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1章 -47- まあ、良いのか……な?


 信者の男の名前は小野田拓也。小野田の「お」と、拓也の「拓」で、オ拓と呼ぶことにした。

 大丈夫。真性だから違和感ないよ。


「で、オ拓さんさ、なんで死んだの? 罪状は?」

 場所を変え、広場の脇の休憩用の席について話を始めた。

 この男、特に警戒することもなく素直に全てを話し始めた。

 まずは抑えるべきは死因と罪状だろう。

 それで何となく人となりが見えてくるはずだ。


「罪状? は分からぬが、あえて死因と言えば餓死でござろうな」

 餓死ってなんだよ。日本でそうそう起こる死因じゃないよね。

「拙者は即身仏になったでござる」

「は?」

 思わず間抜けな声が出た。

 出た声は俺だけなので、他の人は意味が分かってないようだ。

 南雲は俺たちと同じ世界出身だが、そっち方面の知識は皆無のようだ。

「即身仏、知らぬでござるか?」

「いや、俺は知ってる。断食して死ぬまで瞑想をし続けるっていう仏教かなんかの修行だよな?」

 たしか、場合によっては深く掘った穴の中に自ら閉じ込もり、食を断ち念仏を唱え続けるような修行だ。

 そうして発狂してでも食を絶てるようにし、最後にはガリガリの状態で座禅を組んでミイラになる。

 実際どこかのお寺にはそれが残ってたりしたはずだ。


「そうでござる。拙者、女神様に少しでも近づけるよう、即身仏になるまで修行を続けたでござる」

 そこだけ聞くと凄い崇拝だが、その崇拝の対象ってベルダ○ディ様だよな?

 マジで言ってんの?

 マジもんのマジ?

 真性どころじゃないよ。これを本当の真性って言うんだよ!?

 あまりの衝撃に語彙力がおかしくなってしまった。

 いやまて、俺の知らないだけで、ベル様に似た女神様がいるのかも知れない。たまたま名前も同じだけとか。

 どこかの宗教とか神道とかにいるのかも知れないよ!?

「ちなみにお伺いしますが、女神様って、ああ○女○様っのベルさんじゃないよね?」

「おお、聖典をご存知だったでござるか」

 間違いなかった。くそっ、マジもんかよ!?

 ヤバイやつだよこいつ。

 マンガの登場人物に人生マジで捧げやがったよ。


 とりあえず気を取り直して質問を続ける。

「で、罪状のほうは?」

「罪状とはなんでござるか?」

「え? こっちの世界に送られる理由だよ。謎の白い空間で説明されなかったか?」

「ああ、あそこには行ったでござる」

 そこでオ拓の表情がぐっと引き締まった。仇を見つけた軍人みたいな顔になった。

「偽女神がいやがったでござる」


 瞑想を続け即身仏になれば、死後の世界でベル様に出会えると本気で思っていたようだ。

 だが、あの白い空間のクソ女が偽女神ってところには同意できる。むしろ同意しか出来ない。

「女神はベル様以外認めないでござる!」

 おお、そうかそうか。好きに言っていてください。

「で、罪状っていうのは聞いてないのか?」

 もう年上だろうがもはや関係ない。こいつには気兼ねなくため口でいくことにしよう。

「さっきから言っているが、罪状っていうのは何でござるか?」

「え? 知らないの?」

 本当に知らなかったので、一から説明した。

 前の世界での罪人がこちらに来ること。一応俺は無罪だと言うことも言っておいた。

「そうでござったか。しかし拙者、何も悪いことはしてないでござる」

 全く思い当たるところが無い様子だ。澄んだ瞳で言ってやがる。

 これは絶対黒だ。

「じゃあ、白い部屋での会話を教えてくれ」

 根掘り葉掘り聞いていくことにした。



 聞き出した中にあった会話がこちら。

「だから偽じゃなくて本物の女神なの!」

「うるさいでござる。偽女神! さっさとベル様の下へ行かせるでござる!」

「ベル様の下へってどこよ!? あなたは特に悪いこともしてないし、さっきの世界で生まれ変わるのよ!」

「生まれ変わるでござるか? なら拙者、生まれ変わってもベル様への信仰を続けるでござる」

「くっ、なんて信仰心。なぜ本物の女神を前にしてそこまでブレないの!?」

「今度こそベル様の下へ向かうべく、今度は布教活動にも力を入れるでござる」

「布教って何するの?」

「全世界の人間がベル様を信仰するように教えを説き続けるでござる」

「く、なんて澄んだ目なの! このままでは他の人にまで……。世のため、人のためね……」


 会話だけしか聞いていないが、あのクソ女神の絶望の表情が眼に浮かぶ。

「あの偽女神が言っていたでござる。世のため人のためにって。そこだけ聞いていると悪いやつじゃなかったのかと思ったでござる」

 とオ拓は言っているが、それって、本来こっちに転生するような悪事は働いてなかったけど、今後のあっちの世界の世のため人のためにこっちに転世させられたって感じじゃね???

 オ拓の話ししか聞いてないが、なんとなく俺の想像は当たってる気がする。

 しかし、何でそんなやつに精神系の能力を与えたんだあのクソ女神。やっぱり頭のなか空なんじゃないだろうか。


 聞いてみると、能力はくじ引きで当てたらしい。あのクソ女神なにやってんだよ真面目に仕事しろよ!

 その時も偽女神は心底残念な顔をしていただろう。

「だからこんなことしてんのか」

 今度こそベル様の下へ向かうべく、信仰を広めているのだろう。

「こんなこと、とは、布教活動のことでござるか?」

「そうでござる」

 こんなおデブでも忍者になれるのなら、俺も忍者になれるだろうか。語尾がつられてしまった。


「それもあるでござるが――」

 お拓さん曰く、この世界に来て人類の発展の遅さに驚き、中世時代レベルの価値観に嘆いたそうだ。

 何より聖典が無い。

 そして、街を見渡せば盗みや暴行を見かけることもしばしば。

 それを嘆き、この世界には強い信仰が必要だと感じたらしい。

 うん。それだけ聞くと良い話なんだけどね。

 それから街の不良たちを優先的に洗脳していき、どんどんと信仰を拡大。現在ほぼ町中がその影響下にあるようだ。

 街全体を洗脳とか聞くと凄い能力に聞こえるが、一人ずつ洗脳していき、しかも自由に操っている訳じゃないので、継続消費の魔力は要らないのだそうだ。

「ところで、聖典を知っている君も、一緒に女神様を信仰しようじゃないか」

「うっせえ!」



 その後とりあえずオ拓をひっぱたき、俺たちに信仰を押し付けないことを約束させた。

 そして、街から外に信仰を広げに行かないことを約束させつつ、街の信仰はそのままにした。

 だって、一応平和なんだもんこの街。

 悲しいかな、女神様信仰のおかげで街は平和になっている。

 洗脳も特別なことはしていないようで、単純に女神様に信心深くなるようにしただけとのこと。

 元々あった宗教はそれはそれで残しているようだし、この街はこれで安定している。

 みんなの心にプラスアルファの善意を埋め込んだと言うことで。

 何気にみんなが善意を持って生活しているので、上手い具合に経済も回っているらしい。

 利己に走らなくなると、みんなが利益を出し合えるのだそうだ。

 そして何より、あのオ拓さんは真性のようなので、女神様に会うまで悪事は働かないだろう。

 というか、女神にあっても悪事は働かなさそうだ。


 なので良しとした。……良いのかな? まあ、いいか。


ここまで読んで頂いている方、本当にありがとうございます。

次回の更新も近いうちにしていきます。

今後とも宜しくお願い致します。

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