。
「ああ、盗賊なら襲ってきましたよ。返り討ちにしときました」
「さすがだな。全員殺したのか?」
ころっ!?
いきなり物騒な話だな。
しかし、なぜそれを確認するのだろうか。
もしかすると、この貴族の手先だったとか?
それとも、賊を倒したら捕まえて連れてこなければならなかったのだろうか。
連れてきてないと言うことは殺したと判断され、殺人罪とかで捕まるのだろうか。
「えーっと、殺してはいません。全員気絶させて逃げてきました」
どっちにしろ状況が読めないし、貴族相手にカマの掛け合いなんてできる気がしない。
このおっさん鋭い目をしてるし。
諦めて正直に言った。
「むっ? 一人も殺さずに無力化したというのか?」
セシリアさんが驚いて口をはさんできた。
「ええ、まあ」
俺の答えに、セシリアさんは絶句してしまった。
何なのだろう。
「何故、そのようなことを?」
少しばかり目を見開いていた領主様もすぐに平静を取り戻し、質問してきた。
やっぱりまずい対応だったのだろうか?
「え、死んだら人生終わりじゃないですか。殺されるのも嫌ですけど、殺すのも嫌ですよ。世界はラァブ・アァァンド・ピィィィィスです」
うん。もう正直にいこう。
怒られたら怒られた時だ。
街をゴブリンから守った成果もあるし、悪くてもいきなり厳罰にはならないだろう。
「ふふふ」
俺の横でメディーさんが笑った。
こらえきれず噴出した感じだったが、それでも上品に笑うものだ。
さすがメディーさんは品がある。
「そ、そんな甘い考えでっ……!」
セシリアさんが怖い顔をしている。え、なんで?
しかし、それ以上何かを言う前に、レイリーさんが手をかざして話を止めた。
「落ち着きなさい。彼には彼の考えがある」
静かに諭すように言った。
「失礼致しました」
セシリアさんはそれを聞き、素直におとなしくなった。
「さすがであるな。ユータ君。しかし、それはまずいことになったかもしれん」
やっぱり良くないやり方だったのだろうか?
「その盗賊は、たぶんシルバニア・ファミリーの者だ」
ん?
「なに、ファミリーですか?」
いや、そんなまさか。
「シルバニア・ファミリーだ」
ずっと思っているんですが、サブタイトル考えるのがすごい苦手です。
まあ、作品自体が下手なので、苦手もなにもないかもしれませんが。
毎度こんなサブタイトルでいいんでしょうか???




