3章 -11- メイドさん
翌朝。
「おはよーす」
「おはよ……」
王都に到着して二日目。
まだ眠たげな南雲を連れた俺が部屋を出ると、すでに他のメンバーは食卓にそろっていた。
今回とった宿は、ちょっといい部屋になっていた。エルシアさんのご要望だ。
宿自体にも食堂はあるのだが、自分たちの部屋にも簡易キッチンがあるものだ。
リビングダイニングのようなメインの部屋に加え、小さなキッチン、ベッドルーム二部屋がついている。
スイートルームみたいな間取りだが、それぞれの部屋は広いわけでもなく、装飾品なども皆無だった。
そこそこ力のある商人とかが使う部屋だと宿の人は言っていたし、場合によってはここで来客の対応をしたりするのだろう。そんな部屋を使おうとする美女3人に護衛にも見えない地味男一人というメンバーに、宿の受付のおばちゃんは不思議そうな顔をしていたのが印象的だ。
しかし、さすがに王都だけあって宿の数も多く価格競合などもあるのか、思っていたより高く無かった。
資金的にはまだ余裕があるので、せっかくの王都ということで贅沢をすることにしたのだ。
「おはよう」
俺たちと一緒に寝たはずのメディーはもうテーブルに座っていた。早いな。
歳をとると朝が早くなると……いや、言うまい。何故か殺気を感じたんだもの。
彼女は魔道具か何かをいじくりながら座っている。
それ、なんか禍々しい魔力を感じるんですが……。
暴発とかしないよね?
「あら、おはよう」
エルシアは優雅に紅茶を飲みながら新聞を読んでいる。
うんうん。以前は人間には興味なかった彼女が、いろんなことに興味を持ってくれるのは良い変化かもしれない。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
「食事になさいますか? コーヒーになさいますか?」
「あ、じゃあ食事で」
「あたし、コーヒー……」
「かしこまりました」
そう言ってメイドさんは丁寧にお辞儀をすると、台所へと消えていった。
ん??
メイドさん???
この宿に部屋付きのメイドさんがいたり、部屋で食事を作ってくれるようなサービスは存在しない。
つまり宿の人ではない。
「え? 今の誰?」
分かる人挙手!
「んー……?」
眠そうな南雲はほっといて、他の二人に確認をとる。
「メイドでしょ?」
「メイドよね」
お姉さま方、さも当然のように……。
確かにメイドですけども!
もう少し説明が欲しいです。
「いや、昨日までいなかったじゃん!」
メイドって自然発生するものなの?
その辺で待ってたらホップするの?
だったら俺メイド探しに行くよ!
たくさん捕まえるよ!
そしてメイドさんでいっぱいの楽園を……
妄想はそれくらいにしておいて。
誰?
何故ここに?
「メイドかどうかというより、あれは誰でなんで俺たちの部屋にいるのかって聞いてんの!」
「さあ?」
「名前は知らないわね」
「………………zzz」
話にならない……。この人たちは……。南雲は寝始めたし……。
なんで名前も知らない人が俺たちの部屋にいるんだよ!
そして何故お姉さま方は平然としているんだよ!
とにかく三人は話にならないので、俺は一人キッチンへ向かった。ドアを開け中を覗く。
「失礼しまーす……」
自分たちの部屋ではあるが、知らない人がいると思うと、何故か恐縮して声が小さくなってしまった。
「…………」
台所に入ってきた俺を見たメイドさんは、無言で頭を下げた。
「ええっと……、初めまして」
「…………」
メイドさんはまたも無言で頭を下げた。その所作は丁寧で、メイド喫茶のコスプレみたいな軽さはなく、彼女が本物のメイドであることを感じさせる。
しかし、一瞬合った目には警戒心を含んでいるようにも感じた。人間に出くわした野生動物のようだ。
どうも本人の意思でここに来たわけではなさそうである。忍び込んでバレタって感じでもないし。
そうなると、俺と一緒に寝ていた南雲以外の2人が怪しい。
先ほどの質問で、エルシアは何も知らないようだった。
メディーは、「名前は知らない」と答えていた。
つまり何故ここにいるのかは知っていたのだろう。
真実はいつも一つ!
