1章 -32- BONKURAは辞められない……
「BONKURA……」
「いい年して仕事もせずに野に山に遊びに行くガキみたいなやつを、それ以外のなんて表現するんだ?」
「おっおー」
そんな話し聞いてない。
「じゃあギルドは? ホントに無いの!?」
「ギルド? なんだそりゃ」
「いや、冒険者とか、旅人が参加する組織みたいなやつ」
「なんだそりゃ。そんなもんあるわけないだろ」
マジで?
え? じゃあ俺、なんになったの?
ショォォォォッッッック!
この世界にはギルドも冒険者もなかった。
アンビリーバボー!
信じらーれなーい!
こんなことがあっていいのか!?
この世界での職業観は元の世界と近いみたいだ。つまり、日本社会で自分冒険者です!と言うのと変わらない。
酷い恥さらしだ!
元の世界にも冒険家という人たちはいたが、彼らは写真取ったり発掘したりいろいろ実益を出している。
ここでいう冒険者って言うのはただのごっこ遊びみたいな認識だ。
「俺、今すぐ職業変えてくる!」
ばっと振り返り、役所に向かおうとしたところをガルドさんの声が追いかけてきた。
「職業変更は、3年毎しかできないぞ……」
短期での離職防止のため、例外を認めず3年更新なのだとか。一応職業を変更しなくても別の仕事をすることは可能なそうだが、その職業ごとの特典などを利用できないそうだ。
なにより、身分証の表示は変えられないという事実。
「3、年……俺は3年も恥をさらした身分証を見せ続けなければならないのか……」
がっくりと肩を落とす俺。
「ま、まあ身分証なんてそうそう見せることは無いんだ。そんなに気を落とすなよ」
ガルドさんが慰めようとしてくれている。しかしそんなことでは収まらないのだ。
「街を出るとき、ガルドさんたちに見せるじゃないですか」
「うっ。まあ、そうだな」
「街を出入りするたびに、俺!冒険者です!ボンクラです!って宣言しないといけないんですよね……」
「………………」
ガルドさんも口をつぐんでしまった。
「ぷっ……」
思わず耐え切れずに噴出したという感じの笑い声が聞こえた。
見ると南雲が腹を抱えて震えている。
一応笑い声は上げていないが、小刻みに震えているあたり、笑いをこらえきれていない。
「…………後でオシオキな」
キッと南雲を睨んで、ガルドさんに見えないように手をわきわきさせる。
それに気付いた南雲が、腹を抱えていた腕を少し上げ胸元を隠した。若干頬を染め、困った目でこちらを見ている。
俺の意図に気付いたようだ。
気の強そうな南雲サンが頬を染めて恥ずかしそうにする様子は実に良い。
うん。可愛いから許して……許して……ゆる……むしろもっとオシオキしたくなってきた。
それは置いておいて、ちょっと気になったことを聞いてみる。
俺の知る冒険者の仕事とは、魔物の討伐などを依頼されたり、不足した物資や資源を集めに行ったりしているイメージだった。
ギルドがないこの世界ではその辺りどうなのだろうか。
「魔物が出たときとかはどうするんだ?」
「そりゃ、俺たち城壁警備隊の仕事だよ」
さも当たり前のように答えられた。まあ、この世界では当たり前なのだから仕方ない。
ガルドさんいわく、街に近づく魔物の駆除は城壁警備隊の仕事らしい。
普段は城壁の付近を巡回したり門番をしたりしているが、いざ危険が近づいてきたり、害獣が出たりすると討伐部隊を編成し駆除、もしくは撃退に出るらしい。
そのため、普段は割りとのんびりした仕事だが給料がいい。
討伐は危険が伴うため、民間組織が動くことはまず無いとのこと。
基本的には城壁警備隊により危険は駆逐されるらしい。
冒険者の出番は無かった……
ただ、問題が無いでもない。
