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1章 -41- 疼いちゃったなら仕方ない


「ところであなた、なんでわたしの家に炎弾なんてぶちこんだのよ」

 ひとまず街に戻ることにした俺たち。


 俺が一度休憩したいと言い出したからだ。

 森の中を歩きながら、各自簡単に自己紹介をした。

 南雲はヴィレンターナの正体に驚いたり、メディーさんが仲間?になったことを不信がっていたが、今は俺の服を掴んだまま森の中を一緒に歩いている。正直混乱と戦闘の恐怖が抜けきっていない感じだが、ひとまず仕方ない。


 ちなみにメディーさんというのはメディアさんのこと。なんとなく不吉な名前をそのまま呼びたくないと思い、愛称で呼ぶことにしたのだ。ヴィレンターナもヴィーと呼ぶことにした。

 森の中を歩きながらメディーさんが聞いたのがさっきの言葉だった。


「ん? ユータを探しておったんじゃが、あの小屋の中にいるのが見えたからの。開けて見ようと思っての」

「あれは開けるって言わないわ。結界がなければ吹き飛んでいたわよ」

 イライラした感じのメディーさん。それに対してヴィーはのんきな対応だ。ちょっと温度差が怖い。

「吹き飛んでもお主らなら大丈夫だったじゃろ?」

「………………」

 無言でギロリと睨むメディーさん。

「うぐ……。まあ、こうしてみんな仲良くなれたんじゃ。良しとしようではないか」

 ギロリ。

「………………」

 物理攻撃には非常に強いドラゴンも、こういう視線には弱いようだ。

 自分の視線を泳がせ、完全に知らんぷりをしている。

「いやーそれにしても、人の姿で森を歩くのも久しぶりじゃ。こうして歩くと目線の高さも違うし、面白いのう」

 必要以上に明るくそんな事を良いながら、距離をとるように少し先を歩き始めた。

 実際、面白いのは本当のようで森のあちこちに視線を向けている。

 木々になる実や花、草木につく虫などに近づいてはじっくり観察している。

 ちょこちょこと歩く見た目もあって、本当に子供のようだ。


 メディーさんもそれ以上の追及はしなかったので、ひとまず落ち着いた。

 落ち着いたのだが、

「メディーさん、近すぎないすか?」

 俺のすぐ右隣を歩くメディーさん。間には人一人分も間がない。

 まだ味方認定しきれていない俺としては安心できない距離感だ。

 俺の腰のあたりの服を掴んで左後ろを歩いている南雲も、メディーさんから距離をとるように俺を挟んで対角に隠れている。

「そうかしら?」

 メディーさんはそんなこと思ってもいなかったと言わんばかりの返答だ。

「なっ!?」

 それどころか、俺の右腕を取ってその胸元に抱き寄せた。非常に深い谷間に吸い込まれるように、俺の腕が沈んでいく。めちゃ柔らかい……

「わたしとしては、もっと近づいても良いと思っているのだけど? ダメかしら?」

 やっぱり凄く良い匂いもする。この人の色気がやばすぎ。

 なによりとっても柔らかい。


「ダメジャナイデースッ!」

 思わず鼻の下が伸びてしまった。というか伸びざるを得ない。

「…………」

 無言のままゲシッと左足が蹴られた。

「……やっぱり少し距離をとって頂けると嬉しいです」

「残念ねぇ」

 そういってメディーさんは離れてくれた。俺も残念です。

 一瞬そう思ってしまった瞬間、追い討ちがかけられた。

「でも、近づきたいと思ったらいつでも言って。好きなだけ近づいてあげるから」

 ウインクひとつ、バシッと決められてしまった。

 エロい! 艶い! 色っぽい!

