3章 -7- ハリー再び
とりあえずベッドや備え付けの椅子におのおの座って一息いれる。
「しかし、あいつらもこっちに来てるとはなー」
「ほんとね」
なんか変に目立ってしまったし、身の危険(主に身内からの)を感じて心臓に悪い一日だった。
疲れたので食堂にも寄らずに部屋まで直帰してしまった。夕飯は後でいいか。まだ時間も早いし。
部屋割りは俺、南雲、メディーがダブルの部屋で、エルシアだけシングルの部屋だ。
今はみんなでダブルの部屋に集まっていた。
「魔力の刃を伸ばしていたら当たっていたかしら」
「ムダね。その程度じゃユータには当たらないわよ?」
横ではお姉様方が謎の反省会をしている。エルシアさんは誰と戦っていたんだ?
そういうのは俺の聞こえないところでやって欲しい。
メディーは完全に俺に当たらないと思っているようだが、エルシアは狙う気まんまんのようだ。
やっぱりこの人同行させたのは間違いだったのか……?
俺と南雲は隣り合って座った。
「あっちについて行かなくてよかったのか?」
俺は気になっていたので南雲に聞いてみた。
「はあ?」
南雲はさも理解できないと言った感じでそう返事した。
「なんであたしがあっちに行くのよ」
「いや、だってよくつるんでたメンバーだろ?」
クラスで見かけるいつものグループだった。
大体は高橋がメインで騒いで、それに皆がくっついている感じだったが。
「千佳はともかく、他はそれほど仲がいいってほどでもないわよ」
北条はわりと仲良かったそうだが、その他は正直さほどの付き合いは無かったのだとか。
そもそも、南雲と北条がセットで、そこに高橋が突撃、それにくっついて加賀たち男子グループや高橋に釣られた
佐藤たち女子グループがくっついている状態だったようだ。
そういえばもう一人ふわふわした感じの女子がいたはずだが、さっきは見なかったな。事故で死ななかったのかな?
ともかく、仲良しというよりは取り巻きといった感じだったのか。
なるほどな。
南雲の学校以外での付き合いは、北条か、モデル関係で知り合った人ばっかりだったそうだ。
まあ、確かに高橋グループの女子連中はバカっぽいのが多くて、俺もちょっと苦手だし。
分からないでもない。
「まあ、あんな感じだとまた会ったら絡まれそうだなぁ」
面倒そうだ。
なるべく会わないようにしよう。
しかし、勇者か。
「なあメディー。勇者ってあんなもんだったの?」
「グレンガードのことかしら? 彼ならもっとマシだったと思うのだけど」
やっぱりか。
武器や装備はグレンガードのそのまんまだったらしい。
しかし能力はかなり低かった。
たぶん俺の予想は当たっているのだろう。
強すぎる能力で暴走しないようにセーブがかけてあるのだろう。
どういう仕組みかは不明だが、今後高橋はもっと強くなるだろう。気をつけておこう。
今の段階でもこっちに来てから出会った身内以外で一番の素早さだった。
剣技はいまいちだったが、単純なスペックはダントツだ。
今後剣を鍛えて力を解放していけば、かなり強くなるのでは無いだろうか。
なにせ勇者だ。
エセ勇者のハリー君とはぜんぜん違うし。
あれ? そういえば、ハリーってその後どうなったのかな?
++++++
「やっと見つけたぞ……」
宿の食堂で夕飯を食べていると、ハリーご一行がやってきた。
くたびれているのは、ずっと俺を探し回って歩き回っていたからだろう。
今日の夕方、ハリーがその後どこに行ったのか気になって精霊さんレーダーで検索したら、意外と近くにいたことが分かった。たぶん近々来るだろうと思っていたところだった。
もちろんこちらから声をかけには行かなかったのだが。
エリーさんとマリーさんには申し訳ない。
「遅いぞハリー。ご飯が冷めちゃっただろ?」
むしゃむしゃしもごもごながら言う。美味い。
「それは食べずに待っていた人が言うセリフだよ!」
「むー、ユータくん、また見てた!?」
「こっちはヘトヘトなのよ!」
エリーさんとマリーさんもご立腹気味だ。
隣の席の人にどいてもらい、ハリーたちを座らせた。
隣の人たちはメディーの光る目を見たら親切にも譲ってくれたのだ。
いやホントに親切な人たちだった。うん。ホントごめんなさい。
「で、なんの用?」
なんかいつもハリーに探されている気がする。
こいつはルパ○を追いかける銭○のようなものなのだろうか。
今度とっつぁんと呼んでみよう。
「なんの用もなにも、前の話も終わってない上に、昨日のアレはなんだったんだ!?」
とりあえず昨日の事情は説明しておいた。
「なるほど、そんなことが……」
ハリーたちは獣人への差別意識などは持っていないようで、俺たち同様胸糞悪い連中に腹を立てていた。
「よくやってくれた」
一通り話を聞いたうえで、ハリーはそう言った。
なんか上からだな。どこの立場からの言い分なんだろうか。
まあいいけど。
「だが、最後のは何だったんだ? なんで僕たちに全部丸投げなんだ」
