表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/137

1章 -53- 悲しい仲間意識


「愛と平和を守る孤高の旅人さ」キリッ

 もちろんこちらの言葉でだが、どこかで聞いたことがあるセリフを言ってみる。

「グググ、誰でも関係ねぇ。人間は嫌いだ! オデをモンスター呼ばわりする人間なんか嫌いだぁ!」

 あ、何となく悲しいストーリーが見えてしまった。

 あの見た目のせいで人間扱いされなかったのではないだろうか。そしてむしろゴブリンたちには仲間として迎えられたりとか? ありえそう!

 可哀想過ぎるだろそれ……


「でも今は関係ないな!」

 騎士団長さんをその場に残し、前へ出る。

 出るときにこっそり騎士団長さんの持っていた楯を借りていく。さっき叩いたとき思ったんだけど、ゴブローさん汗と泥でベタベタで触りたくない。

 瞬時にゴブローの前に飛び出し、その腹へ向かって楯をぶち込む。

「グガッ!?」

 ゴブローは打ち込まれた勢いで建物へ突っ込んでいった。そして壁にぶち当たり、石造りの壁を崩しながら建物の中へと転がっていく。結構タフそうだったので、この程度では死なないだろう。

 とりあえずちょっと落ち着いたので騎士団長さんに声をかける。

「騎士のお姉さん、大丈夫だった?」

「き、君は何者なんだ?」

 ふらふらとしながらもそんな事を聞いてきた。質問の答えではないけど、話しはできてるし大丈夫そうだ。


「グアアァ!」

 咆哮と供にゴブローが建物から飛び出してきた。思っていた以上にタフなようだ。

 飛び出してきた勢いで大剣を振りかぶり、落下と供に振り下ろしてきた。

「危ない!」

 後ろで騎士団長さんの焦った声が聞こえたが、問題ない。


 何故か?

 何故だろう。

 俺も不思議なんだけど、目の前のゴブローの落下が凄いスローモーションになっている。というかほぼ止まっているレベルだ。謎すぎる。

(なにこれ?)

『精神魔法の応用で、悠太の思考速度を早くしてみたの』

『今の悠太の動きなら、これくらいでも動けるかと』

 どうやら精霊さんたちの仕業らしい。

 え、何それ? 俺の脳が過処理で焼ききれたりしないよね? 怖っ!?


 目の前のゴブローはまだ空中でゆっくりゆっくりじわじわと進んできている。

 ゴブローのみならず、周囲の全ての動きが遅くなっていた。

 普通に身体を動かそうとすると全く反応しなかったが、魔力を通して身体強化し、素早く動くと相応の動きが出来た。ちょっと加減が難しい。

 精霊さんたちの言うには、時間がゆっくりになっているとかではなく、俺の思考速度だけが加速されているらしい。だからゆっくりに見えるのだとか。ザ・ワー○ドっぽいけど?


 あまりにゴブローさんがゆっくり進んでくるので、一度振り返って騎士団長さんの下へ戻る。焦りの表情のまま固まっているけど、それでも美人さんだ。うん。美人。

 ついでに鎧から開放されたその胸元も確認する。南雲サンよりは小さいけど結構大きい。うん。Dくらいかな?