街から外れた村や農家などは、危険が迫ると逃げるしかないのだとか。
一応緊急時にはここの城壁警備隊が救出に向かうのだそうだが、時間がかかってしまうため、そうなってしまうのだ。それでも現代において魔物の出現はさほど多くないので、それで回っているとのこと。
やっぱり冒険者の出番は無かった……
どうしても城壁警備隊で対応できない凶悪な魔物が出た場合は、ガーディアンが出るとのこと。
城壁警備隊は身体能力の高いものだけが選抜してなれるエリート職でもあるらしいが、それよりも更に強力な者は、王様や貴族を守るガーディアンに入隊する。つまりこちらは更に厳選された強者だけがなれるのだ。
ガーディアンは身体能力だけでなく、マナーや知識も重視されるため、真のエリートと言えるそうだ。
城壁警備隊だけで対応できないような強力な魔物が出た際は、ガーディアンも参戦し、専用特殊兵器を使用しながら討伐するとのこと。
ちなみに、ガーディアンを動かせない貧乏貴族たちや、ちょっと金のある一般庶民が遠出をする際にはその辺の荒れくれ者を雇うらしい。基本的にガラも悪く対応も悪いヤツらだが、それを食い扶持にしている以上きちんと護りはしてくれるらしい。
どこまでも冒険者の出番は無かった……
……と、思って肩を落としていたのだが、続くガルドさんの言葉に俺はひらめいた。
「あ、でもここしばらくはゴブリンの群れが近くを俳諧しててな、城壁の外の住民は壁内に避難してきてるんだ。こんなに長いこと避難が続くことも珍しいんだけどな」
ゴブリン!
そうだった。この街に来た理由はゴブリンの情報集めだ。城壁警備隊では討伐できなくて困ってるらしいし、こいつらを討伐して、俺の名を上げよう!
そして、ギルドが無いなら作ればいい!
そうだそうだ! せっかくの異世界ライフ! 俺のオタク知識を総動員すれば不可能じゃないはずだ!
自分の名を上げながら仲間を集い、ギルドマスターに俺はなる!
Dの血筋の海賊少年だって、最初はただの村人だったのだ。
強い思いは実現する。俺はいろんなマンガから学んだじゃないか!
そう思い立ち、せっかくなのでガルドさんから情報収集した。
ゴブリンたちは城壁の近くをうろうろしているらしく、すでに何件か壁外の農家が襲われているらしい。それに伴い農家はみんな壁内へ非難しているのだとか。
そのため、現在は街中の備蓄と商人たちの持ち込みに頼っているそうだ。まだ問題が大きくなっていないのは、その備蓄量がしっかりしていてまだまだ生活水準を落とさずにいけるかららしい。
リアレドル大森林と言われる巨大な森林の中にあるこのアルシアードは、ゴブリンや魔物による襲撃は時々あることで、そのための対策らしい。
ただ、今回襲撃をしてきているゴブリンは普段と違うのだとかで、街の上層部や城壁警備隊の中では問題意識が高まっているところだったらしい。
本来ゴブリンは1週間もしたら姿を消すのだが、今回はもう3週間も近くにいるそうだ。更に言えば、普段のゴブリンは城壁警備隊などの脅威を見つけると即座に撤退し、そのまましばらく姿を消すのだが、今回のゴブリンは撤退しても再び現れるのだとか。
そのため、普段であれば少人数で撃退をするだけなのだが、今回は討伐を検討しなければならず、しかし数が多い上にすばしっこいゴブリンを討伐するとなるとかなりの人手がいる。ゴブリン程度に城壁の守りを手薄にするわけにもいかず、現在判断に迷っているところだそうだ。
大体の事情は分かってきた。
「なるほどわかった。なら俺がなんとかしてやるよ!」
キリリッ
冒険者の皆さん、BONKURAなのはこの世界だけですから。
BONKURA呼ばわりすることを許してください。




