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3章 -13- ドロシーさんと謎の美女


 奴隷商の店を出た少年は、わたしがついてきているかも確認するそぶりも無く、すたすたと歩いていく。

「面倒ね……」

 少し後ろを振り返った少年は、背後にいたわたしを見るでもなく、より背後を見てそう言った。

「はぁ……行くわよ」

 ため息をつき、歩き出した。

 人気の少ない路地に入り、角を曲がった瞬間、光に包まれた。

「え?」

 光が収まると、そこは路地ではなく、部屋の中だった。

 見知らぬ部屋だ。宿屋のようだった。宿は使ったことがないので確信はないが。

 部屋にはわたしと少年だけがいた。

「ああ、忘れていたわね」

 少年がそう言って再度ため息をつくと、その姿が揺らいだ。

 一瞬後にはえもいえぬ妖艶な美女がそこにいた。

「っ!?」

 展開の速さについていけない。

 立っていたのは路地ではないし、一緒にいたのは少年ではなく美女だった。

「あら、帰っていたのね」

 部屋のドアが開き、別の美女が入ってきた。

 こちらは妖艶と言うより知的で冷めたい美しさをかもし出している。

 しかし、その背には人間にはありえないはずの白翼がついてた。

 純白のそれは羽毛の乱れのひとつもなく、窓から入る光を反射し部屋を明るくしている。

 広げれば大きいだろうその翼は、部屋の中が狭いためか小さく折りたたまれていた。

「!?」

 声を出して驚かなかったのは、メイドとして長く働いていたおかげだろう。

 主人たちの会話の邪魔はしてはいけない。

 何があっても驚いて声を出す事はしてはいけないのだ。

 まあ、余計な一言は漏らすことが多いのだが。


「それは?」

 翼の生えた美女は、わたしを見て、興味なさそうに妖艶な美女へ問いかけた。

「奴隷よ」

 妖艶な美女はなんでもなさそうに答えた。

 まあ、実際にそれ以外のなんでもないのがわたしだ。

 翼の美女はそういう意味で聞いたのではないのだろう。

「そう」

 しかし、元々興味がなかったのか、翼の美女もその回答で納得してしまった。

 そして二人とも適当にくつろぎ始めてしまった。

 わたしはどうすれば良いのだろうか。

 先ほどの魔術、謎の移動、翼の生えた美女、ここは普通ではない。

 大貴族の館とどちらが異常かといえば、こちらだろう。

 なにより、先ほどの会話から、二人がわたしを人間だと思っていないことが感じられた。

 いや、人間だとは認識しているのだろうけど、その辺のゴミ程度にしか興味は無いのだろう。

 きっと、わたしがこの部屋で死んでいても、ゴミを捨てるように掃きだすだけだ。

 そう感じさせられた。

 ここで、わたしは何をすればいいのだろうか。

「…………」

 わたしはしばらく、無言で立ち尽くした。

 しかし何の指示も与えられない。

 むしろここは動くべきだろうか。


 本当に人間は嫌いだ。

 いや、そもそもこの人たちは人間でもないのかもしれない。

 少なくとも片方はどう見てもただの人間ではない。

 どちらにしても、主人という存在は、自分勝手で奴隷に気を使わない。

 この新しい職場も、地獄に違いない。

 地獄の種類が変わっただけだ。


 何もせず、黙って立っているのも居心地が悪くなり、一応メイドとしての仕事を始めた。

 自分に出来るのはそれくらいだ。

 道具を見つけて部屋の掃除をし、片づけなどをしてみた。

 二人の美女は全く興味を示さず、わたしを放置した。もとより一切意識を向けられていない。

 やはり人間は嫌いだ。

 彼女たちが人間かどうかは別として。


「紅茶が欲しいわ」

「…………っ!? かしこまりました」

 しばらくすると不意に声をかけられ驚いたが、翼の美女は一応わたしに言ったらしい。突然のことに自分に当てた言葉だと認識するのに時間がかかった。こちらを見もせずに言われたのも余計に認識を遅らせた。

 慌てて紅茶の用意を開始する。

 宿ではあるが大きめな部屋のようで、隣室に小さなキッチンがついていた。

 装飾などは何もないが、それなりに良い部屋のようだ。

 キッチンを探すと、幸い紅茶の葉はすぐ発見できた。

「失礼致します」

「…………」

 横から紅茶を差し出すも無言でこちらも見もしない。

 わたしは紅茶をテーブルへ置き、静かに身を引いた。

 美女は紅茶を一口すすり、こちらを一瞥した。

 すぐに興味を失ったように視線をそらせ、

「服、どうにかしたら?」

 そう言った。

「それもそうね」

 その言葉に、妖艶な美女が答え、わたしを見た。

 わたしは奴隷商で売られていた時のままの格好だ。

 ボロ布のような服を、着るというより被っている。

 奴隷も、その身分によって扱いが変わる。

 普通奴隷はまだマシな服を着ている。彼らは最低限の人権は確保されているからだ。

 性奴隷は少し卑猥な格好をさせられる。最低限の人権はあるが、奴隷としての目的もあるからだ。

 しかし、犯罪奴隷は人権もなにもない。身分の違いを自覚させるためにもそうなのだとか。

 ただ、商品である以上、悪臭などつかないように定期的に着せ替えられてはいる。

「ああ、確かいいものがあったわね。取ってくるわ」

 そう言って姿を消した。

 文字通りの意味で、だ。

 彼女の足元に魔法陣が現れたと思ったら、一瞬の光の後には姿が消えていた。

 その光景を見ても、翼の美女は特に気に止めるでもなくくつろぎ続けた。

 わたしの驚きのほうが、ここでは異常なのだろう。


 しばらくして美女が戻ってきた。

「これを着なさい」

 そう言って渡されたのは、メイド服だった。

 以前着ていたものとは少しデザインが違う。エプロン部分のフリルは細かい刺繍が入っていて意匠性の高さを感じさせられる。

 しかも、その肌触りが違うことにすぐに気がついた。これはかなり高級なものだ。明らかに生地が良い。

 そして、何故か暖かかった。

 先ほどまで誰かが着ていたかのようだ。

「……はい」

 着なさいとだけ言われたので、どこで着替えれば良いのか分からず、他の部屋に出てもいいものかも分からない。

 仕方ないので、彼女たちの視界に入らないよう部屋の隅で着替えた。

 そのメイド服には何故か、下着も入っていた。しかも着ていた状態のまま綺麗にまるごと剥ぎ取られたかのように、身体の部位に合った位置のままである。どうやったらこうなるのか。

 あの妖艶な美女なら何をしても不思議ではない。

 そして事実を知るのが怖い。

 何も聞けずにそのまま服を着た。

 一応体型の近い相手を選んだのか、服はわたしにちょうどだった。



 しばらく部屋の掃除などしながら作業をしていると、部屋に新たな来場者があった。

「おはよー」


更新だいぶ遅れて申し訳ありません。

ちょっとリアルの仕事が忙しくて放置してました。

書いてはいますので、ボチボチ更新していく所存です。

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