1章 -33- 森の老婆の薬屋
ガルドさんに鼻で笑われた。
そして哀れみの目で見られてしまった。
が、俺がやることはもう決まっている。
今俺たちは城壁の外の民家に向かって、森の中を歩いていた。
予想通り、城門を通る際に身分証の提示を要求され、必死の抵抗むなしく全て見られてしまった。
警備隊の人たちに散々笑われたのは言うまでもない。
背後で南雲が笑っていたのも見過ごさない。
そんな恥をさらしてまでなぜ森の中を歩いているのかというと、ゴブリンの情報を得るためだ。
この森の先には、まだ避難していない婆さんがいるらしく、その人ならゴブリンの目撃情報もあるだろうと教えてもらったのだ。
その人は薬屋で良い薬を作ってくれると評判なのだが、歳のせいもあってかかなり頑固なのだとか。当然ガルドさんたちも心配して避難を呼びかけに行ったのだが、追い返されてしまったらしい。
まあ、昔から魔物が出ても避難をせず、でも何故かいつも無事なので、魔物避けの薬でも作って撒いているのではと考えられているそうだ。
とりあえずその婆さんから情報を貰おう。
森の中を歩き続けていると、背後から聞かれた。
「ねえ、ホントにやるの?」
南雲は何となく不安そうだ。普段気が強いくせに、こういう異世界な事態になると一気に気弱になるようだ。
「大丈夫大丈夫。なんとかなるって」
自分で言って気付いたが、これってなんとかならない時のフラグじゃね?
まあ、言ってしまったものは仕方ない。やることをやるだけだ。
そうこう言っているうちに目的地に着いたようだ。
目の前には木造の小屋が建っている。
良く言えばクラシック、普通に言えばボロ小屋だ。
本当に人が住んでいるのか疑わしいレベルのボロさで、壁の板はところどころ割れているし、窓ガラスにもヒビが入っている。断熱性は皆無なんじゃないだろうか。
『偽装がかかってるみたいね』
ミズキから指摘があったと同時に、俺の視界が不意に揺れた。
次の瞬間には目の前に同じサイズだがピカピカの小屋があった。
(どゆこと?)
脳内に語りかける。
『これが本来の姿です。先ほどまで見えていたのは、魔法による偽装したものですね』
カグラが解説してくれた。風の流れや光のゆがみなどをそれぞれの精霊が感知して違和感を把握。魔法に聡い精霊が魔法の種類を解析して、対策をしてくれたようだ。精霊さんたち総出のサポートはなんとも頼もしい。
つまり、さっきのボロ小屋はホログラムみたいなものということだ。
隙間風が寒そうな小屋だったが、今見る限り、快適そうな小屋だな。
これは薬屋の婆さんは只者ではなさそうだ。
気を引き締めていくことにする。
「これ、人住んでんの?」
南雲にはまだボロ小屋のように見えるらしい。
『偽装自体を解除しちゃうと、警戒されるでしょ?』
との事だが、ミズキたちのことなので、南雲の手助けはしたくないのだろう。
まあ、それは置いておいて、早速入ることにする。
「こんちゃーす」
ギィィィと音を鳴らしながらドアを開けた。
中は明かりをつけておらず、小さな窓から入る光だけで薄暗い。ちょっとかび臭いような匂いも感じつつ、音のしない室内は不気味な雰囲気をかもし出している。
「いらっしゃい」
部屋の奥のカウンターから声がした。
そこに人影が座っている。
「ここにいるのは婆さんだって聞いてたんだけどな。お姉さん何者?」
薄暗くて分かりにくいが、どう見ても20歳前後のお姉さんだった。
座っていてもわかるスタイル抜群のボディに妖艶な笑みを作っている整った顔。めっちゃ美人。色気がすごい。大人の色気。南雲も十分色気はあると思うのだが、これはもう別種ですな。
しかし、美人ゆえにその妖艶な表情には危うさも覚える。どう見てもこれ悪役とかじゃないだろうか。
まだまだ続きます。
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