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1章 -17- 俺はいつだって前向きさ!


 静かな部屋の中、お互いの呼吸の音だけが聞こえる。

 会話が終わり、部屋のかには静けさが舞い降りていた。

 時折動く南雲の身体に意識が集中してしまう。


 最初、南雲は意地でも床で寝そうだったので妙案だと思ったのだが、なんなんだよ抱き枕の刑って。

 南雲と二人、ベッドの中で俺は早くも後悔していた。

 目の前に美少女がいるのに、なにも出来ない。

 いや、ラブ&ピース! 愛のないエロはダメなのだ。しかし……


「……古川。アンタほんとに、いいヤツだね」

 俺が自身の欲求に苦悩していると、南雲がぼそりと言った。前に回っている俺の手に触れながら。

「別に良いヤツなんかじゃないよ、俺は。お前が寝たあとフルボッコにする予定だ」

 さっきの話を蒸し返してごまかしておく。

 本当に俺は良いヤツなんかじゃない。

 今目の前にある欲望に必死に耐えているところだ。

 言い忘れていたが俺は巨乳好きだ。そして南雲のそれは極めて豊満だった。

 グラビアアイドルが泣いて逃げ出すナイスバディは校内の男子の視線を釘付けにして離さなかった。クラスの男子たちの推定ではFカップ以上。そんな代物が今、俺の腕の中にある。

 抱き枕は失敗だった。添い寝の刑とかにしておけばよかった。


 肺いっぱいに広がる南雲の香り。目の前に見える南雲のうなじ。そして異世界という謎の空間、俺たち二人だけの部屋。異質な雰囲気過ぎて頭が、理性がどうにかなりそうだ。

 役得なんて甘いもんじゃない。これでは生殺しだ。

 マジでヤバイ。


「ふふ、そうなんだ。じゃあ、さっさと寝るわね」

 向こうを向いている南雲の表情は見えないが、笑ったように聞こえた。

 ちょっとは明るさを取り戻してくれて何よりだ。

 しかし今はそれどころじゃない。

 自分の本能を押さえ込むのに必死で南雲の考えてることまで考えが回らない。


「あの、さ……」

 南雲が何かを言いかけてやめた。なんだろう?

 変わりに、俺の腕に触れていた手が俺の手を引いた。

 鎖骨の辺りに固定していた俺の手が引き下ろされる。

「え?」

 そのまま柔らかいふくらみの上で固定された。

 南雲の呼吸に合わせて上下していて、俺の手が動かなくても自然とそれの上で浮き沈みしている。

「古川、やっぱりさ、アタシのこと好きにしていいからね」

 ズッキューーーーーン


 謎の効果音が脳内に響いた気がする。

 今のは、一番最初の「好きにしていいよ」の暗いトーンとは違った。 気がするだけかもしれないが。


 もうこれあれだ。終わった。試合終了。もう、ゴールしてもいいよね。

「あのー。南雲サン?」

 思わずサン付けになってしまった。

「ん?」

「さっきの話は――」

 俺の話聞いてたよね?

 折れそうになる理性を最後の力で保持しようとした。

「感謝の気持ち」

 ちょっと早口で南雲が俺の言葉をさえぎった。

「罪悪感じゃなくて、感謝の気持ちだから」


 え? 何? どゆこと?

 禁断の果実に触れていることで、俺の思考回路はパンク寸前だった。

 罪悪感じゃなくて感謝? ネガティブじゃなくてポジティブな感じ?

 愛は? 愛はそこにあるのか?

「……あ、アンタの話、ちゃんと聞いてたから。大丈夫」

 ラブ&ピーーーーーース!


 こうなったらもう知らん。というか限界。

 楽園の上に浮いている俺の手を、少し動かしてみた。

 確認の意味で、少しだけ沈める。

「いいよ……」

 その甘い声は、俺の意図を読んだように許可を出した。

 その許可を受け、俺の手は思いのままに幸せを享受する。

「んんっ」

 結論から言おう、俺の抱き枕、最高です。




 朝、俺は両手を眺めながら呆然としていた。

 この掌に残る幸せの感触。

 何あの天にも昇れそうな柔らかな感触。

 ぶっちゃけ一睡も出来なかった。


「ん……、朝?」

 横で寝ていた南雲が置きだしてきた。

「お、おう」

「あ、お、おはよ……」

 最初寝ぼけていそうだった南雲だが、俺を見てすぐ覚醒した。

 恥ずかしそうに目をそらしている。なんか可愛い。

 気の強そうなギャルがやるとギャップだよね。

 とか思ってしまう。


「え? あんた、目真っ赤じゃない。寝れなかったの?」

 南雲が気付いて聞いてきた。お前はすっきり寝れましたって感じだなこの野郎。

 人の気も知らないで、横であんなにすやすや寝やがって。

「お前みたいなビッチと違って、俺みたいな童貞には刺激が強すぎたんだよ!」

 思わず童貞宣言してしまった。

「ビッ!? ……あ、アタシだって経験ないわよ!」

「え?」

 南雲は顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいる。

「いやいや、あの余裕の爆睡モードは?」

「それは……、その、なんか安心しちゃって……」

 俺に乳もまれながら?

 それはそれでなんか尊いな。うん。尊い。


 昨晩、俺の理性の崩壊と供に始まったハッピータイムだが、南雲は途中ですぐに寝息を立て始めたのだ。

 しかもこっそり覗き込んだ寝顔は非常に安らかだった。

 まあ、数日間熱帯夜を床で寝ていて疲れが溜まっていたり、悩みで寝付けなかったのであろうが、爆睡だった。

 寝ているところを好き勝手する気になれず、それ以上はお手上げだった。

 だが、今目の前にいる美ギャルのたわわな果実は確かに俺の手の中にあったのだ。

 思わず感触を思い出してしまう。

『スケベ』

『まあ、悠太もお年頃ですから……』

 脳内に響く声。

 今更ながらに思い出す。俺の中にはミズキやカグラたちがいたのだった。

 つまり昨晩の成り行きも……


『まあ、わたしは見守っていくヨ。面白いシ』

 ミザリーも。

 急に恥ずかしくなってきた。

 というか考えると日本にいたころのあれやこれやも全部見られているわけで……

 そこまで考えると、逆に落ち着いた。

(男だから仕方ない)

『さすが悠太ね。どこまでも前向き(バカ)ね』

 ミズキが謎の納得をしている。バカとは失礼な。

 まあ、いいだろう。

 掌に残る幸せの感触に免じて、自分の恥全てを許すことにした。


連続更新しときます。

最近体力の限界を感じます……

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