1章 -3- 反撃
森の中で男たちと、連行される南雲を見つけた。
幸い、男たちはさほど進んではいなかった。
俺が復帰するまでの時間はそれほど長くなかったようだ。
俺は迷わず突っ込んでいく。
走っているので足音はごまかせない。
当然、男たちが振り返った。
こっから先は度胸と勢いだ。
敵が身構えるのも気にせず、走った勢いのまま大きくジャンプする。
勢いそのままで両足をそろえて前に出す。
ドロップキックだ。
顔面を狙ったものの、素人のジャンプだとそこまで足が上がらない。
中二病男子が山の中で行っていた修行でも、大人の男の顔面までは至らなかった。
男たちのリーダー的な男の胸へ、着地する勢いで突っ込んだ。
自爆覚悟の特攻に、男が受け止めきれずに倒れ込む。
俺はかろうじて地面に着地し、すかさず手に持った土を投げつけた。
残る二人の顔面へ向かって投げた土は目つぶしに成功。
「南雲! 行くぞ!」
南雲の手をつかみ、引っ張って走り出す。
野郎どもはまだ混乱している。今なら距離は取れるだろう。
「古川!? なんで来たのよ!?」
「うっせぇ! とにかく走れ!」
必死で走っていたが、やはりこちらは女子を連れている。
俺自身も追いかけるのに全力疾走をしていたので限界だ。
すぐに失速してしまった。
「”$%”#$””#$%」
ニヤニヤしながら男たちが追い付いてきた。
相変わらず何言っているか不明だが、考えていることはわかる気がして腹が立つ。
逃げられると思うなよ。とか考えているに違いない。
「くそっ。こうなったらやってやる!」
ポケットからスマホを取り出し操作する。
「南雲! お前は先に行け!」
「え!?」
追いつく寸前だった男たちの前で振り返り、スマホを向ける。
起動したのはカメラアプリ。フラッシュをオンにして迷わずシャッターを押した。
カシャー
謎の機械音と共に、フラッシュがきらめく。
「「「#%$%ッ!!??」」」
森の中が薄暗かったこともあり、フラッシュは思いのほか明るかった。
追いつく直前だった男たちはその光をモロに凝視したようだ。
驚き、動きを止めている。
こっから先は、俺の演技力次第だな。
余裕の態度を取り、ニヤリと笑った。
あの白い空間の女神もどきは言っていた。こっちの世界には魔法があると。
そして、男たちの格好を見る限り、電子機器の類は持っていなさそうだった。つまりこの世界の科学技術は進歩していないとみていいだろう。
ならばスマホの光を見て不可思議な力か何かと勘違いして警戒くらいはするはずだ。
マンガでもスマホだけで転生後の世界を謳歌するやつがいるくらいだ。
いけるだろうと踏んだのだ。
フラッシュに対するリアクションを見て、オレは確信した。
ここぞとばかりに、着信音のメニューを開く。
ネタで拾っていた不協和音のおどろおどろしい音を再生した。
なんでおれこんなの入れたんだろう?
「%&#$#”!?」
男たちは警戒したように距離を取る。
俺はニヤニヤしながら距離を詰める。
目標まであと数歩。あと数歩下がってくれたら俺の勝機が見えてくる。
緊張しながら足を前に進めるが、表情はあくまで余裕を貫く。
心配するまでもなく、男たちは下がってくれた。
スマホのライトをオンにする。かなり明るいライトが前方を照らした。
アウトドア、というか中二病をこじらせて山籠もりとかしていた俺は、スマホの仕様も変わった基準で選んでいた。
ライトの光度が高いのもポイントだった。
警戒して身構える男たち。
スマホを相手に向けたまま、自分の前で円を描くように腕を動かす。
気分は魔法陣を描く感じだ。
男たちの視線は光を発するなぞの物体に集まっている。
ここだ!
俺はスマホを真上に向かって放り投げた。
ポーズは魔法を発動する決めポーズを意識。
男たちの視線は警戒したままスマホを追いかけ上を向く。成功だ。
その隙に足元にあった大きめの石をつかみ、迷いなく男へ投げつける。
さっき前に出て距離を詰めたのは、この石を掴める距離まで近づくためだった。
拳大の石は、ぶれることなく一人の男へ向かっていき、視線とともに上がっていた顎へ直撃する。
うん。修行のたまものだ。
中学時代、突然の戦闘に備え、いかなるものも武器とできるよう山の中で修行していたのだ。中二病万歳!
「%#$ッ!?」
聞き取れない声を漏らしながら、石が直撃した男が崩れ落ちる。
ちなみに、当たった石が他の男たちから見えない角度で転がっていくように計算して投げたので、他の男たちにはその男が急に倒れたように見えているはずだ。
というか、そうであって欲しい。
「%&#%”$””!!」
倒れた男を見て、慌てて何かをわめている。
状況を理解できず、混乱しているようだ。
これは重畳。
視線が倒れた男に向かっているうちに、スマホが落ちてきた。
なるべく真上に行くように投げていたので、その場でキャッチする。
すかさずスマホを操作し、別の音を鳴らせる。
今度は警告音のブザーだ。これもネタでダウンロードしていたものだ。
なんで俺のスマホってこんなのが沢山入っているんだろう?
まあ、結果オーライだ。過去の俺、グッジョブ!
だが、ここから先がない。
もう足元に程よいサイズの石はない。
武器にできそうなものも落ちてはないし、持ってもいない。
次のはったりで逃げてくれればいいのだが……
表面上の余裕は消さず、もう一度スマホをもって魔法陣を描く動きをする。
そうしながら男たちへ声をかける。
「逃げれば追わない。しかし、逃げないなら次はオマエたちだ」
なるべく低い声で重々しく。余裕の態度で堂々と。
言葉が通じないので伝わることはないが、未知の言語で何か言われるのは不気味だろう。
案の定、男たちには怯えたような表情が見えた。
そして、
「せいっ!」
あえて大きな声を出しながら、再度スマホを天高く放り投げた。
「「%$”$%#”$”!!!!!」」
それを見た男たちは一目散に逃げていったのだった。
「っし! なんとかなった!」
しばらくは短期更新できると思います。
読んで面白ければご感想・ご評価頂けると幸いです。




