1章 -35- 美女とゲーム
「じゃあ、ゲームをしましょう」
「話聞いてました?」
美女はカウンターから立ち上がり、こちらに歩み寄ってきた。
「えっ!?」
背後の南雲が驚いた声を上げた。どうやら偽装を解いたようで、南雲の視線も彼女を捕らえたようだ。
立ち姿もなんともエロい。いわゆるボンキュッボンだ。俺と同じくらい、170センチ程の身長に乗せられるだけ乗せましたと言わんばかりの胸の膨らみ。そしてお尻もすごい。
黒紫のタイトドレスのような服を着ているのだが、スタイルが引き立っていて余計に際どい。胸元の開き具合もソウグッド。
「ここから無事に帰ることが出来たならあなたの勝ち。帰れなかったらわたしの勝ち」
俺の真正面に立った女は、俺のあごに指を這わせながらそんなことを言ってきた。
なんならこの色気だけで帰れなくなりそうだ。やっべーぜ。
「タイムリミットは?」
「そうね、あまり待つのは好きじゃないけど、あなたも諦めを付けたいでしょう。日暮れまでにしましょう」
まだ日は高いところにある。こちらに時間を与えるのは余裕以外のなにものでもない。
さも勝つことが当然のような物言いだ。これは本気で危ないかもしれない。
「弟子は一人でいいんだよな?」
「ん? そうね。その子も悪くはないけど、帰ってもらってもいいわよ」
狙いは俺だけだったようだ。ひとまず南雲は逃がせそうだ。
「ちょっと!?」
俺たちの会話を聞いて俺の服を掴んだ南雲だったが、
「さようなら」
女が指をパチンと鳴らした瞬間姿を消した。
(なっ!?)
内心めっちゃ驚いたものの、中二病で慣らした俺の表情筋は動じない。
『空間転移のようですね』
『小屋の外にいるから安心しなさい』
精霊たちの声にひとまず落ち着く。
ミズキたちの言葉を証明するように、小屋のドアを外から叩く音が聞こえ始めた。
「古川!? 古川!!」
ドア越しにくぐもった声が聞こえてくる。必死に俺を呼んでいる南雲の声だ。
「大丈夫だ! 殺すって言われてる訳じゃないし、ちょっと待ってろ!」
外まで聞こえるように大きな声で言っておく。
俺の声が聞こえたのか、外は一応静かになった。
「あら、意外とお利口さんね」
俺が女のセリフから読み取っていたことに関してお褒め頂いたようだ。
「こういう展開はよく知ってるんで」
マンガで。
ただし、言ってないからといってもお姉さんの気が変わらない可能性はないが。
それに弟子になるっていう状況が、どういう状況かは不明だ。奴隷のように扱われるのか、弟子と称した人体実験の材料にされるのか。まあ、こんな美女の奴隷なら悪くは無いのかも知れないけど、俺は自由を愛する男なのだ。
とりあえず南雲を安心させておけば騒ぎはしないだろうし、騒がなければこの美女の手を煩わせることも無い。
それにこっちも冷静に考えられる。
「で? どうして俺なんだ?」
女が興味を持っているのは俺という事は分かったが、それが何故かは分からない。
理由が分かれば展開を変えるヒントがあるかもしれない。だから聞く。
「そうね。何かを感じるのよね。魔法の素質かしら。後はあなたの見た目かしらね」
意外な回答だった。特に最後の部分。
「見た目を褒められたことは無いんだけど」
ぶっちゃけ今までモテたことは無い。彼女いない暦イコール年齢の俺だ。
そもそも顔も普通だし、身長が高いわけでもない。
「あらそう? 地味で大人しそうで、童貞っぽい少年って、おいしそうよ」
ぺろりと唇をなめる女。
やばっ、やっぱり帰りたくなくなってきた!
おいしそうって何!?
もう俺の負けで良いんじゃないかな?
「それに、魔法の素質ってところ、否定しないのね。ますます気になるわ」
そこは否定しないのではなく、否定できないのだが。魔法の素質なんて確認したことないし。あるのか?
女の指が俺の胸を撫でていく。
本気で帰りたくなくなってくる。てか、これはさすがに何かされてるでしょ!?
『確かに精神への干渉を感じますね』
『ミリィが対応してくれてるわよ』
ミリィとは精霊さんの一柱だ。精神属性の精霊だったらしい。そういえば俺の中の精霊さんたち、話はしたことがあるけどどんな力を持ってるかは把握できてないな。多すぎて。
まあ、沢山いるので、誰かが何かしらは対応できそうだ。
ホント、俺の中にはたくさんの精霊さんがいて幸せだなぁ!
「まあ、素質が有るか無いかは分かんないけど、帰れるように努力はするよ」
「あら。うふふふ」
俺の返しに、女の笑みが深まった。俺が精神攻撃に対抗してることに気付いたようだ。深まる笑みが非常に怖い。
「じゃあ、ほどほどに頑張ってごらんなさ…………っ!?」
『悠太、外にヤバイの来るよ!』
女が言葉を止めたのと、ミズキが警告を入れたのは同時だった。
次の瞬間、バリィィィィンとガラスの砕けるような、でも比にならない轟音が響き渡る。
同時に爆音が聞こえ、小屋自体が振動で揺れた。南雲の悲鳴も混じっている。
「南雲!?」
慌ててドアに飛びつくが、ドアは開かない。
さっきのゲームのための結界だろう。
「ちっ。なんなのかしら! どきなさい!」
ドアの前に留まる俺を押しのけるように女がドアを開けた。
寝落ちそうです。
今晩の更新はここまでに。。。
今後とも宜しくお願い致します。