犯人はお前だ!メディーさん!
というか、推理するまでも無いよ。
で、犯人は特定したけども、この人一体誰なんだろうか?
なんだか気配を消し気味で、こちらに対してかなりの警戒心を抱いているようだ。
ひとまず話を聞いてみよう。
「あー、あの、お名前は?」
「……ドロシーと申します」
いまだ頭は下げたままだが、控えめな声で答えが返ってきた。
良かった。答えてくれた。
「おお、ドロシーさん!」
とりあえず応えてくれたので俺はちょっと安心した。
てか、そういえば自分がまだ名乗ってなかった。
「初めまして。俺は悠太・古川といいます」
「……宜しくお願い致します」
返事までの間は、なんと答えようか考えているように感じる。かなり警戒されている感じだ。
なんというか、すごい距離を感じる。
「あの、まずは頭を上げてください」
「…………」
俺の言葉に、少しためらうように頭を上げたメイドさん。
そばかす顔の地味めな人だった。
俺も地味ーズなので、この空間としてはバランスが取れいている気がする。
いつものメンバーが豪華すぎるのだ。華がありすぎて、ジミーズである俺の姿が見えなくなりそうだった。
というか、あのメンバーで歩けば、誰も俺に視線を向けないだろう。
そこにきてのジミーズ増員の可能性だ。
ある意味期待の戦力だ。
このままジミーズの戦力拡大でも視野に入れるべきか。
そんな野望は置いておいて、メイドさんことドロシーさんだ。
外見的には俺たちより少し年上のようだ。
華奢というか細すぎるくらいで、若干健康が心配になるレベルだ。
良く見ると血色もあまりよくない。隈もすごいし。
きちんとご飯食べているのだろうか?
「あー、えっと、どうしてここに?」
とにかく事情を聞こう。
「あなたに……あ、いえ、あの女性に連れてこられました」
俺に?なんだろう……気になったがスルーしておく。とりあえず犯人はやはりメディーさんだった。
というか、何事も常に犯人は彼女な気がする。推理の必要もない。
「なるほど。それで、今は何を……」
「は? ……朝食のご用意をしています」
「…………」
今の「は?」はすごい冷たかった……。まあ、確かに? 朝食の用意をしてくれているのは見たら分かりましたよ?
でもそんな冷たい声で「は?」とか言わなくて良いじゃないですか……。
ちょっと聞き方が悪かっただけですよ。
今、というか、連れてこられて何をしているのかを聞きたかったんです。
「あー、その……」
「ちっ。仕事が進まない……」
「ほぁっ!?」
舌打ちされた! しかもボソッとクレームまで言われた!
こ、この人怖ええ。メイドの格好してるし、それっぽい行動しているけど、ぜんぜんそんなタイプじゃねえ!
「あ、つい……。失礼いたしました。どうぞ」
ドロシーさんは一瞬「しまった」という顔をして謝罪をしてきた。
そして、「どうぞ」と言って、軽く両手を広げた。
「あ、いや、いいですけど……どうぞって?」
何?
何をするジェスチャーなのそれ?
「……? 罰をお与えになってください」
「罰?」
なんで?
「失言に対する罰です。殴るなり蹴るなりお好きにどうぞ」
「いやいや!? そんなことで殴ったりするかよ!」
さも当然のことのように言われたんですが!?
この人、今までそんな感じで生きてきてたの!?
この世界のメイドってそんな感じなの!?
なんか色々と衝撃を受けて疲れた俺である。
まあ、ちょっと怖い人だけど、敵対する意思とかはなさそうだ。
ひとまず俺は事情を聞くことにした。
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ここのところ書き込みが足りなくて文章変な気がしますが、頑張って続けてまいります。
今後ともどうぞ宜しくお願い致します。