1章 -48- ガルドの心配
最近ゴブリンの様子がおかしい。
城壁警備隊の隊長、ガルドは考えていた。
基本的に奴らは知能が低い。
自分たちの身の危険を感じたら本能に従い逃げるのが通常だった。
しかし、最近この街の近くをうろつくゴブリンは、街から距離をとろうとするそぶりも見せない。
一時的には逃走もするが、拠点を動かすこともなく、しばらくもしないうちに顔を出す。
こんなことは今まで一度もなかったのだ。
「やはり、ゴブリンロードってヤツがいるのか?」
最近街で噂になっているゴブリンロードという存在。
ゴブリンの上位種で、まれにのみ発生し、発生した際には一般のゴブリンの大軍を率いて大規模な襲撃をするらしい。
ゴブリンロード自体も力が強く、単体でも城壁警備隊の数部隊が必要になるレベルなのだとか。
さらに、ゴブリンたちを使役することで集団の機動性、攻撃性も増し、被害を拡大する。
一種の自然災害のようなものだ。
過去にはいくつかの村がゴブリンロードに襲われ壊滅したという話もある。
最近は出現の報告はなかったのだが、ゴブリンたちの異常行動を説明するには何か理由があるはずだ。
そう考えていたある日の事だった。
「なんだとっ!? ガレルがやられた!?」
突然の報告に驚いて声を大きくしてしまった。
「ああ、かろうじて致命傷はなかったんだが、本当に危なかったんだ」
話を聞けば、周囲の仲間が気が付き、助けに入ることで死をまぬがれたそうだ。
「しかし、何でそんなことに……」
通常のゴブリン程度ならガレルがやられるわけがない。
複数を相手にしても彼の立ち回りなら仲間が来るまで持ちこたえられるハズだ。
「それなんだが……」
口ごもる報告者。
「確証はないが、ゴブリンが罠を張っていた可能性がある」
「なんだと?」
ガレルは誰よりも早くゴブリンを追って森に突入したそうだ。
当然、彼のチームも後を追う。
しかし、森に入ってすぐに、ガレルが地に伏し、ゴブリンに袋叩きにあっていたそうだ。
そして、ガレルが倒れていたすぐ手前に、一本のロープが、木の枝に隠れて張ってあったのだと。
その高さは、ゴブリンは問題なく潜り抜け、人間はのど元に引っかかるというものだったのだと。
ガレル本人の意識が戻らず、確証はないが、ゴブリンを追っているうちにこのロープに引っかかり、転倒後に瞬時に囲まれたのではないかというのが推測だった。
石槍や石斧といった武器を扱える程度の知能しかないはずのゴブリンが、罠を張り、しかも統率の取れた動きで攻撃してきたとなると、これは異常事態だ。
他の隊員が助けに入ると、ゴブリンたちはすぐに姿を消したそうだ。
何かがおかしいと思っていたところにこの事態だ。
「くそ、なんだってんだ!」
最近ゴブリンの討伐数が減ってきていた。
襲撃数は増えているにも関わらずだ。
これは完全に異常事態と言って良い。
「俺は上に報告してくる」
「はっ!」
部下に行き先を告げ、ガルドは詰め所を後にしたのだった。
この街、アルシアードを治める貴族、レイリー・フォン・アルシアード伯爵の召集で会議は行われた。
ガルドの報告を元に、貴族を集め話し合いになったのだ。
貴族たちの対応は悪くはなかったが、現状の打開策にはつながらなかった。
というのも、「ゴブリン程度で……」と言う貴族も少なくはなかったためだ。
しかし貴族代表のアルシアード伯爵がこれを重く受け止めてくれたのだ。
「ゴブリンと言えど、知恵を働かせることができるとなれば脅威にもなりかねぬ。知恵こそが魔物より人の優位なところだ。それが覆れば何が起こるかわからぬぞ」
その一言で、ガルドの報告は重要に扱ってもらえるようになったのだった。
レイリー・フォン・アルシアード伯爵は、その辺りは物分かりが良く、堅実な人だと民からも好評だ。
しかし、どこにいるかもわからないゴブリンにこちらから攻めることもできず、ひとまずは警戒を高めることとなった。
加えて、普段は貴族を守る貴族警護騎士隊、通称ガーディアンの戦線参加も許可が出た。
緊急時には、速やかに参戦してくれるとのことだ。
ガーディアンは、基本的に戦闘能力の高い人間を集めたチームである。
騎士隊というだけあって、地位もそれなりに高く、貴族への対応マナーなども学んでいるエリートたちだ。
そのため、城壁警備隊より上の立ち位置と言った感じになっている。
事実、ガーディアンが戦線に参加する場合は指揮権が委任されるのだ。
城壁警備隊には、ガーディアンの試験を受けたものの、入隊できずに降りてきたものがたくさんいる。
ガーディアンも上位の者になれば、戦闘用の強力な魔術を習得しているものもいる。
戦力としては非常に心強い。
そう思い少し安心したガルドだった。
翌日早朝。
交代のためまだ暗いうちからガルドは家を出た。
昨日の話し合いでガーディアンの助力も約束され、もう何かあっても大丈夫だろう。
昨日までよりは少し気が楽だな。と思いながら門まで向かっている途中、声をかけられた。
「隊長! たいへんだ! 門が!」
「なに!?」
今日はもう一件更新しておきます。
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