1章 -2- 盗賊
しかし、言葉は通じなくてもわかることがある。
わかりたくなかった事なのだが、どうやらこいつらは賊らしい。
ニヤニヤと俺たちを舐めるように見てくる。品定めをしているようだ。特に南雲にまとわりつく視線がひどい。
これでヤツ等が善人だったら、「ひとは見た目は0.9割」とか本を出そう。
「な、なによ!」
気の強い南雲でも、この状況では腰が引けている様子。声は張り上げたものの、どもっているぞ。
男たちは3人とも俺より体格がいい。
ごついというわけではないが、そもそも大人である相手は身長も体重も俺より上だ。
高校生と大人の男では、体格差は確実にあるのだ。
「”%#$$&#$」
「#%&$$”&’#」
理解できない言語で何かを話し合っている。
多分、俺たちをどうするかを話し合っているのだろう。
言葉は違っても、その下卑た感じや舌なめずりなどは一緒のようでイヤでも状況を理解させられる。
まずい。
俺一人なら何とか逃げられたとしても、南雲が逃げ切れない。
俺を追う理由はないだろうが、南雲を追う理由は大きいだろう。こういう時美人って損だなと思う。
嫌な未来を想像し、冷や汗が背中を伝う。
南雲を庇うように少し前に出た。
逃げるにしてもどうにかするにしても、大人3人を相手にするのは難しい。
狙われた時点で詰んでいた。
「&%$#」
前に出た俺を見て、先頭の男がニヤリと笑みを深めた。
嫌な予感しかしない。
「ぐっ!?」
いきなり殴られた。
左頬に痛みが走る。
思いっきり殴られ、思わずよろけそうになるが、かろうじて踏みとどまる。
こっちの世界も右利きが多いのかな? とか現実逃避気味に考えながらも体制を立て直す。
「ふ、古川!?」
南雲が慌てて声をかけてくるが、返す余裕がない。
手だけ向けて大丈夫だと主張する。
前を向くと、さっきの男がより楽しそうに笑みを深めている。
くそったれ……
「がっ!?」
左頬を殴られた。
こうなったらこっちから殴りかかってやろうか、とか考えてる内に殴られた。
続けて腹も殴られ、サンドバックにされてしまう。
「うぐっ!?」
最後に足を蹴られて思わず倒れこんでしまった。
痛すぎて抵抗する気にもなれない。
地面に転がると、ようやく攻撃は止まった。
そもそも俺は喧嘩などしたことがない。平和主義者だもの。
異世界にきていきなりのイベントが物理的暴力とか勘弁して欲しい。
慣れない痛みに思考がうまくまとまらない。
倒れこんで動けない。
男たちはそんな俺を見て、南雲の腕をつかんだ。
「や、やだっ」
振り払おうとするも、南雲の抵抗は弱弱しい。
しっかりとつかまれた腕は外れなかった。
「$#%%#&”」
俺に向かって何か捨て台詞を吐かれた気がするが、何を言っているかはわからない。
へっへっへと笑いながら見下され、そのまま足音が遠ざかっていった。
くそう……
どれくらいうずくまっていたのか。
そんなに長くはなかったハズだが長かった気もする。
男たちの足音が消え、痛みが最低限落ち着いたころ、やっと思考が落ち着いてきた。
ちくしょう。
南雲が連れていかれてしまった。
何もできなかった。
あいつは美人だから、絶対良くないことになる。
ああいう男どもは最低だ。
早く助けに行かないと……
痛みの中で思考を働かせる。
南雲は俺をいじめてた女だ。
でも、だからといってこのまま放置なんてする気にはなれない。
でも、俺だけで助けられるのか?
そもそも、勝つどころか戦えるのか?
俺はただの高校生だぞ?
……
…
いや。
ただの高校生か?
神をも打ち倒し、魔王すらも従える。破壊者にして救世主。それが俺だろ?
そう考えると俺の中で何かが沸き立つ感じがした。
というか、さっきから沸き立っていたのかもしれないが今気が付いた。
たかが三下に負けるのか? いや、さっき負けたんだけど。それは置いておく。
とにかく動くしかない。
俺は痛みをひとまず忘れてその場で立ち上がった。
最悪の場合の奥の手を思いついた。
それは最後の手段として、隠しておくことにする。
まずは何よりも急ぐことが大事だ。
あの男どもがどこで南雲に手を出すかわからない。
もうすでに始めようとしているかもしれない。
とにかく急ぐべきだ。
両手に土を握りしめ、男たちが向かった方へ走る。
まだしばらくは続きます。
まったりお付き合い頂けると幸いです。
……この辺はまだ特色薄い気がします。
もう少しすると色々出てくるので長い目で見守って頂けると幸いです。