 これはもう、夜にこっそりお近づきになりたいな。

「……………………」

 ゲシゲシと左足が蹴られる。同じ場所ばかり蹴られると痛いです。


「ええと、メディーさんはなんでそんなに俺とお近づきになりたいので?」

 思わず聞いてしまった。どうも精霊の力うんぬんだけではない気がする。

「呼び捨てで良いわ。敬語もやめてちょうだいな。……そうね、なんでと聞かれると困るけど。あの子が襲って来たとき、助けてもらったじゃない?」

 ヴィーの方を見ながら話をする。

 先ほどのヴィー戦の折、上空でヴィーの尾の一撃を防いだことだろう。

「ああ、あれ……」

 あれはギリギリだった。間に合ってよかった。こんな美人がボロ雑巾みたいになるところは見たくない。

「―――500年ぶりに子宮が疼いちゃったのよねぇ」

「「ぶっ」」

 俺と南雲が同時に噴出した。

 このお姉さん今なんて言った?


「あ、でも安心してほしいわ。500年ものと言っても、肉体は二十歳はたちの状態を維持しているから、外も中も新鮮よ」 

 外と中とはどこのことなんだろうなぁ???

 というか、メディーさん二十歳でこんなにエロかったのか。

 こんな20歳見たことないな。

「あなたに抱きとめられた時、思わず熱くなっちゃったのよね」

 自分の頬に片手を沿えうっとりと話をするメディー。

「だって、わたしを助けられる男なんてそうそういないわ。この子になら抱かれても良いかしらって」

 この人、戦闘中に何考えてたんだよ!

 というか、抱くって……イケナイコトを考えてしまい、思わず視線がメディーの身体に向いてしまった。

「あら、そんなに見られると恥ずかしいわね。でも、今すぐ見たいと言うならここで脱いでもかまわないわよ」

 思わず向けてしまった俺の視線を、むしろ嬉しそうに受け止めてそんな事を言ってくる。


 これはヤバイ……

 いかんいかん! 色気で落として隙を見せた瞬間何かされるのかもしれない。

 とりあえず同行することにはなったものの、どう見ても危険極まりないこんなお姉さんを信用してはいけないのだ。

 働け俺の免疫力!

 もしこの世界にスキルとかがあるのなら、エロ耐性とかのスキルが欲しい。マジで。


「それに、小屋を護ってくれたでしょう」

「ん?」

 先ほどまでの色っぽい視線ではなく、割と真面目な視線を送られた。

「ああ。なんか大事なものっぽかったから」

 逃げようと思えば逃げられるはずなのに戦闘を続けていたので何かあると思っていたのだ。

 特にヴィーが炎弾を小屋へ向かって放ったときのメディーの焦り様は何かあるのだと思った。

 あの焦り方には切実なものを感じたので、避けるのではなく、全力で防ぐ選択肢を取ったのだ。その後も逃げるのをやめて闘うことにしたのもこれが理由だ。

「ええ。わたしの宝物なの」

 メディーはそう言いながら愛おしそうな表情をした。会ってから今まで見たことの無い表情だった。

 どうやらメディーにとって本当に大切なものだったらしい。

 多くは語らなかったが、昔から住んでいるもので、彼女にとって思い入れの強いものだったそうだ。

 命に代える程とまではいかないものの、大事な思い出・宝物だったらしい。


「そういうところに気がついてくれるところも、悪くないわよ」

 うふふ。と笑うメディー。

 その笑顔はいつもの怪しいものではなく、素の笑顔のような気がした。

 まあ、他人が大切にしているものが壊れるのを見ているのは気分の良いものではないだろう。

 護れるなら護ってあげる。それくらいはしてもいいはずだ。

 なんと言うか、人としてそのあたりは曲げたくない自分がいるのだ。

 それに、感謝されることは決して悪いことではない。情けは人のためならず。めぐりめぐって己のためだ。

 今後もそこは変えずに生きたいと思う。

「まあ、護れるとは思わなかったけどな」

 できることはしていっても良いだろう。


 それに、先ほどのメディーの表情を見たら、少しは信用しても良いのでは?と思えた。

 こんな美人に気に入ってもらったのだ。悪いことはない。

 名前も見た目も完全に悪役だが、思い出を大事にしていたりするし、完全に悪い人ではないのだろう。

 不信が少し解け、わずかに気が楽になったと思いつつ、前途多難なこれからに思いを馳せるのだった。


仕事帰りにコンビニで寝落ちしてました。

遅くなりましたが本日分の更新です。

こんな素人小説ですが、読んで頂いて嬉しいです。

今後とも宜しくお願い致します。

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