3章 -8- この世界の歴史
「なんでみんな知らないんだろうな?」
当然の疑問として口にした。
南雲もうんうんと頷いている。
「……そこなんだ」
ハリーがいっそう真剣な顔になった。
このイケメンが真剣な顔をするとマジっぽく見えるハズなのだが、印象のせいかまた勇者ごっこの続きかな?と思ってしまう俺がいる。
だが、ハリーの話す内容は実際に興味深かった。
「何故か誰も知らないんだ。500年前に大戦があった事はみな知っているが、その相手は遠く離れた地の人間だったと言われている。実際、僕たちもそう教えられていた」
500年前の大戦は人間同士の争いで、遠方から攻めてきた人族の大軍隊を退け今の平和があるという。
勇者も魔王も戦いには参加せず、それどころかその存在は御伽噺の中のもの。
この世界の常識として、皆が知っているのはそういう歴史だそうだ。
王都の住人たちも同様で、ハリーが知る限り王国の中ではそれが常識だったらしい。
しかし、ハリーが子供のころに忍び込んだ王都の王立図書館、秘蔵庫の伝記に書かれていたのは違う歴史だった。
ただの作り話のように見えるそれだったが、何故か、ハリーには真実のように感じられたそうだ。
当時は、教えられていた歴史が前提だったので、全部が真実だとは信じられなかったそうだが、それでも真実かもしれないという気持ちが何故か残ったそうだ。
それは子供が夢を見ただけだったのかも知れないが、その気持ちは今まで変わる事は無かったそうだ。
勇者の話をしても誰も信じてはくれず、笑われるばかり。それでもハリーは作り話だとは思えなかった。
それから今まで、その話を信じ、勇者に憧れ己を鍛えてきたのだと。
「わたしたちは、信じきっていた訳ではなかったのだけど……」
「まあ、ハリーがあまりに真剣だから、少しはそうなのかなって」
意外とハリーに対するエリーさんとマリーさんの信頼はあるらしい。
昔馴染みだし、ハリーは時々意味不明に正解を引き当てることもあって、割と賛同はしていたそうだ。
なるほどね。
え、てか、その意味不明に正解を引き当てるって、主人公補正じゃない?
「しかし、メディア・グリードの存在が実証された今、僕の知っている500年前の話が少なくとも全て嘘ではないと確信できた」
「そういえばこの間の魔剣も勇者の持ち物だったって話だよな?」
「そうだ。かの勇者が持っていた魔剣だ。あの姿は伝記の通りだったし、彼女が語った勇者の名、グレンガードも伝記にあったものだ」
ふーん。
なんか怪しいな。
何だこれ?
「あれ? そういえば、エルフたちは魔王は実在するって言ってたな」
エルフの村で困ってることがないか聞いた時にそんな話しがあったはずだ。
魔王は凶悪だがこの辺にはいないとかなんとか。
それに対して人間は勇者も知らなかった。ということは魔王も知らないんじゃないだろうか。
「なんだと? エルフ達は魔王の存在を認識しているのか?」
「ああ。前にそんな話を聞いたよ」
ハリー曰く、やはり人間にとって魔王の存在も御伽噺の中だという認識らしい。
なんかわからんくなってきた。
「なあ、メディー、勇者が実在してたってことは魔王も実在したんだよな?」
お皿に残ったグリーンピースを暇そうに潰していたメディーさんに聞く。
「ええ。いたわよ? 今でも何人かは生きているんじゃないかしら」
へー。
え?
何人もいるの?
魔王は強大な魔力を持った魔族の王だったそうだ。
そら種族の王なら何人もいるのだろう。人間だって国ごとに王様がいるのだ。
その中でも一際力の強い者が魔王と呼ばれたそうだ。
メディー曰く「それなりに」とのことだったが、彼女のそれなりはかなりだろう。
というか、魔族も存在するのか。
「……エルザ婆の話もそうだったわね。500年前の戦いは魔族と人間族と天人族との三つ巴だったと言っていたわ」
珍しくエルシアさんが話しに加わってきた。
そういえば、エルザ婆の話を聞いた時はメディーと空の島の話しかしてなかったな。
実際には魔族も含めた三つ巴で泥沼化した戦争だったのか。
「ん? なぜ貴女はそんな事を知っているんだ?」
ハリーが思わず素で聞いていた。
「………」
エルシアの視線がきつくなる。鋭い視線がハリーを射抜いた。
その視線の圧力にひっとハリーの喉が鳴る。
「っ! ……な、なぜご存知なのですか!?」
敬語になった。
というか、エルシアさん、厳しいな!
