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3章 -10- 王都突入


 とりあえず王都の中には問題なく入れた。

 メディーさんの目が光ればエルシアさんも当然のように通行許可が出る。

 王都だけあって警備が厳重だったりしないかなとちょっと心配もしたのだが、完全に徒労だった。

 分厚い城壁の分、通行用の廊下も相応の長さである。

 暗い廊下を抜けると、王都に踏み込んだ。


「おおっ!」

「にぎやかね」

 俺は思わず声に出していた。

 南雲もちょっと嬉しそうだ。都会っこだもんね。

 俺たちは周囲を見渡した。

 メディーとエルシアは興味なさそうだ。

「…………」

 いや、意外とエルシアは興味ありかな?

 いつも通りクールな感じだが、ちらちらと周りを見ている。

 かなりの上空からなら王都を見たことがあると言っていたが、実際に街に入るのは初めてなのだろう。

 なんせ森生まれの森育ちだ。初めて都会に出てきた森っ子だよね。


 エルシアさんもきょろきょろしてしまうほど王都はにぎわっていた。

 今までの街の変な賑やかさではない。純粋に都会の活気で盛り上がっている。

 圧倒的な人口が活気を生み、それが更に人を集めるのだろう。

「いやー、やっぱりアルシアードとかエルケンリアードとは違うな!」

 女神像を持ち歩く変な人達や、地味なアイドルに大盛り上がりな謎の熱気とは違うのだ。

「あれはちょっと違う盛り上がりだったわよね……」

 今までの街はアホなヤツ等のせいでヤバイ感じの熱気に溢れていたが、ここにあるのは正常な活気だ。

 大通りには出店が並び、お祭りかと思うような状況である。

 石造りの建物は統一感があって綺麗な町並みを形成していて、ヨーロッパの古い町並みのようだ。

 しかし、テレビで見たヨーロッパの町並みよりも遥かに規模が大きい。

 魔術の効果もあるのか、建物は石造りでも大型化していて、巨大な建物も多かった。それらの大きな建物は王都の中心に行くにつれて多くなっている。

 今いる街の端には低層の建物しかないが、遠くには4、5階建てかという建物も見えている。

 その街の中心部には、大きな岩山が突き出しており、その一番上に、巨大な白亜の城が建っている。まるでネズミの国のお城のような見た目だ。

 そのサイズは遠目に見てもかなりでかい。

 非常にファンタスティックな光景だ。

「やっぱとりあえず観光だな!」



 王都ではいろんなものが売っていた。

 食材も、食器も、家具も、魔道具も、今まで見たことも無いようなものが陳列されている。

 前に聞いていたように、武器も立派なものが多かった。

 洋服に関してもデザインの幅が広く、先日のアルトーラにもお洒落な服が多かったが、王都内のお店は段違いだった。

「なあ南雲、こっちで買った方が良かったんじゃないか?」

 わざわざ王都目前で服を買ったのは失敗だったかもしれない。

 考えたらなんであそこで買ったんだろう。

「いーのよ。ここで買い始めたらキリが無いわよ」

 確かに、ここの品揃えはアルトーラの比ではない。種類も多いし、どうやらサイズなどの種類も多そうだ。

 店頭に同じような服がたくさん並んでいるのを見ると、そういうことだろう。

 店の外からでもちらちら見える値札にはそれなりの価格が書かれている。王都の外で買うより遥かに高い。

 選び始めたら時間的にも予算的にもかなり大変なことになりそうだ。

「それに、あんな格好で王都には入れなかったしね」

 というのは以前のエルフに貰った服のことだ。

 確かに、アルトーラの街ですら若干浮いていたのだ。

 地味過ぎるというか、質素すぎるというか。

 確かに今の俺たちは南雲コーデでそれなりの格好になっていた。

 南雲だけでなく、俺もしっかり着せられている。

 おかげさまで王都のお洒落な雰囲気にも気後れしないで済んでいる。

「なるほどな」

 南雲さんも色々考えてくれていたのだ。

「お? あれは何の店かな?」

 大通りを進みながらいろんな店を見ていると、店の前に何も置いていない建物があった。

「ああ、奴隷商館でしょう」

 メディーがなんのことも無いように答えた。

「奴隷商館……」

 奴隷制度があるのは当然知っている。

 なんせこの間、違法に奴隷にされそうになっていた獣人たちを助けたばかりだ。

 でもまだ正式に奴隷として扱われているのは見たことが無かったので、あまり実感が無かった。やっぱり制度として本当にあるんだな。制度としてはきちんとしたものらしいけど。

