1章 -12- 妖精さん、出撃。
「なっ!?」
この驚きの声は俺ではない。殴りかかってきた男のものだ。
その拳は俺の顔の10cm手前で見えない何かに阻まれていた。
「なんだこりゃぁ!」
男は焦っている。
俺も焦っていた。
マジで痛いかと思った。自動で防御できるなら最初から言っておいて欲しい。
『さきほど弓矢も防いでいましたが』
(確かにそうだけどさぁ)
遠距離攻撃は大丈夫な認識になってたけど、打撃系も大丈夫なのね。
内心冷や汗ダラダラだったが、表向き余裕を崩さない。
そこはダークマスターを語って妄想をしていたこともある中二病患者の能力だ。
「俺に攻撃が当たるとでも思ったのか?」
「くっ!?」
あわてて飛び下がる男。
同時に俺の背中に寄り添う南雲。俺の近くにいれば安心だと思ったのか。
背中にかすかに触れる二つの膨らみに、俺の理性も危険極まりないんだぜ!
てかどれだけ近づいてんの?
「古川……」
南雲らしからぬか弱い声。……やっぱりずるい。
そうとう怖がっているようだ。やっぱり日本語がわかるぶん、変に冷静に怖いのだろう。
「安心しとけ。なんならもう少しくっついて」
「…………」
背中の感触が離れた気がする。
まあ、それはいい。まずは目の前の野郎どもの対応だ。
「とりあえずおしおきだな」
(エルフの女の人を傷つけずに、男だけを無力化できるか?)
『余裕よ! アタシがあいつらの体内の水分操ってあげる』
今なんて言った?
相手の身体の中の水分を操るって?
何それえぐい。
『アタシも実体化していい?』
ミズキがルンルンで話しかけてくる。謎にヤル気だ。
(俺の魔力には余裕があるのか?)
『ぜんぜん大丈夫よ。さっきたっぷり吸収したじゃない』
なんなら今からでもまた吸えばいいとか。
なるほど。
俺の納得を待たずに、ミズキが顕現した。
また20cmくらいなのかと思っていたら違った。
普通に俺と同じくらいの身長の美女が立っていた。
やっぱり半透明だが、羽はない。長く青い髪に青色に輝く瞳。誰がどう見ても美人にしか見えないが、その表情はちょっとやんちゃな感じに笑っている。ワンピースのような光る布をまとっている。
「やっとこうして会えたわね!」
ミズキであろうその美女は、顕現するなり俺に抱きついてきた。
「おおっ?」
残念なのは温度も感触もないこと。ぶつかったような感覚はあるのだが、具体的な感触が伴わない。
「ちぇっ、接触はできないか……」
残念そうに離れるミズキ。俺もちょっと残念だ。
「な、何あいつ……」
背後の南雲が驚いている。
さっきのミザリーよりはるかに大きくて、普通に人間のサイズだ。それで半透明なのでイメージ的には妖精とかよりは幽霊っぽい感じに見えないこともない。怒られそうなので言わないけども。
「俺の頭の中にいた友達」
「何それ」
「何なんだろな?」
俺もわからん。
さて、ミズキが顕現してくれたわけだけど、確かに体内にあったエネルギー的なものが心なし減っている。
さっきのミザリーの時に比べてよりはっきりと分かった。魔力の残量ってやつはこの感覚なのだろうか?
とにかくまだまだ余力はありそうでひと安心。
そして目の前の結末に安心。
「悠太に喧嘩を売るとはいい度胸ね。アタシが遊んであげるわ」
そう言い放ったミズキは男たちに向かって片手を向けた。
本当にそれだけだった。
「なっ!?」
「何だこれ!?」
「身体が動かねえ!?」
男たちが口々に言い出した。
エルフの女性を捕まえていた男も、手を離し両手を挙げていた。
「伏せ」
犬に言うような言い方だ。
そう言いながら地面を指差すと、男たちは全員顔面から地面に倒れ伏した。
それは伏せではない。
「ふふふ。いいザマね」
完全に主導権を握っている。
体内の水分を操るって、もはや生物相手には無敵なのでは?
というか反則だろう。
「あんたは悠太に手を出したわね。水分を抜いてじわじわミイラにしてあげる」
調子に乗ったミズキはそんなことを言い出した。
エグすぎだろそれは!?
「ちょっ、待てお前!」
「ん?」
慌てて止める俺に不思議そうに振り返るミズキ。
「殺すなよ! ラブ&ピーーース!」
マジでやめて欲しい。
というか、こいつはヤンデレの気でもあるのか?
『ミズキは少し、そういうところがありますね』
脳内でこっそりカグラが教えてくれた。
「さっすが悠太。優しいわね」
俺に対してにっこり笑った後、倒れふす男に冷たい目で言い放った。
「悠太が許してくれるって。感謝しなさいよ」
こくこくこくこくと必死でうなずく男たち。もはや震えているように見える。実際震えていたのかもしれないが。
こうして転世人たちの襲撃は幕を閉じたのだった。
まだまだ続きます!
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