別に、“お前”とか言われたわけでもないのに。
勝負に負けてたら一生あんな感じの扱いだったのだろうか……。
姿勢を正し、敬語になったハリーから視線を逸らせたエルシアが答えた。
「私が、そこの女に地上へ落とされた一族の末裔だからよ」
一応会話はしてくれるようだ。
彼女もこの話題には興味があるのだろう。
興味が無いことにはどこまでもドライなエルシアさんだ。
珍しく参加してきたのだから、彼女も続きが気になるようだ。
「末裔?」
ハリーがこちらを見てきた。いまいち理解できていないようだ。
「あー、周りに認識阻害の結界を張ったから、見せてあげてよ」
俺たちの席を囲むように精霊さん仕様の結界を展開した。
これで周囲からの視線は無い。
というか、最初から音声が漏れないように結界は張ってくれていたようだ。
さすがの全自動精霊さんシステム。
「見世物ではないのだけど?」
「見せたほうが話しが早い」
「はぁ」
ため息一つ、彼女は自身の翼の認識阻害を取り払った。
純白の羽に覆われた綺麗な翼が姿を現す……ように見えたのだろう。
俺にはずっと見えてたのでよく分からない。
「て、天人族っ!?」
「うそっ!?」
「綺麗!」
エリーさんが目を輝かせている。
「天人族、という言い方はあまり自覚がないのだけど」
「エルシアは地上で生まれた世代らしいからね」
軽く事情を説明した。
エルシア自体、先日まで天人という話を信じていなかったしな。
空の島もまだ実物を見たわけでもない。
「な、なるほど」
突然のご紹介でハリーたちはかなり驚いていたが、なんとか事態は飲み込んだらしい。
「それで? その伝記には他に何か書いてあったのかしら」
エルシア様から続きを話せとの催促だ。
やはりクイーンの覇気は伊達じゃない。
ハリーは一瞬で姿勢を正した。
「え、ええ、いろいろと。かなり長い伝記だったので、全てを説明するのも難しいですが……」
ハリーがかいつまんで話をしてくれた。しっかり敬語で。
ことの始まりは魔族と人間族との激突から始まったらしい。そこへ天人族が漁夫の利を狙って横槍を入れ始め、三つ巴の泥仕合になったそうだ。そして勇者グレンガード一行の活躍により戦争は終結したと。
かなり長い伝記だったそうだが、戦争の終結までしか話はなく、その後から今までの歴史のつながりは分からないとのことだった。
「それ、グレンガードの自伝じゃないかしら。彼、自慢話が好きなようだったし」
話を聞いていたメディーがそう言った。
本はところどころ主観的な内容になっていたらしい。特に、勇者の活躍の部分が大々的に書かれているようだ。
そういえば、カラドボルグがメディーさんに獲られるくだりとかはカットされていたようだし……。
「あ、そういうタイプの人なのね……」
ちょっと勇者のイメージが崩れた。
強く勇ましい姿から、自分を演出し有名になろうと自伝を書いたり画策してる残念な人になってしまった。
「「「…………」」」
ハリー一行もしゅんとしている。
メディーさん、夢は崩しちゃだめなんだよ?
「ま、まあ、勇者の活躍自体は事実なんだから、いいんじゃない?」
一応フォローしておく。
誇大表現もあるようだが、おおむね事実らしいし。
ジャロに相談しなくても大丈夫じゃろ!
「そ、そうだな! 勇者の活躍は本当だったんだ!」
ハリーも自分を納得させたようだ。
しかし、おおむねの話しは分かったが、終戦後から今までの歴史がどうなったら500年前の話がすり替わるのだろうか?
そこが良く分からない。
人間、エルフ、有翼人で認識が異なっているのも謎だ。
まあ有翼人に関しては、エルシアたち若い世代が老人たちの話を作り話と一蹴していただけなんだけど。
となると、人間の話と、エルフ、有翼人の話が違うということか。
なんで人間の歴史だけ?
「わからんな。……とりあえず寝るか!」
お腹も満たされていい感じになったので、とりあえず寝ることにした。
「いきなりだな!? 話は終わってないぞ!?」
ハリーのツッコミを無視。
だって、気にはなるけど、ここで話をしてどうなるものでもない。
眠くなったのだから寝てしまおう。
話は明日でもできるのだ。
ちょっと書き溜まったので、連日更新してみます。
体力次第ですが、次話も早めに更新しようと思います。
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