1章 -26- 人間の街、アルシアード
しばらくの休憩の後、勇者ハリーたちの案内で森の中を進み始めた。
人間の街の入り口まで案内してくれるそうだ。
最初はこいつらに案内を任せて大丈夫だろうかと本気で心配したが、戦闘能力はともかく森の歩き方は確かなもので、すぐに安心して案内を任せた。
「それにしてもナグモさんは美しい!」
歩きながらハリーがそんな事を言い出した。
「はあ、どうも」
熱く(暑く)語るハリーに対し、酷くドライな南雲サン。
もう少し愛想笑いとか、サービス精神は無いのだろうか。
そこでふと思い出す。
「あれ? お前このあいだ、スタイル褒めたら喜んでなかったか?」
ハリーが南雲の美しさについてあーだこーだ言っているので小声で話しかけた。
「顔を褒められるよりスタイルを褒められたほうが嬉しいのか?」
確か夜の話だが、あまりの幸せに正直な感想を伝えたのだが、嬉しそうにしていた覚えがある。
「バッ! ……違うわよバカ」
2回もバカと言われた。1回目ははっきり発音しなかったが間違いなくバカの意だ。
俺はそんなにバカではないはずだ!
やはり昼の南雲サンは風当たりが強いのだろう。
何が違ったのか。お怒り気味なので聞くに聞けない。
「その凛々しい目じり! すっきりとした鼻立ち! ……」
まだハリーの演説は続いていた。
確かにきつめの目つきだが綺麗に整っている。凛々しいと言えばそうか。
まあ、グラビアアイドルも泣いて逃げ出す南雲サンだ。
誰もが認める校内一の美少女。というか校外に出てもかなり良い部類だ。スタイルだって最高。最近気付いたが、胸だけじゃなくて尻も良い。
そんな南雲と同行できているのは幸せなのだろう。
「……ところで君たちは付き合っているのかい?」
ハリーが演説の途中にふと話しを止め、聞いてきた。
「いや、そういうんじゃないよ」
夜に抱きしめ合う程度の関係だ。
「別に……」
南雲も適当に返している。
そう答えると、何故かハリーが嬉しそうな顔をした。
「なら僕と付き合わないか!」
突然南雲の手を取り、すっ飛んだことを言い出した。
いきなりだな!
というか、すげえなその行動力。俺も見習うべきなのか。
それにしてもすっ飛んだ行動だが、イケメンがやると絵になっている。
キラキラした背景が浮かびそうな爽やかフェイスで、にこやかに南雲を見つめている。
ギャルはイケメンに弱いイメージがあるし、これはどうなのだ?
「死んでもイヤです」
決まったぁぁぁ! 強烈なカウンターだぁぁぁ!
「………………」
ハリーは手を振りほどかれたまま、呆然と固まっている。また白目むいているし。
こいつ、メンタル激弱だな。
「なんだよハリー。美人ならそこにもいるだろ」
意識が離脱したままのハリーの肩を叩きながら言った。
「あら、私たちのこと?」
「ふふふ、嬉しいこと言うわね」
実際二人も美人さんだ。
南雲とは違った種類の綺麗さを持っている。
それぞれ優しげだったり、気の強そうだったりあるがスタイルも良いし、正直こんなお姉さんたちに甘やかされたい。
そんな事を考えていると、南雲に睨まれた。
「…………」
どの部分に怒っているのだろう。
しかしハリーは何で彼女たちと付き合わないのだろう。
「でもそれは願い下げね」
「そうそう」
答えは彼女たちから返ってきた。
どうやら恋人としてハリーと付き合うことは無いそうだ。
しばらくして意識の戻ってきたハリーにも聞いてみたが、ハリーも彼女たちを恋愛対象として見たことは無いそうだ。
しかし家族というか仲間というか、そういう信頼関係はしっかりしている。
不思議な3人組だ。
仲は良いけど、おバカだったりお互いの残念なところを知っているからそれ以上にはならないのだろう。
そんなこんなで、ついに人間の街の入り口に到着する。
街は魔物の侵入を防ぐためか、立派な城壁に覆われていた。
城壁の一部に、大きく“アルシアード”と書かれている。この街の名前らしい。
ハリーたち曰く、田舎の街ではあるがそこそこ賑わってはいるそうだ。
入り口には大きな扉があり、兵隊さんが数人立って守られている。
街の出入りはしっかりと管理しているようだ。
出入りする人たちは、身分証のようなものを見せ、持ち物検査をされつつ門をくぐっていく。
多く並んでいるのは商人だ。
馬車ごと並んでいたりするので、順番待ちの列が長くなっている。
俺たちはその列の最後尾に並んだ。
門を遠めに見ながら、ハリーがこっそりと話しかけてきた。
「街に入る前に言っておくことがある」
真面目な顔だ。
イケメンがその顔でその服装で話していると本物の勇者のようだ。
あ、本当に勇者だった。
「実は、この街は今、侵略を受けている」
「侵略?」
勇者いわく、ここ最近街の雰囲気が変わってきたそうだ。
急に街の住民の考え方が変わったり、変な銅像が立てられたり。
直接的な影響は出ていないが、何かしらの下準備ではないか。
ハリーはそう考えていた。
「君ならば問題ないかと思うが……」
状況的にみて、何かしらの精神攻撃を仕掛けられているのかも知れないとのこと。
幸いハリーたちは魔法抵抗力もあり、その影響を受けずに済んでいるそうだ。
しかし、どこから、誰から攻撃を受けているのかも分からず、手立てがないとのこと。
だから今は、今までどおりの生活をしながら、街の中の違和感を調べているそうだ。
「こんな街に案内することになりすまないと思うよ」
真面目な顔で謝ってきた。
「ま、大丈夫だろう」
俺は魔法抵抗力も高めのようだ。
少なくともハリーたちよりは抵抗力は高いと思うので、問題ないだろう。
南雲のことが気になるが、いざとなれば俺の中の精霊に対応できるのがいるだろう。
「しかし精神攻撃とはねちこいヤツがいたもんだな。そいうやつは結構いるのか?」
「そんなことあってたまるか。精神系の魔法や魔術は希少技能だ。そもそも術式自体、秘匿されている。力の特性上目立ちにくいということは加味しても、実際に使える人はまずいない」
基本的に人間には特性というものがあるらしい。得意な属性だったり、魔力適性だったり。それらはよほどの才能が無い限りは一人当たりひとつかすごくて二つ。
つまり、精神系の力を持つということは、他の属性に劣っている可能性が高い。
精神攻撃を無効化された時点で一気に不利。
そのため、精神系の属性を持っている人は、自身の力を秘匿するものらしい。
「なるほど」
そんな稀有な人が何のために力を使っているのやら。
この勇者を倒すために手を回しているとは思えない。
こんなヤツ殴れば一発だ。
何かしらの目的があって、侵略をしているのだろう。
出来れば関わりたくないが、別段攻撃をしてくるわけでも害があるわけでもないそうで、ひとまずは人間の街というものを体感して見るため、案内されるまま進むことにしたのだった。
鋭意更新して参ります。
一度書いてたものの手直しUPですので、連続更新ではないです。
この辺は元のままのところが多いですが。。。
それでも一応手直しと続きの話、頑張って書いてます。