 触りはしない。紳士だから。

 鍛え上げられた身体についている膨らみは、なんとも張りが良さそうだ。

『時間が止まってるわけじゃないから、あんまりじっくり見てるとバレルわよ?』

 ミズキさんの冷ややかな声が聞こえたのでここまでにしておこう。

 元の位置まで戻る。それでもまだゴブローは飛行中だった。

 とりあえず大剣が近づいてきたので楯で払いのける……つもりで打ちつけると、どちらも壊れた。

『実際には相当な速度ですから』

 そうか、俺の知覚的には普通の速度だが、実際の速度はめっちゃ速い動きになってるのか。当然威力も上がってる状態だ。

 やっぱり触りたくないので、砕けた楯のかけらを空中でつかみ取り、それをゴブローの顔面の前へゆっくり投げておく。


 そして解除されるスローモーション。これマジ便利。

「グガッ!?」

 突然手に持つ大剣が吹き飛び、楯の大きな塊へ顔面から突っ込んだゴブローはその場でひっくり返った。

 そのまま後頭部から地面へ落ち、伸びてしまう。

「やれやれだぜ」

 ちょっと余裕の感じをかもし出してみた。ほとんど精霊さんのおかげだが。

「え? 今、私の前に……」

 知覚速度の速い騎士団長さんには一瞬見えていたようだ。

 でも確信を持てていないようなので、何も無かったかのようにスルーしておく。俺の冷や汗は戦闘のせいだろう。きっとそうだ。


 ヴィーが近づいてきた。

「さすがユータじゃの。先ほどの早業は見事じゃったぞ。攻撃の切り返しの前に、あの女の乳房の確認までするとはのう」

 言わなくて宜しい!

 ヴィーには完全に見えていたらしい。さすが何でも見通す竜眼だ。

「………………」

 騎士団長さんの目がすごいジト目だ。

 確信を持たれてしまったようだ。

 おっおー。


「グガッ。お前ら、逃げろ!」

 さすがのタフネス・ゴブローさん、まだギリギリ意識があったようだ。グッジョブ!

 おかげで騎士団長さんのジト目が解けた。

 ゴブローはゴブリンたちへ撤退の指示を出す。

 しかし、反応できるゴブリンは元の半分以下だ。

 何故かというと、回復魔法をかけて回っている俺に続いて走り回っていたヴィーが、とりあえず殴りまくって沈黙させてしまっていたからだ。残りの生き残っていた半分以下はゴブローが壁に突っ込んだ辺りから戦闘を止め、こちらの戦闘を凝視していた。同時に城壁警備隊の人たちも止まっていたのだが。そこは戦っておいて欲しかった。

 反応の出来た残り半分以下のゴブリンは、その指示を聞き、騒然となった。

「何してる! 早く逃げろ!」

 ゴブローが再度指示を出すが、首を振って従わないゴブリンたち。

「「「ガガガガガァ!」」」

 謎の掛け声を機に、ゴブリンたちが一斉に駆け出した。門ではなく、ゴブローの方へ。

「お、お前たち……」

 集まったゴブリンたちは、楯を外へ向け円陣を組み、ゴブローを守っていた。

 なんだろうこの仲間意識。

 それは人間だよ?

 むしろ人間よりもゴブリンに仲間と思われるゴブローもどうなんだろう。

 本人たちは友情のようなものを感じているらしく、じんわりした雰囲気になっている。ちょっと切ない。


「メディーさん、あれ、無力化できる?」

 なのでさくっと終わらせることにした。

 こういう状況なら後衛、魔法系の人の得意分野だろう。範囲攻撃。

「ええ。軽く火で炙りましょうか?」

「もっと優しいので!」

 そんなことしたらあまりにえげつない絵づらになってしまう。しかも街中で異臭問題だ。断固反対だ。

「なら、氷漬けかしら?」

「ダメだって!」

 あの氷の柱は優さか何かで出来ていたのか?

「んー、土壁で押し潰す?」

「潰さない!」

 それ死ぬじゃん!?

「じゃあ、失神する程度に電撃でも流す?」

「あー、もうその辺で」

 俺の回答を聞いて、ゴブリンたちの前に歩み出た。

「お休みなさい」

 そう言いながらゴブリンたちに手を向ける。

 途端、ゴブリンたちの円陣を覆うような巨大な魔方陣が出現した。

「グガガガガガガッ!?」

 バリバリと電気が走る音と供に、ゴブリンたちがビクビク痙攣をし始める。

「アガガガガガッ!?」

 ゴブローも一緒にビクビクしている。怯えている訳ではなく、痙攣してるんだぜ。

 数秒続いたバリバリが落ち着くと同時、魔方陣の上に立っている者はいなくなった。

 うん。これもぜんぜん優しくなかったよ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