1章 -43- テンプレ…
振り返ると、ガラの悪そうな男が3人立っていた。
二十歳くらい、元の世界でいうなら大学生くらいの男たちだ。
みんな“俺、ガラ悪いです!”と言わんばかりのチャラけた服装だ。こっちの世界でも、着崩しを格好良いと思うやつ等はいるようだ。冒険者風の服をわざと破いたりアクセサリーで着飾ったりしている。
世紀末的な人たちよりはずいぶんマシだけど、やっぱりガラが悪い。
「ちょっと女だけ置いていってもらえませんかねぇ」
ニタニタと笑いながら舌なめずりとかしているし。
ガラの悪さがあまりにテンプレな感じなので、逆に小物感がすごい。ぜんぜん怖くない。
むしろ思わず笑いそうになったのを必死に引っ込めたほどだ。
それを怯えているととったのか、更に調子に乗っていく男たち。
「大人しく置いていくなら一発殴るくらいで許してやるよー?」
ひっひっひっひっひとか笑っている。
俺も内心笑っていたが、頑張って表情筋を引き締めた。
「それにしても良い女連れてるな」
「ああ、どっちも良い身体してるぜぇ」
「特にあの胸だ! 当たりだな! 早く揉みてぇぇぇ!」
「二人しかいねえから交代だな。誰が最初我慢するんだ?」
こちらが黙っていると、もう手に入るのが前提みたいな気分で話しをしている男たち。
品がないにも程がある。
面白がっていたけど、だんだんウザくなってきた。
『殺す?』
(殺しません!)
ミズキさんはいつも物騒だなぁ。
「殺す?」
「だから殺しませんって!」
メディーさんも物騒だった。
とりあえず、どう処分しようか。
精霊たちが言うには相手にならない程弱いらしいし、どうとでもできるだろう。でも、下手に対応してトラブルが拡大するのは避けたい。警察沙汰とか嫌だし。警察はいないので、警備隊沙汰か。
こういうのは、こちらの強さを見せ付けた上で、こいつら以外のヤカラにも警告になるようにしておくと後々絡まれなくていいだろう。
そういうことで、多少は痛い目にあってもらおうと思うのだが、
「加減がわからんな……」
思わずぼやいてしまった。
「なら、わたしが相手をするわよ」
そう言ってメディーが一歩前へ出た。
「あなたたち、残念だけどわたしの身体はもうユータ専用なのよ」
「ああん?」
「なんだよ、そんなガキがいいのか?」
過剰に反応するヤカラたち。
というか、俺専用って……俺も過剰に反応しちゃいそうですが。
「へっへっへ。俺ならもっとおねーさんを楽しませてやるぜぇ?」
「あら本当?」
ニィッとメディーさんの口元がつり上がった。
これ、嫌な予感がする。と思った瞬間……手遅れだった。
キィィィン
突如、地上5mはあろうかという氷の柱が立ち上がっていた。
ガラスと見間違いそうな透明度の氷柱の中には、先ほど発言した男が微動だにできず閉じ込められている。あれって意識あるのだろうか?
「「え?」」
氷柱に閉じ込められなかった二人が間抜けな声を出して横を向いた。
横にいた仲間がいきなり氷漬けになっているという事態に思考が追いついていないようだ。
まあ、俺もその立場だったらそうなるけど。
「ダメねぇ。この程度レジストしてもらわないと、少しも楽しめないわ」
うふふふふ……と笑みが深まるメディーさん。
それはもう美貌を通り越して怖い。怖いよ。
「あら、手が滑ったわ……」
そんな事を言いながら右手をふいっと振った。
滑るも何も、何かを支えたり持ったりしてるわけじゃないんだけど。
たったそれだけで、氷柱にピシッと斜めに亀裂が入った。
その亀裂に合わせ氷柱の地上2mくらいのところから上が滑り落ちた。それはまさに氷漬けの男の頭上スレスレだ。
あれがもう少し下だったら男の首ごとすべり落ちていたんじゃないだろうか。
「「ひぃぃぃっ!?」」
男二人はその場で腰を抜かしてしまった。
と、言うか、
「おい!? 死んでないよな!?」
慌てて問う俺。
「あら、大丈夫よ。次で死ぬから」
良い笑顔で振り返るメディー。
「いやいやいやいや! 殺すなよ!」
そんな寝覚めの悪いことはやめて欲しい。
ていうか、このまま放置しても死んでしまいそうだ。なにせ氷の中で凍り付いているのだ。呼吸も出来なければ鼓動もできないだろう。というかどうなってんの? 中まで凍ってんの?
「さっさと開放してやれよ!」
「しかたないわねぇ」
そんなに焦らなくてもすぐには死なないわよとか言いながら氷を解く。
氷の柱が瞬時に粉々になり、崩れ落ちた。
俺も含めて男たちは全員、中身ごと死んだと思った。
「あ、ああ、ああああああ……」
粉々になった氷の中から男が姿を現した。
自分が直面した状況に放心しているようで、言葉にならない音を口から漏らしていた。
生きてて良かった。本人が一番そう思っているだろうけど、俺も同じくらい思っているはずだ。
「まあ、これに懲りたら調子に乗って知らない相手にちょっかい出さないことだな」
内心ドキドキしながらも、表面的には平静を装って男たちに声をかける。
『さすが悠太ね!』
『普段からの修行の成果ですね』
何がさすがだ。修行とかそんなことは言わなくてよろしい。
表情筋は鍛えてなんぼだ。
男たちは声も出せずに頷きまくっている。
「ほら、もう行っていいから気をつけて帰れよ」
若干物足りなさそうなメディーをスルーしつつ、男たちを見逃すことにする。
「「「ひいいいいいっ」」」
謎の悲鳴を上げながら走り去ろうとしている男たち。
考えてみればかわいそうなものだ。
綺麗なお姉さんと仲良くするために絡んだら、氷漬けにされて死に直面するとか。しかもこんな田舎の街で。始まりの村の中でラスボスが出てきたようなもんか。
もうこんな危険に出会うことは無いだろう。大人しく生きてくれ。
そんなことを考えた俺だった。
あれ、日付が変わってる……
昨日のうちに上げたかったのですが、更新しておきます。