 商品が商品だけに、店頭に並べたりはしていないようだ。

 ペットショップみたいに檻を手前に置いたりもしてはいない。

 やはり人間を商品として扱うだけあって周囲への配慮もあるのだろうか。


 奴隷と聞くと、不遇に扱われているように感じるが、実際には妥当な扱いが決められているそうだ。

 そもそも、奴隷になるには条件があり、相応の理由が無ければ奴隷にはならないそうだ。

 先日の“ケモミミ愛好会”のように、違法に狩りをして奴隷にしている場合を除けば、金がなく生活が立ち行かなくなって自分や家族を奴隷として売りに出すとか、犯罪を犯して罰として奴隷に身を落とすかである。


 前者は奴隷と言っても人権は尊重され、メイドとか使用人に近いイメージらしい。

 他の種の奴隷と比べる際は通常奴隷と言う。

 暴力などは当然許可されておらず、もちろん性的な行為の強要も不可である。本人の元々持つ資産の没収なども不可能だ。主人が与えたものなどは回収する権利があったりするらしいが、それは奴隷による窃盗を抑制するためとのこと。

 奴隷と使用人の大きな違いはその職を続けるかどうかの権利があるかないかだ。職業として使用人をしている人は職場が嫌になったら辞めれば良いが、奴隷にはそう言った権利はない。奴隷として買われた以上はその人の所有物であり、所有されている以上辞める権利はないのだ。

 それでも辞めたい場合は、一定の資金を集めて人権を買い戻し、奴隷身分を脱却する必要がある。

 しかし、奴隷身分で十分な資金を集める事は不可能に近く、そう言った事例はほぼ無いようだ。


 後者は犯罪奴隷と言い、かなり扱いが酷くなるらしい。人権はほぼ無いに等しい。

 犯した罪の重さに合わせて1級から4級まで階級があり、4級は通常奴隷より少し悪い扱い程度だが、1級になれば、正直何でもありだ。

 聞いた話だと、殺してしまっても文句は言われないそうだ。

 1級犯罪奴隷に認定されるような者は相当の悪事を働いており、奴隷としての縛り、隷属魔術によってある程度の制限がかかっていても、何かしらの犯罪を起こす可能性も有り、それに対応するべく殺害の許可が出ているのだ。

 殺すための購入というのは一応許可されてはないそうだが、実際問題、購入直後にトラブルになったと言えば言い訳が立つそうだ。

 1級犯罪奴隷の多くは、魔術的投薬的医療の発展の礎になっているらしい。人体実験的な意味で。


 細かく言うと色々条件があるそうだが、大きく分けるとその二つである。

 後は性奴隷というのもあるが、これは普通奴隷の特殊枠だ。

 人権等は保障されるが、性的な命令は許可されている。

 普通奴隷より高値で取引されるため、家族のために身を売る娘とかが時々なるらしい。

 犯罪奴隷の場合は性奴隷という特別枠はなく、そもそもある程度の性行為は許可されており、性的な要求は許可される行為が階級によって変わるようだ。


 奴隷に関する知識はこんなものだったかな。

 最初の街で、奴隷制度があると聞いたとき詳しく聞いておいたのだ。

 もし自分が奴隷とかにされそうになったらと不安になって、確認したのだ。

 性奴隷に関する知識は完全に煩悩だけどな!


 しかし、アルシアードにもエルケンリアードにも奴隷商館は見られなかった。もしかしたら小規模のものが残っていたかもしれないが、大通りなどには存在しなかった。

 もしかしたらオ拓もめぐたんも元日本人ということで奴隷制度はあまり好ましく思っていなかったのかもしれない。ある意味では平和的なヤツ等だったからな。ある意味では。


 日本人的感覚で奴隷=可哀想=助けたいとなりがちだが、奴隷商館が悪いわけでも無いし、どうにもできない。

 アルトーラでは獣人奴隷を解放したけど、あれは違法に奴隷にしていたわけだし、基本的には奴隷には奴隷になる理由があるそうなので、いきなり奴隷を解放しますというわけにもいかないのだ。


「奴隷ねぇ……」

 メディーさんがなにかを考えている様子だ。

 絶対ろくなことではないと思う。

 が、あまり考えると疲れそうなので、奴隷商館について考えるのはそこまでにしておいた。

 その後は街中を色々と歩き回り観光したのだった。

 観光の途中でいかがわしい感じの裏通りを発見した。いわゆる夜の街だ。

 これは今度こっそり行ってみよう。


少しでも面白いと思って頂ければご評価・ブックマーク頂けると幸いです。

今後とも宜しくお願い致します。

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