「そうよ。あれから大変だったのよ?」
エリーさんとマリーさんもぷりぷりしている。
「狼の獣人が暴れだすし」
「あー、あれは大変だったですね。でもハリーもしっかりしのいでたし……」
「見てたのかよ!」
「警備の人たちへの説明とかも頑張ってくれて……」
「見てたなら助けてくれよ!」
「あ、メディー、グリーンピース食べてね」
「……はぁい」
「話を聞いてくれ!」
なんだろう。何故かハリーはこういう扱いでいい気がしてしまうのだ。
「まあ、落ち着けって。これでも食べて」
「あ、ああ。ありがとう……って空じゃないか!?」
「美味しかったよ?」
「ならボクはこれの何を食べればいいんだ!?」
「皿とか?」
「食べれるか!」
うん。コントみたいで楽しいな。
南雲はちょっと笑っている。
以前はこういう時笑ってなかったが、御互い自分らしくという話の後は笑う時はしっかり笑う。
よしよし。
「うるさいのだけれど。静かに出来ないのかしら?」
ハリーで遊んでいると、横から御叱りを頂いた。
エルシアの静かな一言にはすごい圧がこもっている。
見た目クールで仕事の出来る美人社長みたいな人なのだ。ついつい謎に腰が低くなってしまいそうになる。
まあ確かに騒ぎすぎたかな? 主にハリーが。
「あ、す、すみません」
ハリーも美人のお姉さんに怒られてすぐに謝っていた。
腰が引けているので、俺と同じ印象を抱いているのだろう。
「と、ところで彼女は?」
そういえばまだ紹介はしていなかった。
瓦礫の山から出た時にも一緒だったが、紹介するような時間は無かったし。
「エルシアさん。いろいろあって同行してるんだよ」
とりあえず端的に伝えておいた。
詳しく事情を説明するのも面倒だし。
「エルシアさん。御美しい方だ。僕はハリー。宜しく」
ハリーは改まって挨拶をするも、エルシアは一瞥しただけで食事に戻ってしまった。
「………………」
ハリーはしょぼんとしてしまった。
「……ところで、君たちはリアレドル大森林を飛び越えてきたようだが、森では大丈夫だったのか?」
気を取り直してハリーが新たな話題を振って来た。
大丈夫じゃないよ。そこのお姉さんが大暴れで大変だったのだ。
わざわざ言わないけど。
「僕たちは森を迂回して進んでいたんだが、遠めに見てもわかるほどの爆発があった」
すごい真剣な顔でハリーが言った。
「あれは尋常じゃない爆発でした……」
「どれだけの魔力をこめればあんなことになるのかしら……」
エリーさんもマリーさんもうんうんと頷いている。
ハリーたちにも見えていたのか。
まあ、あれだけ派手にやれば、どこからでも見えたんだろうな。
ガルーたち獣人も見ていたし。
ハリーは身を乗り出してきて声を潜めて言った。
「ここだけの話、あの森には獣人だけでなく、背中に翼を持つ特殊な亜人が住んでいるという話だ。彼ら有翼人は魔力も非常に強く、獣人たちを圧倒し、征服しているという。もしかしたら彼らの手による爆発だったのかもしれない」
エリーさんとマリーさんもうんうんと頷いている。
「500年前の大戦の折、メディア・グリードという人物が崩天の魔女と呼ばれるようになったのもあの森に空の島を引きずり落としたからという記述があった。その記述が本当なら空の島にいた天空の住人たち、天人族が一緒に地上に落ちたはずだ。空を飛ぶ種だ。島が落ちても生き残りはいてもおかしくない。森の有翼人は天人族の生き残りなんじゃないかと考えている」
当初どこまでが事実なのかと考えていたが、メディア・グリードが実在したのだから、関連するそれらの記述も全て事実なのだろうとハリーは言った。
わお。メディーさん、やってることが歴史本に載ってるんだ。
「引きずり落としたなんて品の無い表現ね。うっとうしいから落としただけよ」
何気ない感じでメディーさんが言う。そこ、グリーンピースを避けない。
「「「………………」」」
ハリーたちは口をつぐんだ。
その顔には、やっぱり事実だったんだ!と書いてある。
彼らの知っている歴史書がどんなものかは不明だが、有翼人たちの話(エルザ婆さんの話)を考えてみても事実が書いてあったのだろう。
しかし、逆に考えると不思議だな。
500年前程度の大事件が、これほど認知されていないなんて。
ハリーたちも天樹の話は半信半疑だったらしいし。
いくら異世界とは言え、空から島と大樹が落ちてきて、そのまま根付いたとなれば大事件だ。近隣の街ではみんな知っていて当然のような気がする。それが500年前でも、森の中の話でも、必ず話は受け継がれているはずだ。
なのに知っているのは王国図書館秘蔵の歴史書をこっそり読んだハリーたちだけ。そんなことがあるのだろうか?
「なんでみんな知らないんだろうな?」
切るところをミスってちょっと長くなりました。
短い時と長い時がまちまちに……
文章・構成の下手さを感じる今日この頃。
生暖かい目で見守ってやってください。